「もど、りたい、よね」
怖かったって言ってるんだから、そう思うのが当然のこと。
なのに、どこかで今度はわたしが思ってしまっている。
――まだ、ここにいたい、って。
お母さんのご飯を食べたい。芹香ちゃんといっぱいいろんな話をしたい。
そして鳴海と……。
鳴海はイヤなヤツだって思っていた。
でもペアになって一緒に過ごす時間が増えて、芹香ちゃんの言う『イイやつ』って意味がちょっと分かってきた気がするの。
キツイこと言うし、意地悪って思うこともあるのに、どこか憎めなくて。
一緒に勉強する時間が嫌じゃないって思うんだ。
『勝手だってわかってる! リナに勉強押しつけておいてなに言ってるんだって。だけど、だけどあたし、戻れなくなるのはイヤ! ずっとここにいるのはイヤ。お母さんのご飯食べたい、芹香ちゃんに会いたいっ。学校、行きたいっっ』
うん、そうだよね。
心の底から絞り出すように訴える莉菜の言葉は、痛いくらいにわかる。
今わたしが思っていること、莉菜と一緒だ。
莉菜であって莉菜じゃない。でもやっぱり莉菜と同じなんだ。
だってそれらは全部、わたしが今、楽しいって思っているものだから。
『もう逃げたりしないっ。これからは勉強も頑張る! リナが頑張ってきてくれたみたいに、あたしもちゃんと頑張るっ。だからっっ』
「――うん。わかってるよ」
だってわたしは、本当の楠木莉菜じゃない。
【鏡の部屋】の住人であることが、わたしの本来の居場所だから。
『ごめんっ。リナ。あたし、勝手で本当にごめんっっ』
「謝らないで。だって、そもそも入れ替わるなんて体験できるはずじゃなかったんだよ。たった四日間だったけど、わたしにはすごく、すごく思い出になった」
こんな不思議、神様のイタズラだったのかもしれない。
そもそもわたしの存在自体が、本来ならありえないんだ。
起こるはずのなかったこの奇跡に、今は感謝でいっぱい。
だけど、だけど……。
「ひとつだけ。わがまま言ってもいいかな?」
莉菜のことを考えればこんなこと言うべきじゃない。
あふれる涙をぬぐいもしないで訴える莉菜に対して、ひどいかもしれない。
でもきっと、最初で最後のわがままだから。
一度だけ、言わせてほしい。
「……あと一日。あと一日だけ、このままで過ごさせてくれないかな。明日が終わったら、絶対に元に戻るから」
不安がっている莉菜にもう一日【鏡の部屋】で過ごせなんて残酷かもしれない。
だけどもう一度、この現実の鮮やかな色彩を目に焼き付けておきたい。
生身で伝わる匂いを、優しさを、触れる温もりを、感じたい。
『……もちろん』
本当なら今すぐにでも戻りたいと思っているだろうに、涙を浮かべた瞳で莉菜は笑顔を見せてくれた。
「ありがとう」
怖かったって言ってるんだから、そう思うのが当然のこと。
なのに、どこかで今度はわたしが思ってしまっている。
――まだ、ここにいたい、って。
お母さんのご飯を食べたい。芹香ちゃんといっぱいいろんな話をしたい。
そして鳴海と……。
鳴海はイヤなヤツだって思っていた。
でもペアになって一緒に過ごす時間が増えて、芹香ちゃんの言う『イイやつ』って意味がちょっと分かってきた気がするの。
キツイこと言うし、意地悪って思うこともあるのに、どこか憎めなくて。
一緒に勉強する時間が嫌じゃないって思うんだ。
『勝手だってわかってる! リナに勉強押しつけておいてなに言ってるんだって。だけど、だけどあたし、戻れなくなるのはイヤ! ずっとここにいるのはイヤ。お母さんのご飯食べたい、芹香ちゃんに会いたいっ。学校、行きたいっっ』
うん、そうだよね。
心の底から絞り出すように訴える莉菜の言葉は、痛いくらいにわかる。
今わたしが思っていること、莉菜と一緒だ。
莉菜であって莉菜じゃない。でもやっぱり莉菜と同じなんだ。
だってそれらは全部、わたしが今、楽しいって思っているものだから。
『もう逃げたりしないっ。これからは勉強も頑張る! リナが頑張ってきてくれたみたいに、あたしもちゃんと頑張るっ。だからっっ』
「――うん。わかってるよ」
だってわたしは、本当の楠木莉菜じゃない。
【鏡の部屋】の住人であることが、わたしの本来の居場所だから。
『ごめんっ。リナ。あたし、勝手で本当にごめんっっ』
「謝らないで。だって、そもそも入れ替わるなんて体験できるはずじゃなかったんだよ。たった四日間だったけど、わたしにはすごく、すごく思い出になった」
こんな不思議、神様のイタズラだったのかもしれない。
そもそもわたしの存在自体が、本来ならありえないんだ。
起こるはずのなかったこの奇跡に、今は感謝でいっぱい。
だけど、だけど……。
「ひとつだけ。わがまま言ってもいいかな?」
莉菜のことを考えればこんなこと言うべきじゃない。
あふれる涙をぬぐいもしないで訴える莉菜に対して、ひどいかもしれない。
でもきっと、最初で最後のわがままだから。
一度だけ、言わせてほしい。
「……あと一日。あと一日だけ、このままで過ごさせてくれないかな。明日が終わったら、絶対に元に戻るから」
不安がっている莉菜にもう一日【鏡の部屋】で過ごせなんて残酷かもしれない。
だけどもう一度、この現実の鮮やかな色彩を目に焼き付けておきたい。
生身で伝わる匂いを、優しさを、触れる温もりを、感じたい。
『……もちろん』
本当なら今すぐにでも戻りたいと思っているだろうに、涙を浮かべた瞳で莉菜は笑顔を見せてくれた。
「ありがとう」

