ミラー☆みらくる!

 登校後、いつもなら朝練のため部室に直行するんだけど、今日は違う。
 物音ひとつしない昇降口で、下駄箱から出した上履きを置く音が妙に響く。
 下駄箱をツツッと視線をずらして確認すると、【鳴海遥人】のところには、すでに運動靴が入っていた。

 もう、来てるんだ。
 鳴海にしてみれば巻き込まれているペアワークなのに、こんな朝早くから付き合ってくれるんだ。
 芹香ちゃんみたいに甘やかす気はないって言ってたけど、これは想像以上にめちゃくちゃスパルタ、とか。

 でも、それくらいの方がいいかもしれない。
 なんたって時間がないもんね。
 なりふり構ってなんかいられないし、鳴海が苦手だからなんて言ってられない。
 ぱんっ! と両頬に気合を入れて教室の後ろ扉を勢いよく開ける。

「おはよう」
 鳴海は自分の席じゃなくて窓際の一番前に座っていた。

「おせーよ」
 ぶっきらぼうに言うから、つい反論したくなる。

「鳴海が早すぎるんでしょっ。約束ピッタリだっつーの」
「まぁ遅刻はしてないな。早く座れよ」
 とんとん、と指で机を小突いて促されたのは、鳴海が座っている席の後ろ。
 ここ、芹香ちゃんの席だ。

「なんでこの席?」
「窓際の方が気持ちよくないか? 少しでも気分よく勉強できる方がいいだろう?」
「ここは芹香ちゃんだからいいって言ってくれると思うけど、鳴海が座っている席はすみれちゃんだよ」
「問題ないだろう? あいつも確か赤点組だし、きっと益子の教室かどこかで勉強してるさ」
 そっか。昨日、あれから話せていないものの、すみれちゃんだって頑張らないといけないもんね。

「それにわざわざペア交代してやったんだ。これくらいいいだろう」
 人が悪そうな笑みを浮かべた鳴海に、そういえばそうだったと思い出した。
 もともとは鳴海とペアを組むのはすみれちゃんだった。

「鳴海はなんでペア変わってあげたの?」
「そんなもん、見るからに甘ったるい空気出している奴らの邪魔なんかできるかよ」
「確かに、ラブラブだったねぇ」
 莉菜がまったく恋愛に興味ないから、そういう空気を感じたことなかった。
 色気より食い気だからなぁ。そんな莉菜を見てきたからすみれちゃんと益子くんの間に流れる空気はすごく新鮮に映る。

「ほら、無駄話はそこまでだ。ちゃんと昨日帰ってから勉強してきたんだよな?」
「もちろん!」

 自信たっぷりに言い切れるくらいノートにびっしりと書き続けた。
 足と体力には自信あるけれど、腕は普段使わない筋力だからちょっと疲れているくらい。