爆走令嬢アンナの「規格外」な無双劇 〜婚約破棄され失恋しましたが、私の物理(拳)でどうにかします〜

ゼノ様はわたしを助けてくれる時、決まってこう言った。

『大丈夫。僕がいるから』

幼いゼノ様は、当たり前のようにそう言い笑っていた。

『アンナ、こっちだよ』

振り返って笑うゼノ様の姿は、太陽みたいに眩しかった。

わたしが泣けば、必ず駆け寄ってくれる。
わたしが笑えば、もっと笑ってくれる。
わたしが困れば、どんな魔法でも使って助けてくれる。

その全部が、幼いわたしにとっては当たり前だった。

『アンナは僕が守るよ』

そう言ってくれた日のことも、夢の中で鮮明に蘇った。

小さな手で、わたしの手をぎゅっと握ってくれたあの感触。
胸が温かくなるような、くすぐったいような、あの気持ち。

あの頃のわたしは、ゼノ様がずっと隣にいてくれると信じていた。

ずっと笑ってくれると信じていた。
ずっと手を伸ばしてくれると信じていた。

……だから。

夢の中のゼノ様が優しければ優しいほど、現実のゼノ様の「別れよう」という言葉が胸に刺さる。

夢の中わたしは笑っていたのに、現実のわたしは泣いている。
幼い頃のゼノ様は手を伸ばしてくれたのに、現実のゼノ様は背を向けて歩いていった。

その差が、胸の奥をじんわりと締めつける。

「……ゼノ様……」

夢の中の幸せが、現実の痛みをより鮮明にしていく。

わたしは夢の中で笑っていた幼い自分を思い出しながら、再び眠りについたのだった。