爆走令嬢アンナの「規格外」な無双劇 〜婚約破棄され失恋しましたが、私の物理(拳)でどうにかします〜

夢を見た。
幼い頃の楽しい夢。

わたしはカーテンが揺れるかすかな音で、その幸せな夢から覚めた。

どれくらい眠っていたのかわからない。
ふと窓の外を見ると、カーテンに覆われたように、空は漆黒に染まっていた。

静かな部屋に、わたしの小さな吐息だけが響く。

胸の奥がまだ痛い。

夢の中の、幼いゼノ様の笑顔と現実のゼノ様のあの表情が交互に頭に浮かぶ。

「夢、か」

その声は驚くほどかすれていた。

夢なのに、何故かはっきりと思い出せる。

けれど、何故なのか、自分でも理由はわかっていた。

記憶だからだ、きっと。
わたしはゼノ様と一緒だった記憶は、一欠片もなくさないで大切に持っている。
どんな、些細なことでも。

夢の始まりは、ゼノ様をわたしの婚約者として紹介されたところから。

『アンナ。貴女の婚約者のゼノ君よ』

そう言って、母親に紹介された。

当時はまだ4歳。

婚約者の意味もわからなかったけど、新しい友達ができたと思ってとても嬉しかった。

毎日わたしの家に遊びに来てくれるゼノ様。

わたしが失敗しても、必ず『大丈夫?』と言って笑って手を差し伸べてくれる。

そんなゼノ様の魔力は昔から強かった。

わたしを楽しませるために、新しく魔法を覚えてきて披露してくれることも少なくなかった。

そして、わたしはいつの間にかゼノ様に惹かれていた。

幼い頃も、優秀で格好良いゼノ様の後ろ姿を一生懸命追っていた。

次の場面は二人で庭でピクニックをしていた。

使用人がわたしたちから少し目を離した途端、事件が起こった。