爆走令嬢アンナの「規格外」な無双劇 〜婚約破棄され失恋しましたが、私の物理(拳)でどうにかします〜

僕はエボリューション家の入口から、アンナの姿が見えなくなった庭をしばらく見つめていた。

胸の前で握った拳が、小さく震えている。

「……ごめん」

誰にも聞こえない声で、そう呟いた。

アンナは、恋人というより、家族だった。

幼い頃から隣にいて、泣けば手を引き、笑えば一緒に笑った。
危なっかしい彼女の手を、ずっと引いてきた。

気づけば、彼女がそこにいることが当たり前になっていた。

だからこそ、守れない自分が許せなかった。

アンナは魔力がほとんどないのに、誰より前に出て、誰より人を助けようとする。

その優しさが、時に無謀で怖かった。
怪我をするたびに胸が締めつけられ、無茶をするたびに心臓が跳ね上がって胃が痛くなる。

「……僕じゃ、君を守れない」

僕は視線を落とし、深く息を吐く。

婚約者として隣にいる資格が、自分にはない。
恋人としての未来を描けるほど、強くも器用でもなかった。

けれど、アンナを大切に思う気持ちは本物だった。
家族のように、友達以上に、特別だった。

だからこそ、別れを告げた。
アンナの未来のためだと、そう信じたかった。

突き放してしまったという後悔が募った胸は、決して軽くはならなかった。

「アンナ……どうか、幸せに」

その願いだけが、震える胸の奥に残っていた