爆走令嬢アンナの「規格外」な無双劇 〜婚約破棄され失恋しましたが、私の物理(拳)でどうにかします〜

そのアンナの姿を、学園内が一望できるSクラス専用のテラスバルコニーから、元婚約者のゼノ・ストラテギウスは終始眺めていた。

「……信じられない」

バルコニーの手摺を思わず強く握りしめ、ゼノは呆然と呟く。

彼が知る学院でのアンナは、危なっかしかったものの、魔力の話題になると申し訳なさそうに自分の後ろで俯く少女だった。

それがどうだ。
今、広場の中心で魔法を素手で粉砕し、ひび割れた石畳の上で太陽のように笑っている。

婚約破棄した日から、彼女を纏う雰囲気は明らかに変わっていた。

それに加えて、あの頃のアンナに魔力を霧散させるほどの力はなかったはずだ。

長期休暇中に、大きく変わってしまったのだ、と痛感する。

「中級魔法を……風圧だけで? そんなこと、できるわけ……」

言葉が途中で途切れる。

アンナが楽しそうに駆け出すその一瞬、ゼノは思わず目を奪われてしまった。

だが、アンナが走るたびに地面がわずかに震えるのを感じて、ゼノの胃の奥がキリッと痛む。

「……ほんとに、無茶ばっかりだよ……」

呟きは、怒りでも呆れでもなく、どうしようもない心配と戸惑いが混ざった声だった。

人混みから抜けてこちらへ向かってくるアンナたち。

一歩ごとに伝わる振動に冷や汗をかきながらも、ゼノはアンナから目を離せなかった。