「行きたい店があったら言って」
「うん……いや、あのね。話したいことがあるんだ。ちょっとだけ付き合ってくれない?」
「? いいけど。何だよ、改まって」
千聖くんは不思議そうな顔をして、わたしについてきた。
コーヒーチェーン店のカップを持った若いカップルとすれ違う。
エスカレーターの前を通り過ぎ、花の形のソファが置かれたスペースで止まる。
ソファには誰も座っていないし、周りには誰もいない。
二人で話すには都合が良かった。
「座ろう」
「? うん」
相変わらず不思議そうな顔で、千聖くんがソファの花びらの一つに座る。
わたしも彼の隣に座った。
「話したいことって言うのはね。お礼を言いたかったんだ」
「なんの? おれ、何かしたっけ? あ、昨日のドライヤー?」
「じゃなくて。いや、髪を乾かしてもらったのは嬉しかったんだけど」
付け加えてから、わたしは迷いを振り切って、千聖くんと目を合わせた。
「昨日の夜、リビングでお父さんと話してたでしょ。ごめん。聞いちゃった」
昨日の夜、わたしは荷解きで疲れていた。
でも、新生活による興奮のためか、なかなか寝付けなかった。
キッチンでお茶でも飲もうかな。
そう思って、皆を起こさないようにそっと扉を開けて、部屋を出た。
廊下を歩いていたら、聞こえてきたのだ。
リビングで千聖くんとお父さんが話している声が。
――あのさ、誠二さん。頼みがあるんだけど。
――なんだい、千聖くん。改まって。
――母さんと優夜を泣かせるようなことはしないでください。
千聖くんはお父さんに頭を下げた。
――おれは泣いてる母さんを見たくないし、怯えてる優夜も見たくないんです。
あんなに真剣な千聖くんは初めて見た。
見てはいけないものを見たような気がして、わたしは慌てて自分の部屋に引き返した。
それから眠りにつくまでずっと、わたしは千聖くんのことばかり考えていた。
「うん……いや、あのね。話したいことがあるんだ。ちょっとだけ付き合ってくれない?」
「? いいけど。何だよ、改まって」
千聖くんは不思議そうな顔をして、わたしについてきた。
コーヒーチェーン店のカップを持った若いカップルとすれ違う。
エスカレーターの前を通り過ぎ、花の形のソファが置かれたスペースで止まる。
ソファには誰も座っていないし、周りには誰もいない。
二人で話すには都合が良かった。
「座ろう」
「? うん」
相変わらず不思議そうな顔で、千聖くんがソファの花びらの一つに座る。
わたしも彼の隣に座った。
「話したいことって言うのはね。お礼を言いたかったんだ」
「なんの? おれ、何かしたっけ? あ、昨日のドライヤー?」
「じゃなくて。いや、髪を乾かしてもらったのは嬉しかったんだけど」
付け加えてから、わたしは迷いを振り切って、千聖くんと目を合わせた。
「昨日の夜、リビングでお父さんと話してたでしょ。ごめん。聞いちゃった」
昨日の夜、わたしは荷解きで疲れていた。
でも、新生活による興奮のためか、なかなか寝付けなかった。
キッチンでお茶でも飲もうかな。
そう思って、皆を起こさないようにそっと扉を開けて、部屋を出た。
廊下を歩いていたら、聞こえてきたのだ。
リビングで千聖くんとお父さんが話している声が。
――あのさ、誠二さん。頼みがあるんだけど。
――なんだい、千聖くん。改まって。
――母さんと優夜を泣かせるようなことはしないでください。
千聖くんはお父さんに頭を下げた。
――おれは泣いてる母さんを見たくないし、怯えてる優夜も見たくないんです。
あんなに真剣な千聖くんは初めて見た。
見てはいけないものを見たような気がして、わたしは慌てて自分の部屋に引き返した。
それから眠りにつくまでずっと、わたしは千聖くんのことばかり考えていた。

