――暗闇の中で、誰かの泣き声が聞こえる。
誰の声だろう。
聞いたことがあるような……ないような。
――優夜くん?
ふと思い浮かんだのは、仲良しの一つ年下の男の子。
成海優夜くんとわたしは同じマンションに住んでいる。
わたしが301号室で、優夜くんが302号室。
わたしたちは同じ小学校に通う仲良しの幼馴染だった。
だんだん視界が明るくなっていく。
四隅が白くぼやけた視界に映し出されたのは、見覚えのある風景。
わたしたちが住んでいるマンションのエントランスだった。
曇り空の下、マンションを出てすぐのところにある花壇の縁に座って、小さな男の子が泣いている。
――えっ、千聖くん?
泣いているのは優夜くんではなく、優夜くんのお兄ちゃん。
わたしと同い年の千聖くんだった。
すごくびっくりした。
だって、千聖くんが泣いているところなんて初めて見た。
友達と取っ組み合いの喧嘩をしたときだって、公園のジャングルジムのてっぺんから落ちたときだって、彼は泣かなかった。
いや、ジャングルジムから落ちたときは、ちょっぴり涙目になってたけど。
「どうしたの、千聖くん」
わたしの言葉に反応して、千聖くんは顔を上げた。
涙で濡れた大きな茶色の目が、困惑顔のわたしを映し出す。
「優夜が……優夜がお父さんに連れて行かれたぁ」
そう言って、千聖くんはまた泣き出した。
わたしは頭を殴られたような衝撃を受けた。
千聖くんの両親の仲が悪いのは知っていた。
わたしたちが幼稚園に通っていた頃、千聖くんのお母さん――麻弥さんは、顔にガーゼを貼っていたことがある。
「転んでテーブルにぶつけたんです」
麻弥さんは幼稚園の先生にそう説明して笑ってたけど、本当は違う。
「転んでなんかない。あれはお父さんにコップをぶつけられて出来た怪我なんだ」
千聖くんは園庭で作った砂のお城を壊しながら、口をへの字に曲げて、わたしだけにこっそり教えてくれた。
誰の声だろう。
聞いたことがあるような……ないような。
――優夜くん?
ふと思い浮かんだのは、仲良しの一つ年下の男の子。
成海優夜くんとわたしは同じマンションに住んでいる。
わたしが301号室で、優夜くんが302号室。
わたしたちは同じ小学校に通う仲良しの幼馴染だった。
だんだん視界が明るくなっていく。
四隅が白くぼやけた視界に映し出されたのは、見覚えのある風景。
わたしたちが住んでいるマンションのエントランスだった。
曇り空の下、マンションを出てすぐのところにある花壇の縁に座って、小さな男の子が泣いている。
――えっ、千聖くん?
泣いているのは優夜くんではなく、優夜くんのお兄ちゃん。
わたしと同い年の千聖くんだった。
すごくびっくりした。
だって、千聖くんが泣いているところなんて初めて見た。
友達と取っ組み合いの喧嘩をしたときだって、公園のジャングルジムのてっぺんから落ちたときだって、彼は泣かなかった。
いや、ジャングルジムから落ちたときは、ちょっぴり涙目になってたけど。
「どうしたの、千聖くん」
わたしの言葉に反応して、千聖くんは顔を上げた。
涙で濡れた大きな茶色の目が、困惑顔のわたしを映し出す。
「優夜が……優夜がお父さんに連れて行かれたぁ」
そう言って、千聖くんはまた泣き出した。
わたしは頭を殴られたような衝撃を受けた。
千聖くんの両親の仲が悪いのは知っていた。
わたしたちが幼稚園に通っていた頃、千聖くんのお母さん――麻弥さんは、顔にガーゼを貼っていたことがある。
「転んでテーブルにぶつけたんです」
麻弥さんは幼稚園の先生にそう説明して笑ってたけど、本当は違う。
「転んでなんかない。あれはお父さんにコップをぶつけられて出来た怪我なんだ」
千聖くんは園庭で作った砂のお城を壊しながら、口をへの字に曲げて、わたしだけにこっそり教えてくれた。

