それでは喜んで“傾国の悪女”となりましょう~欲に溺れた哀れな皆様、いつまで私のことを利用できるとお思いですか?~

 思い出したのは、前世。私は日本の児童養護施設で育ち、親の顔を覚えていなかった。
 成人してから聞いた話では、母親が霊感商法詐欺の主犯で捕まり、生後半年で施設に入ったらしい。元々、母子家庭ではあったようだ。
 そんな私には、中学で知り合った親友がいた。両親が健在で、年上彼氏と結婚後、長く専業主婦をしていた。
 前世の私の趣味は、登山とハンドメイド。ハンドメイドでは、主にアクセサリーを作るのが好きだった。
 私の作る作品を見た親友は、大絶賛。販売を勧める親友に後押しされ、私は経理の仕事をしつつ、アクセサリー販売を始めた。
 楽しかった。特に兼業から専業になった後は、天職だと思ってのめり込んだ。アクセサリーパーツ用のアンティーク素材を、わざわざ海外で買いつけたりもした。
 海外には、治安が悪い場所もある。だから護身術も習った。
 顧客が年々増えた四十代の頃。子育てが一段落した親友が手伝うと言ってくれ、法人化に向けて動いた。
 けれど計画が進んだ時、絶望を味わうことになる。
 親友が資金を持ち逃げ。その上、私が盗作したと、ネットで嘘を拡散したのだ。
 冤罪は立証できる。けれど一度落とされた信用や、拡散された嘘は消せない。
 それよりも親友は、どうして最低最悪な裏切りを……。
 悩んで悩んで、不眠症になり、あまりのショックに、引きこもった。
 そんな時、不意にビジョンが()えた。目は開いていて、一瞬、白昼夢かと思った。
 実は当時、古株の顧客限定で、リメイク依頼を受けていた。顧客から預かっていた宝石に、親友が手を出そうとしている。そんな光景だった。
 まさかと思いつつも、霊感商法で捕まった母親の家系が、実は霊能家系だったことを知っていた私は、確証を得ないまま、しかし本能的に真実だと確信して、工房に向かう。
 すると親友が、警備員に捕まっていた。
 親友には、工房に警備会社のセキュリティを入れていることを伝えていなかった。法人化に伴い、工房を移す予定にしていたからだ。親友にとって完全に、予想外の事態だったろう。
『私が子育てで大変だった時、アンタは、趣味を楽しんでた! やっと子育てが終わったら、今度は姑や親の介護! 昔は孤児のアンタがかわいそうだって、憐れんであげてた! でもアンタはひとり、のびのび生きて、今じゃ成功しようとしてる! 妬ましくて仕方なかった! アンタみたいな人間に、私の気持ちなんて、わかんないでしょう!』
 衝撃的かつ、自分勝手な理由に、目の前が真っ暗になった。
 それでも数十年来の付き合いだ。親友と過ごした日々が、すべて悪意に塗れていたとは思いたくなかった。
 だから私にかけた冤罪を自ら晴らすのと、このまま窃盗で裁判にかけられるのと、どちらがいいか選ばせた。
 結果は、裁判になった。親友は、私を憎み続ける方を選んだ。
 虚しさを抱えたまま、悲しい時の私のお決まり、山登りをした。山頂で心の向くまま叫んでいると、心が軽くなり、前を向けるようになるから。
 一度だけ、ハンググライダーもやった。ハンググライダー中に絶叫したら、顎関節症になりかけた。生涯、二度としなかった。
 親の愛を知らず、児童養護施設で育った私に、親友の言葉は理解できない。
 二十代後半から四十歳直前まで、保護犬だった秋田犬を飼い、看取っていたから、家族というものを少しは理解していたつもりだったけれど……。
 私と違い、親友には支えてくれる家族がいる。嫌なら嫌だ、助けてほしいと家族に言えば……ううん、せめて私を頼ってくれれば。
 けれど確かに、兆候はあった。時々、暗い表情で家族の愚痴を聞かされていた。
 私なりに助言はした。決まって『アンタには家族がいないから』と返されても。
 私は、どうすればよかったの? なにが悪かった?
 悶々とした気持ちで無心に歩いていた時、霧が立ちこめていることに、初めて気付いた。
 いつの間に、登山ルートから逸れていたんだろう?
 暫く木々の間を彷徨(さまよ)っていたら、一瞬、霧が深くなって視界が奪われた。
『きゃあっ』
 足を踏み外して、穴に落ちた。足の骨が砕ける感覚と、わずかな臭気を一瞬感じたものの、その時は生きていた。
 けれど夜が更けたところで、記憶がふつりと途切れている。