隣の席が、一番遠かった

放課後、いつもの帰り道。
私は隣を歩く冴と会話もせず、ただ足元を見つめて歩いていた。どう切り出していいのか、言葉が喉の奥で渋滞している。
​今までずっと言えなかった。誰かに口にしてしまったら、それが取り返しのつかない「事実」になってしまう気がしたから。全部、私の気のせいであってほしかった。
​でも、私から切り出すべきだ。
このまま黙って家に帰ってしまったら、明日も、その次の日も、私は何も変われない。
​「……そうか。魔法が解けないんじゃないんだ」
​ポツリと独り言が漏れる。
解けないんじゃない。私が自分にかけていたんだ。瀬戸を好きなままでいたいっていう、苦しくて、甘い、自分勝手な魔法を。
​「……莉奈?」
​冴が心配そうに私を覗き込む。
​「あ、ううん。……話すのが遅くなってごめん、冴。何回も聞いてくれたよね。『なんか悩んでない?』とか『瀬戸となんかあったよね』って。……ありがとう。私のために、心配してくれて」
​「バシッ!」
​突然、背中に衝撃が走った。
「痛っ……!」
「何、感動系にもっていこうとしてるの。私は怒ってるんだからね」
​冴が少し目を潤ませながら、でも強い口調で言った。
「親友だと思ってたのは、私だけだったのかなって思っちゃうじゃん」
​「ごめんって! 今から話すから! ……っていうか、冴こそ今、感動系にもっていこうとしてたでしょ?」
「うるさい! で? 何があったの?」
​冴の少し強引な優しさに背中を押されて、私はようやく深く息を吸い込んだ。
​「……うん。あれは、中学一年生の冬」