乙女ゲームの世界に転生しちゃったんですけど~ヒロインは恋のライバルです!?~

 教室に戻ると、拓馬の熱烈なファンである吉住《よしずみ》さんが、傍にいたわたしを跳ね飛ばすようにして拓馬の手を取った。
「黒瀬くん! 大丈夫だった!? 怪我の具合はどう!? なんて痛々しい姿になって……!」
 目を潤ませながら、吉住さんは拓馬の頬のガーゼを撫でた。
 吉住さんの取り巻き二人もまた、駆け寄って拓馬の周りを固める。
「お、姫だ」
「姫が帰って来たぞ」
 数人の男子生徒が拓馬を見て軽口を叩いた。
 教室にいるほとんどの生徒たちは談笑に興じているけれど、何人かは拓馬たちの様子を遠巻きに眺めている。
 わたしの友達の中村由香《なかむらゆか》ちゃんも、自分の席から心配そうにわたしを見ていた。
「うん、大丈夫」
 やんわりと吉住さんの手を払いながら、拓馬が答えた。
「腫れてるから一応湿布してガーゼしてるだけで――」
「まああ、腫れてるですって、大変! その美しい顔が腫れるだなんて、人類の損失だわ! それというのも……!」
 吉住さんたちから一斉に睨まれて、わたしはびくりと身を揺らした。
「野々原さん、あなた、自分が何をしたのか自覚はあるんでしょうね! あなたのせいで黒瀬くんは大怪我を負い、わたしたちだって授業どころじゃなくなったわ!」
「……ごめんなさい」
 わたしは頭を下げたけれど、その程度のことでは彼女たちの怒りは解けなかった。
「まあ、白々しい! 本当に悪いと思っているならちゃんと皆の前で謝りなさいよ! 誠意を見せなさい!」
「そうよ、土下座でもしたらどう?」
「黒瀬くんの顔を傷つけたんだもの、それくらいして当然――」
「おい」
 容赦のない糾弾をただ一言で止めたのは、他ならぬ拓馬当人だった。
「黙って聞いてれば、部外者が勝手なこと言ってんじゃねえよ。野々原は授業が終わった後、保健室にすっ飛んできておれに謝罪した。誠心誠意謝られたからこそ、おれも許した。それで解決したっていうのに、なんでお前らがぎゃあぎゃあ騒いでるわけ? 一体何の権利があって野々原に謝罪を要求してるんだ? なあ、何様のつもりなんだよ」
 拓馬は強烈な怒気のこもった眼差しで吉住さんたちを怯ませた。