乙女ゲームの世界に転生しちゃったんですけど~ヒロインは恋のライバルです!?~

 放課後。
 わたしは特別校舎の裏手に立っていた。
 これから拓馬に告白するつもりなんだけど、それほど緊張はしていない。
 相手に恋人がいて、きっぱりフラれるとわかっている以上、ドキドキしたって全くの無意味だ。
 ふと苦笑が口元を掠めた。
 ほんの数日前までは乃亜に闘志を燃やし、絶対負けない、なんて思ってたのに、現在はこの体たらく。全く情けない。
 でも、しょうがないよね。
 何せ、戦う暇すら与えてもらえなかったんだもの。
 まさか転校初日で二人が付き合い始めるとは。
 悲しいし、少しだけ悔しくもあるけれど、現実を認めなきゃいけない。
 拓馬は乃亜を選んだんだ。わたしじゃなかった。
 わたしじゃダメだった。
 目頭が熱くなり、わたしは急いで空を見上げた。
 拓馬と見た夏の星空を思い出す。
 乃亜と出会った夏祭りから六日後の、八月十三日のこと。
 今日はペルセウス座流星群が見れるんだって、と拓馬がラインで教えてくれた。
 一緒に見る? と誘われて、わたしは即座に頷いた。
 日付が変わる頃、わたしたちは公園の広場にビニールシートを広げ、仰向けに寝転がって空を見た。
 天体観測の途中、わたしたちは缶ジュースを飲んだ。
 あの日飲んだジュースは信じられないくらい美味しかった。
 天気が微妙だったこともあって、肝心の流れ星は数回しか見ることができなかったけど、そんなの全然構わなかった。
 ぼうっと空を見上げてる無防備な横顔を見て、このまま時間が止まればいいのに、なんて密かに願っていたことを、拓馬は知らないだろう。
 足音が聞こえて、わたしは空から地上へと視線を転じた。
「話って、何」
 拓馬がやってきた。
 彼との距離は二メートルもない。
 でも、手を伸ばしても届かない距離だ。
「ごめんね。わざわざ呼び出して」
「……別にいいけど」
 拓馬の表情は特にない。怒ってもいないし、笑ってもいない。
「あのね。拓馬。わたし」
 切り出すには一拍の間が必要だった。
 息を吸って、拓馬の目をまっすぐに見つめて、言う。
「拓馬のことが好きだった。初めて出会ったときから、ずっと……ずっと好きでした」
 脳裏に拓馬との思い出が次々蘇る。
 いまでもその全てを鮮やかに思い出せる。
「――――」
 わたしはさらに口を開きかけて、閉じた。
 本当は胸に滾る熱い想いの全てをぶつけたい。
 どんなに拓馬のことが好きだったか伝えたい。
 叶うことなら乃亜と別れて、と叫びたい。
 わたしを選んで、と。
 泣いて喚いて、縋りつきたい。
 でも、それがどんなに拓馬を困らせるかわかるから、言えるわけがない――。