乙女ゲームの世界に転生しちゃったんですけど~ヒロインは恋のライバルです!?~

 九月に入ってから、放課後は文化祭の準備期間にあてられている。
 わたしたちのクラスは講堂で白雪姫の演劇をやることになり、わたしは由香ちゃんと共に衣装係になった。
 王子役は拓馬だ。吉住さんに熱く推薦された拓馬は「おれは大道具係とか、目立たないやつがいいんだけど」と全く乗り気ではなかったんだけど、他の女子からもごり押しされて渋々引き受ける羽目になった。
 王子役が決定してからというもの、主役の白雪姫には十人もの女子が名乗りを上げた。
 熾烈なジャンケン戦争の果てに見事その座を勝ち取ったのは吉住さんだ。
 彼女は二学期になっても変わらず拓馬を愛している。
 でも、乃亜が拓馬と談笑してても皮肉や嫌味を言う素振りはなかったな。
 わたしにはあんなに突っかかって来たのに。
 やはり乃亜には強力なヒロイン補正がかかってるようだ。
 吉住さんにも無意識のうちに「乃亜なら仕方ない」と思わされているのかもしれない。
 作業に没頭している間に、下校時間となった。
 駅はわたしのアパートとは違う方向なので、由香ちゃんとは大通りでお別れだ。
 気を付けてね、と由香ちゃんに声をかけて、わたしはすっかり暗くなった夜道を歩いた。
「…………ふう」
 一人になった途端、これまで考えないようにしていた不安が頭をもたげる。
 拓馬は放課後、学校案内をしながら乃亜とどんな話をしたんだろう。
 まさかもう付き合うようになったとか……まさか。まさかね。
 転校初日でそんなこと……あり得るから恐ろしい。
「……そもそもなんで現れたのよ。意味がわからない」
 彼女の登場は半年以上も先だったはずだ。
「もう完全にわたしの知っている『カラフルラバーズ』の世界じゃない。大福とか、神さまとか。わからないことばっかり……そもそも神さまって何なの。乃亜の守護神? 大福はその使いだったってこと?」
 夜空に瞬く星を見上げても、答えは出ない。
「……敵とか味方とかどうでも良かったのに。傍にいてくれるだけで良かったのに……」
 額に書かれた下手くそな『神』の文字、つぶらな黒い目、細い髭、ふわふわな白い毛並み、小さな手足。
 どうして大福は帰ってこないんだろう。
 神さまに何かされたのかな?
 もう二度と会えないの?
 切なさがこみ上げ、泣きそうになったときだった。