乙女ゲームの世界に転生しちゃったんですけど~ヒロインは恋のライバルです!?~

 拓馬と「じゃあまた明日」と微笑んで別れ、玄関の扉の鍵を閉めたその瞬間、
「大福ーっ!!」
 わたしは廊下を突進し、自分の部屋の扉を勢い良く開けた。
「なんだよ悠理、うるさいな」
 大福は巣箱から出てきて、眠そうに前足で目を擦った。
「花火大会の会場に乃亜が現れたの」
 言い終わって、わたしは大福の一挙手一投足を見逃すまいと目を凝らした。
 神の使いを名乗り、乃亜の味方を公言している彼が乃亜と裏で繋がっているなら、当然乃亜の登場を知っていたはずだ。
 けれど。
「………………えっ?」
 大福は耳を立て、目を真ん丸にして固まった。
「乃亜が? 嘘だろ!? なんでだっ!? 藤美野の夏祭りに来るなんて、オイラ聞いてないぞ!?」
 大福は大慌てで両前足を振った。
「でも本当にいたんだよ! この目で見たもん!」
 わたしは前屈みになり、ハムスターに顔を近づけた。
「屋台が出てる川沿いの道を拓馬と歩いてたら、乃亜が飛び出してきた子どもにぶつかって、拓馬のズボンにジュースをかけちゃったの! 乃亜はほんのちょっとの交流だけで拓馬を魅了してた! 拓馬、初対面であの子可愛いねって言ったんだよ!?」
「そりゃお前がモブで乃亜がヒロインだからだよ。初めから好感度の高さが違うんだよ」
「ズルくない!? やっぱり乙女ゲームのシステムってズルくない!? 戦うとは決めたけど、最初から思いっきり不利なんですけど!?」
「仕方ないだろ、全てはヒロインのために存在するんだよ。拓馬も幸太も、有栖も陸も聖一《せいいち》もな……ていうかいまはモブとヒロインの待遇格差について議論してる場合じゃないだろが!」
 はたと我に返ったらしく、大福は大きな声を出して両手を振った。
「何がどうなってるのか神さまに直接聞いてくる!」
「えっ。ちょっと、大福?」
 大福の姿が消えた。
 それから何日も過ぎて、夏休みが終わっても。
 八月が終わって、九月が始まっても、大福は帰ってこなかった。
 ――そして、九月九日、月曜日。
「神奈川から転校してきました。一色乃亜です。よろしくお願いします」
 大福を失ったわたしの前に、その少女は再び現れた。