乙女ゲームの世界に転生しちゃったんですけど~ヒロインは恋のライバルです!?~

「…………」
 じんわりと目の奥が熱くなる。
 ずるい、と思う。
 拓馬はいつもそうやって、大したことじゃないって笑い飛ばして、わたしの苦悩を魔法のように和らげてしまう。
 大したことなのに。
 何も悪いことをしていないのに殴られて、痛かったはずなのに。
「……なんであそこまでしてくれたの」
 わたしは目線を落とし、左手に持った自分のお弁当箱を見つめながら尋ねた。
 いま拓馬の顔を見たら泣いてしまいそうだった。
「決まってんじゃん。そうさせたのはお前だよ」
「わたし?」
「ああ。親友がストーカーされて困ってるって知ったとき、真っ先におれに『彼氏のフリをしてくれ』って頼んだだろ。隣に幸太もいたのにさ。幸太のことなんか目に入ってないって感じで――頼れるのはおれしかいないって感じで」
 全くその通りだ。
 あのときわたしは彼以外の人に頼ることなど思いつきもしなかった。
 誰よりも先に、拓馬の顔が思い浮かんだ。
「真剣そのものの目で見つめられて、安心して任せられるのはおれしかいない、なんて言われたらさ。張り切るだろ。やっぱ。できる限りのことはしてやりたいと思うじゃん」
 左頬を人差し指で掻いて、拓馬は目を逸らした。
「お前に頼りにされるのは、まあ……悪い気はしねえし」
「………………」
「だからって調子乗っていっつも頼ろうとか思うなよ? あくまで今回は特別だからな。おれだってこれ以上痛い思いをするのは勘弁だ。身の周りのことは極力自分で解決しろよ」
 照れ隠しのように、拓馬は早口でまくし立てた。
「……自分じゃ解決できないときは頼っていいの?」
 天井を見上げ、溢れそうになった涙を堪え、笑みを作る。
「仕方ないからな」
 拓馬は頷いて、またお弁当を食べ始めた。
 少しの沈黙。
「……今日はデザートに桃もあるよ」
 顔を伏せたまま言う。
「マジか。やった」
「ふふ」
 わたしは指で目を拭い、拓馬が食べているものと全く同じ中身のお弁当を口に運んだ。