乙女ゲームの世界に転生しちゃったんですけど~ヒロインは恋のライバルです!?~

「そんな口の利き方をしていいのかな? 状況わかってる?」
 有栖先輩はスマホの先端を自身の顎に触れさせた。
「このスマホには君が晒した醜態が収められているんだよ? このデータ、どうしようかな?」
「ぐ……」
 井田先輩が唇を噛み、有栖先輩は優雅に笑む。
「三つの選択肢を上げよう。まずはそのいち。君の自宅に行って、ご家族それぞれにプレゼント」
 この場にいる全員が絶句し、井田先輩は白目を剥いた。
「あ、もちろんプライバシー保護のために、中村さんや拓馬のことは特定できないように編集してから渡すよ。安心してね」
 とびきりの笑顔を見せる有栖先輩。
「いやプライバシーは大事ですけどそういう問題じゃないっすよ有栖先輩!!」
 幸太くんが焦ったように一歩前に出て叫んだ。
「罰とはいえ、その仕打ちはあまりに惨《むご》すぎませんか!? いくらクズでも一応同じ中学生ですよ!? オレなら『ボクの女神』だの『粛清』だの喚いてる動画を親に見られたら羞恥で死にます! もう首を吊るしかないですよ!?」
「やだなあ、親に見られて恥ずかしいことをするほうが悪いんだよ」
 渾身の叫びも届かなかったらしく、有栖先輩の微笑は揺るぎもしない。
「に、二番目は……二番目の選択肢は……」
 白目を剥いたまま、震え声で井田先輩が促す。
「二番目は放送部と新聞部の子にプレゼント。みんな娯楽に飢えてるから、頼まなくても面白おかしく脚色してくれるだろうね。公表された瞬間、君の学校生活は終わるね。もしかしたら、SNSでもバズっちゃうかな? ご愁傷様」
「……三番目は?」
 井田先輩はもはや泣いている。
 自分の言動がいかに恥ずかしいものであったか自覚はあるらしい。
「三番目は」
 有栖先輩は笑みを消し、真顔で井田先輩を見つめた。
「中村さんと拓馬に心から謝罪し、今後中村さんに近づかないと誓うこと。そうすればスマホのデータは君の目の前で消してあげる」
「……本当だな? 約束だな!?」
「いいよ。中村さん、拓馬」
 呼びかけに応じて、二人が進み出る。
 由香ちゃんは口元を引き結んでいて、拓馬の表情は特にない。
 腫れた右の頬が痛々しい。
 バスケットボールをぶつけてしまった春の悪夢の再現のような有様を見て、わたしはそっと唇を噛んだ。