乙女ゲームの世界に転生しちゃったんですけど~ヒロインは恋のライバルです!?~

「部外者が出しゃばって申し訳ないけれど、後はぼくに任せてもらえないかな? 決して悪いようにはしないから」
「も、もちろんです」
 品行方正で、どんな時も優等生の仮面を崩さない学園の絶対的アイドルが同級生を豚呼ばわりしたことに恐怖を覚えたらしく、由香ちゃんは青い顔で何度も首を縦に振った。
「ありがとう」
「保健室行かなくて大丈夫?」
 有栖先輩が微笑む一方、わたしは拓馬に尋ねた。
「後で行く。どうなるのか見届けたいし」
「そう」
 頬の具合は心配だったけれど、拓馬の気持ちもわかる。
 わたしはおとなしく引き下がり、口をつぐんで成り行きを見守ることにした。
「さて」
 有栖先輩はうずくまっている井田先輩の前に立ち、腰に手を当てた。
「話をしようか。二年一組、出席番号二番。藤美野西四丁目の高岡ハイツ405号室に住んでる井田正輝くん」
「な、ど、どうして住所を」
 書類でも読み上げるように、すらすらと言われて、井田先輩が狼狽える。
「お望みとあれば君の家族構成、ご両親の勤め先、ご家族それぞれの略歴を述べてもいいよ? ぼくは人脈の広さがささやかな自慢でね。電話一つで様々な情報を提供してくれる知人もいるんだ。恥ずかしい過去も知ってるけど、君の名誉のために言わずにおくよ」
「……なんだよ。なんでお前がしゃしゃり出てくるんだよ白石! ボクはお前が大嫌いなんだ!」
 怒りを原動力にしたらしく、井田先輩は驚愕の呪縛から逃れ、憤然と立ち上がって吼えた。
「心外だね、どうして? ぼくは万人に愛されるキャラクターだと思うんだけど」
 不思議そうに首を傾げる有栖先輩。
「だああああ、スカしやがって! お前のそういうところがムカつくんだ!!」
 顔を紅潮させて、井田先輩が荒々しく地団太を踏む。
「行く先々でいちいち巨大ハーレムを作りやがって! 知ってるか! ボクはこの前、木曜日の放課後、お前が引き連れた女子軍団に廊下を塞がれて三十分も通れなかったんだぞ! わかるか、三十分だぞ三十分!」 
「そうなんだ、ごめんね? 気づかなくて。どうやらぼくの目は君のことを映す価値もない塵芥だと認識したみたいだ。きっといまも映したくないんだろうけど、そこは頑張ってもらわないとね。どんなに君が見苦しくても、本当に見えなくなったら会話しづらいし」
 なんて素敵な笑顔なんだろう。台詞と全くかみ合ってない。
「この野郎……!」
 井田先輩が握り拳をわなわな震わせる。