乙女ゲームの世界に転生しちゃったんですけど~ヒロインは恋のライバルです!?~

 陸先輩はゴミでも見るような目で悶絶している井田先輩を見た後、拓馬に顔を向けた。
「拓馬」
「大丈夫です。唇を切っただけ」
 拓馬は頬を隠すように押さえ、ひらひらと手を振った。
「……無茶をする」
 陸先輩がため息をつく。
 その頃にはわたしも現場に着いていた。
「大丈夫!?」
 わたしは拓馬を案じながらも、由香ちゃんに手を貸し、立たせた。
「わたしは大丈夫……それより、黒瀬くんが」
 潤んだ目で由香ちゃんが拓馬を見る。
「平気平気。むしろ殴られることまで含めて作戦通り。こんなにうまくいくとは思わなかったな」
「オレは反対したぞ。陸先輩も」
 あくまで余裕の態度を崩さない拓馬に、幸太くんは不機嫌そうだ。
「知ってるよ。でもこれが一番手っ取り早い」
 拓馬が宥めるように幸太くんの肩を叩き、給水塔のほうを見る。
「有栖先輩。良い画は撮れましたか?」
「うん、ばっちり。拓馬が身体を張ってくれたおかげでね」
 給水塔の陰から有栖先輩が現れ、自身のスマホを掲げてみせた。
「……有栖先輩……」
 わたしは眩暈を覚えた。
 拓馬が殴られることまで含めて、最初から全部計算のうちだったのだ。
「どうして赤嶺先輩がここに……白石先輩まで……」
 由香ちゃんは困惑している。
 有栖先輩は学校の王子様、超がつくほどの有名人。
 彼を崇拝する生徒は多く、校内にはファンクラブまである。
 ちなみに陸先輩も相当にモテる。
 あまりに有栖先輩のファンが多すぎて影に隠れてしまっているだけで。
「やあ、はじめまして中村さん」
 由香ちゃんの呟きが耳に届いたらしく、有栖先輩は友好的に笑った。
「可愛い後輩たちから協力要請を受けてね。まあぼくがここにいる理由なんてどうでもいいでしょう? いま問題にすべきはそこで無様に這い蹲ってる豚だよ」
 豚っ!?
 ナチュラルな毒舌に仰天した。
 有栖先輩は笑顔の裏で激怒しているらしい。