乙女ゲームの世界に転生しちゃったんですけど~ヒロインは恋のライバルです!?~

「きっかけは一週間前なの」
 朝のホームルーム前の教室で、由香ちゃんは事情を話し始めた。
 聞いているメンバーはわたしと拓馬と幸太くん。
 教室の一角から、吉住さんの眼差しをひしひし感じる。
 わたしは拓馬に加えて、拓馬に匹敵するイケメンで人気者の幸太くんまで名前呼びにしているので、さぞ不愉快に違いない。
 それでも彼女の一派が何もしてこないのは拓馬ががつんと言ってくれたから。
 推測にしか過ぎないけれど、わたしはそう思っている。
「電車通学のわたしは朝、ごった返す駅のホームで生徒手帳を拾った。ちょうどその人のポケットから落ちるのが見えたんだ。走って追いかけたのはいいんだけど、問題はその後でね。息を切らして届けたわたしが女神に見えたとかで……告白されてもきっぱり断ったのに、何度言ってもしつこくて……いまじゃストーカーみたいになっちゃって……もうどうしたらいいのか……」
 由香ちゃんは泣きそうだ。
「勘違い野郎につきまとわれて迷惑してるってわけか。中村さん可愛いし、おとなしいからなー。多少強引にでも押せば落ちると思われてんだろうな」
「落ちたくない……」
 幸太くんの台詞を受けて、由香ちゃんが顔を覆う。
「名前とクラスはわかるの?」
 拓馬が冷静に聞く。
「うん。二年一組の、井田っていう先輩」
「一組か。三組なら知り合いの先輩がいたんだけどな」
 拓馬は悔しそうに言って後頭部を掻いた。
「……拓馬が由香ちゃんの彼氏のフリをするっていうのはどうかな? 井田先輩が諦められないのは、由香ちゃんがフリーだからっていう理由が大きいと思うし」
「おれ?」
 拓馬が面食らった顔で自分を指さす。
「うん。あなた」
 大きく頷く。
「え、でも、迷惑じゃ……」
 わたしはおろおろしている由香ちゃんの背中をぽんと叩いた。
「お願い。由香ちゃんはわたしの大事な友達なの。安心して任せられるのは拓馬しかいないの」
 わたしは拓馬を見つめて頭を下げた。
 すると、由香ちゃんはきゅっと唇を結んで、
「迷惑かけてごめんね、黒瀬くん。でも本当に困ってるの。どうかお願いしますっ……!!」
 身体の前で手を重ね、腰を折って深く頭を下げた。
 幸太くんが拓馬を見る。その口元には面白がるような笑み。
 拓馬は仏頂面で頬を掻き、お馴染みの台詞を言った。
「……別に。いいけど」
 それなりに付き合いの長いわたしには、この台詞が拓馬の照れ隠しであることを知っている。
「ありがとうっ……!!」
 由香ちゃんは喜びに頬を上気させ、花のような笑みを浮かべた。