「すみません! 知り合いによく似ていたもので、失礼しました、なんでもないんです、ごめんなさい」
わたしは慌てて頭を下げ、カバンを握り締めてその場から逃げ出した。
「三次元になっても拓馬は超格好良かった! 声だって超イケボだったし背も高くてモデルみたいだった!」ともう一人の私が身悶え、「そんなこと言ってる場合か!」ともう一人の私が元気よくツッコんでいる。
馬鹿なことに、前世のわたし――十五歳だったわたしは歩きスマホをしていて、階段から転落死した。
そのとき見ていたのは、『カラフルラバーズ』のSNSだった。
『新キャラクター追加!』っていう通知が届いたから、ついスマホを見ちゃったんだよね。
でも、なんで『カラフルラバーズ』の世界に転生しちゃったんだろう?
わたしは桜の木の下で立ち止まり、胸に手を当てて深呼吸した。
覚えている限りのゲーム情報を頭から引き出してみたけど、どんなに記憶をたどっても『野々原悠理』なんて出てこない。
つまり、わたしは完全なるモブってことだ。
対してゲームのヒロイン、一色乃亜《いっしきのあ》は中学二年生の春に藤美野学園に転入してきて、攻略対象の中でもメインとなるキャラ、黒瀬拓馬とクラスメイトになる。
……って、ちょっと待って?
乃亜が転入してくるのは約一年後。
それじゃいま、ヒロイン不在の状態じゃない?
ヒロイン不在の乙女ゲームの世界に転生なんて、こんなことってあるの?
「いや、そもそもこれは本当に現実なの? 乙女ゲームの世界に転生なんてありえないでしょ! そうだよ、わたし、夢でも見てるんじゃ」
頬を強くつねってみる。
痛みはこれが紛れもなく現実であり、安易な夢オチで終わらせてはくれないことを思い知らせてくれた。
「あああ……」
うずくまり、わたしは頭を抱えた。
「なんでこんなことに……どうしよう……」
前世のわたしは拓馬のことが大好きで、グッズを集めたりしてたけど……拓馬には運命の相手であるヒロインの乃亜がいるわけだし、モブが攻略キャラに恋をするわけにはいかないよね?
となれば、拓馬を含め、攻略キャラたちには関わらないのが正解か。
「……よし、決めた。モブはモブらしく、拓馬たちとは極力関わらず、平穏な学園生活を送ろう!」
わたしは青く澄み渡った春の空を見上げて、ぐっと拳を握り締めたのだった。
わたしは慌てて頭を下げ、カバンを握り締めてその場から逃げ出した。
「三次元になっても拓馬は超格好良かった! 声だって超イケボだったし背も高くてモデルみたいだった!」ともう一人の私が身悶え、「そんなこと言ってる場合か!」ともう一人の私が元気よくツッコんでいる。
馬鹿なことに、前世のわたし――十五歳だったわたしは歩きスマホをしていて、階段から転落死した。
そのとき見ていたのは、『カラフルラバーズ』のSNSだった。
『新キャラクター追加!』っていう通知が届いたから、ついスマホを見ちゃったんだよね。
でも、なんで『カラフルラバーズ』の世界に転生しちゃったんだろう?
わたしは桜の木の下で立ち止まり、胸に手を当てて深呼吸した。
覚えている限りのゲーム情報を頭から引き出してみたけど、どんなに記憶をたどっても『野々原悠理』なんて出てこない。
つまり、わたしは完全なるモブってことだ。
対してゲームのヒロイン、一色乃亜《いっしきのあ》は中学二年生の春に藤美野学園に転入してきて、攻略対象の中でもメインとなるキャラ、黒瀬拓馬とクラスメイトになる。
……って、ちょっと待って?
乃亜が転入してくるのは約一年後。
それじゃいま、ヒロイン不在の状態じゃない?
ヒロイン不在の乙女ゲームの世界に転生なんて、こんなことってあるの?
「いや、そもそもこれは本当に現実なの? 乙女ゲームの世界に転生なんてありえないでしょ! そうだよ、わたし、夢でも見てるんじゃ」
頬を強くつねってみる。
痛みはこれが紛れもなく現実であり、安易な夢オチで終わらせてはくれないことを思い知らせてくれた。
「あああ……」
うずくまり、わたしは頭を抱えた。
「なんでこんなことに……どうしよう……」
前世のわたしは拓馬のことが大好きで、グッズを集めたりしてたけど……拓馬には運命の相手であるヒロインの乃亜がいるわけだし、モブが攻略キャラに恋をするわけにはいかないよね?
となれば、拓馬を含め、攻略キャラたちには関わらないのが正解か。
「……よし、決めた。モブはモブらしく、拓馬たちとは極力関わらず、平穏な学園生活を送ろう!」
わたしは青く澄み渡った春の空を見上げて、ぐっと拳を握り締めたのだった。
