翌朝、エリアナは銀狼と共に領地を歩いていた。
荒れ果てた土地。だが、エリアナの目には可能性が見える。
銀狼が、エリアナの隣を歩く。
エリアナは、土を手に取った。
指で揉み、匂いを嗅ぐ。
前世の知識が、頭の中で分析する。
土壌のpH、ミネラルのバランス、保水性。
「これは……」
エリアナは目を見開いた。
「この土壌は、希少薬草に最適だ」
銀狼が、小さく鳴く。
エリアナは立ち上がり、周囲を見回した。
この一帯。南向きの緩やかな斜面。日当たりが良く、水はけも適度。
薬草園に、最適な条件。
エリアナは、村へ戻った。
村人たちが、井戸の周りに集まっている。
エリアナが近づくと、皆が振り返る。
「皆さん、お話があります」
エリアナは、明るい声で言った。
「この領地に、薬草園を作ります」
村人たちが、顔を見合わせる。
老村長が、前に出た。
「薬草園?」
「はい。この土壌は、希少な薬草を育てるのに最適です。薬草を育て、売れば、村は豊かになります」
村人たちが、ざわめく。
「だが、薬草園など、作ったことがない」
一人の村人が言う。
エリアナは、微笑んだ。
「私が教えます。一緒に作りましょう」
老村長が、エリアナを見つめる。
「領主様が、自ら?」
「はい。私も、畑を耕します」
エリアナは、近くにあった鍬を手に取った。
村人たちが、驚いた表情。
「領主が、鍬を……?」
エリアナは、鍬を肩に担いで、領地の一角へ向かった。
村人たちが、その後をついてくる。
エリアナは、土を耕し始めた。
鍬を振り下ろす。土が掘り返される。
汗が、額に滲む。
だが、エリアナは止まらない。
一心不乱に、土を耕す。
村人たちが、その姿を見ている。
しばらくして、一人の若い男が前に出た。
「俺も、手伝います」
男は、鍬を手に取り、エリアナの隣で土を耕し始めた。
次々と、村人たちが加わる。
老村長も、杖を置いて鍬を取る。
「領主様が頑張っているんだ。わしらも、やらねばな」
村人たちが、笑顔で働き始めた。
エリアナは、その光景を見て微笑んだ。
少しずつ。
少しずつ、心が通じ合っている。
銀狼が、エリアナの隣で座っている。
まるで、見守っているかのように。
日が暮れる頃、土地の一角が耕されていた。
村人たちが、満足そうに汗を拭う。
「明日から、種を蒔きましょう」
エリアナは言った。
村人たちが、頷く。
「領主様、ありがとうございます」
老村長が、深く頭を下げた。
エリアナは、首を横に振った。
「いいえ。私こそ、皆さんに感謝します」
夜が訪れた。
エリアナは、領主館で休んでいた。
銀狼が、突然立ち上がった。
エリアナを見つめ、小さく鳴く。
「どうしたの?」
銀狼は、扉へ向かう。
そして、エリアナを振り返る。
「ついて来いと?」
銀狼が、頷くように鼻を鳴らす。
エリアナは、外套を羽織った。
銀狼の後をついて、森へ入る。
月明かりが、木々の間から差し込んでいる。
銀狼は、確かな足取りで森を進む。
エリアナは、その後を追う。
どれくらい歩いただろう。
森が、開けた。
小さな川が流れている。
その向こうに、質素な野営地。
テントが一つ。焚き火の跡。
そして、テントの中から、咳き込む声。
エリアナは、息を呑んだ。
「ここが……」
銀狼が、エリアナを見る。
エリアナは、そっと野営地に近づいた。
テントの入口に、男が立っている。
鎧を着た侍従。剣を腰に下げている。
エリアナの足音に、侍従が振り返った。
「誰だ!」
剣を抜く。
エリアナは、両手を上げた。
「私は、薬師です」
侍従が、警戒した目でエリアナを見る。
「薬師? こんな夜中に、何の用だ」
「皇帝陛下の病を、治しに来ました」
侍従の目が、見開かれた。
「貴様、何を知っている」
「陛下が黒死病に苦しんでいることを。そして、私がそれを治せることを」
侍従は、剣を構えたまま、テントの中を振り返った。
「陛下、薬師を名乗る女が」
テントの中から、低い声が響く。
「帰れ」
冷たい声。
だが、その声は弱々しい。
エリアナは、一歩前に出た。
「陛下、どうか私に治療をさせてください」
「帰れと言った」
侍従が、剣を突きつける。
「これ以上近づくな」
エリアナは、動かなかった。
テントの中を見つめる。
「陛下、私は必ず治せます。どうか、信じてください」
沈黙。
しばらくして、テントの中から声が聞こえた。
「見せてやれ」
侍従が、渋々剣を下ろす。
エリアナは、テントに近づいた。
中を覗く。
そこには、一人の男が横たわっていた。
黒い髪。鋭い目。だが、その顔色は青白く、汗まみれ。
カイザー。
冷酷皇帝。
だが今、その姿は痛々しい。
カイザーが、微かに目を開けた。
エリアナを見る。
「帰れ。俺は誰の助けもいらん」
冷たく、言い放つ。
だが、その声は震えている。
エリアナは、膝をついた。
「陛下、黒死病は治せます」
カイザーが、嘲笑した。
「医師が何人も匙を投げた。素人が何を言う」
「これは細菌感染です。抗生物質に似た薬草で治療できます」
カイザーの目が、エリアナを見つめる。
「戯言を……」
咳き込む。激しく。
体が、痙攣する。
侍従が、慌ててカイザーを支える。
エリアナは、手を伸ばした。
「陛下、どうか」
「触るな!」
カイザーが叫ぶ。
侍従が、エリアナを押し戻す。
「もう帰れ。陛下は、お前の助けを望んでいない」
エリアナは、立ち上がった。
「わかりました」
だが、エリアナは諦めない。
「ですが、私は必ず薬を作ります。陛下が望まなくても」
エリアナは、野営地を後にした。
銀狼が、その後をついてくる。
森を抜け、領主館へ戻る。
エリアナの目には、決意の光。
「必ず、治してみせる」
領主館に戻ると、エリアナは机に向かった。
薬草の瓶を並べる。乳鉢と乳棒。蒸留器。
前世の知識を、総動員する。
黒死病。ペスト菌。
抗生物質が必要。ペニシリン、ストレプトマイシン。
だが、この世界にはない。
ならば、薬草で代用する。
ウィローバーク。サリチル酸を含む。抗炎症作用。
エキナセア。免疫賦活作用。
ゴールデンシール。ベルベリンを含む。抗菌作用。
だが、これだけでは足りない。
もっと強力な抗菌作用が必要。
エリアナは、ノートをめくる。
前世の記憶を辿る。
「ペニシリンに近い成分……自然界に存在するのは……」
エリアナは、考え込む。
その時、銀狼が立ち上がった。
扉へ向かい、外へ出る。
「待って!」
エリアナが追いかけると、銀狼は森へ走っていった。
エリアナは、その後を追う。
銀狼は、森の奥深く、湿った場所へ向かった。
そこには、古い倒木。
銀狼が、その倒木の根元を掘り始める。
「何を……?」
エリアナが近づくと、銀狼が咥えて持ち上げたのは、特殊なキノコ。
白くて小さい。だが、独特の匂い。
エリアナの目が、見開かれた。
「これは……!」
ペニシリウム属のキノコ。
ペニシリンの原料。
「銀狼、どうしてこれを……」
銀狼が、エリアナを見つめる。
その目に、知性の光。
エリアナは、キノコを受け取った。
「ありがとう」
銀狼が、尾を振る。
エリアナは、領主館へ戻った。
机に向かい、キノコを観察する。
間違いない。
これがあれば、ペニシリンに近い薬が作れる。
エリアナは、徹夜で作業を始めた。
キノコを培養し、成分を抽出する。
他の薬草と組み合わせる。
試行錯誤。
失敗。
再挑戦。
朝日が、窓から差し込む頃。
エリアナの手に、一つの瓶があった。
淡い黄色の液体。
試作薬。
エリアナは、それを見つめた。
「これで……治せる」
確信が、胸に満ちる。
エリアナは、瓶を大切に包んだ。
そして、立ち上がる。
「今日、もう一度行く」
銀狼が、エリアナを見つめる。
エリアナは、微笑んだ。
「一緒に来て」
銀狼が、尾を振った。
荒れ果てた土地。だが、エリアナの目には可能性が見える。
銀狼が、エリアナの隣を歩く。
エリアナは、土を手に取った。
指で揉み、匂いを嗅ぐ。
前世の知識が、頭の中で分析する。
土壌のpH、ミネラルのバランス、保水性。
「これは……」
エリアナは目を見開いた。
「この土壌は、希少薬草に最適だ」
銀狼が、小さく鳴く。
エリアナは立ち上がり、周囲を見回した。
この一帯。南向きの緩やかな斜面。日当たりが良く、水はけも適度。
薬草園に、最適な条件。
エリアナは、村へ戻った。
村人たちが、井戸の周りに集まっている。
エリアナが近づくと、皆が振り返る。
「皆さん、お話があります」
エリアナは、明るい声で言った。
「この領地に、薬草園を作ります」
村人たちが、顔を見合わせる。
老村長が、前に出た。
「薬草園?」
「はい。この土壌は、希少な薬草を育てるのに最適です。薬草を育て、売れば、村は豊かになります」
村人たちが、ざわめく。
「だが、薬草園など、作ったことがない」
一人の村人が言う。
エリアナは、微笑んだ。
「私が教えます。一緒に作りましょう」
老村長が、エリアナを見つめる。
「領主様が、自ら?」
「はい。私も、畑を耕します」
エリアナは、近くにあった鍬を手に取った。
村人たちが、驚いた表情。
「領主が、鍬を……?」
エリアナは、鍬を肩に担いで、領地の一角へ向かった。
村人たちが、その後をついてくる。
エリアナは、土を耕し始めた。
鍬を振り下ろす。土が掘り返される。
汗が、額に滲む。
だが、エリアナは止まらない。
一心不乱に、土を耕す。
村人たちが、その姿を見ている。
しばらくして、一人の若い男が前に出た。
「俺も、手伝います」
男は、鍬を手に取り、エリアナの隣で土を耕し始めた。
次々と、村人たちが加わる。
老村長も、杖を置いて鍬を取る。
「領主様が頑張っているんだ。わしらも、やらねばな」
村人たちが、笑顔で働き始めた。
エリアナは、その光景を見て微笑んだ。
少しずつ。
少しずつ、心が通じ合っている。
銀狼が、エリアナの隣で座っている。
まるで、見守っているかのように。
日が暮れる頃、土地の一角が耕されていた。
村人たちが、満足そうに汗を拭う。
「明日から、種を蒔きましょう」
エリアナは言った。
村人たちが、頷く。
「領主様、ありがとうございます」
老村長が、深く頭を下げた。
エリアナは、首を横に振った。
「いいえ。私こそ、皆さんに感謝します」
夜が訪れた。
エリアナは、領主館で休んでいた。
銀狼が、突然立ち上がった。
エリアナを見つめ、小さく鳴く。
「どうしたの?」
銀狼は、扉へ向かう。
そして、エリアナを振り返る。
「ついて来いと?」
銀狼が、頷くように鼻を鳴らす。
エリアナは、外套を羽織った。
銀狼の後をついて、森へ入る。
月明かりが、木々の間から差し込んでいる。
銀狼は、確かな足取りで森を進む。
エリアナは、その後を追う。
どれくらい歩いただろう。
森が、開けた。
小さな川が流れている。
その向こうに、質素な野営地。
テントが一つ。焚き火の跡。
そして、テントの中から、咳き込む声。
エリアナは、息を呑んだ。
「ここが……」
銀狼が、エリアナを見る。
エリアナは、そっと野営地に近づいた。
テントの入口に、男が立っている。
鎧を着た侍従。剣を腰に下げている。
エリアナの足音に、侍従が振り返った。
「誰だ!」
剣を抜く。
エリアナは、両手を上げた。
「私は、薬師です」
侍従が、警戒した目でエリアナを見る。
「薬師? こんな夜中に、何の用だ」
「皇帝陛下の病を、治しに来ました」
侍従の目が、見開かれた。
「貴様、何を知っている」
「陛下が黒死病に苦しんでいることを。そして、私がそれを治せることを」
侍従は、剣を構えたまま、テントの中を振り返った。
「陛下、薬師を名乗る女が」
テントの中から、低い声が響く。
「帰れ」
冷たい声。
だが、その声は弱々しい。
エリアナは、一歩前に出た。
「陛下、どうか私に治療をさせてください」
「帰れと言った」
侍従が、剣を突きつける。
「これ以上近づくな」
エリアナは、動かなかった。
テントの中を見つめる。
「陛下、私は必ず治せます。どうか、信じてください」
沈黙。
しばらくして、テントの中から声が聞こえた。
「見せてやれ」
侍従が、渋々剣を下ろす。
エリアナは、テントに近づいた。
中を覗く。
そこには、一人の男が横たわっていた。
黒い髪。鋭い目。だが、その顔色は青白く、汗まみれ。
カイザー。
冷酷皇帝。
だが今、その姿は痛々しい。
カイザーが、微かに目を開けた。
エリアナを見る。
「帰れ。俺は誰の助けもいらん」
冷たく、言い放つ。
だが、その声は震えている。
エリアナは、膝をついた。
「陛下、黒死病は治せます」
カイザーが、嘲笑した。
「医師が何人も匙を投げた。素人が何を言う」
「これは細菌感染です。抗生物質に似た薬草で治療できます」
カイザーの目が、エリアナを見つめる。
「戯言を……」
咳き込む。激しく。
体が、痙攣する。
侍従が、慌ててカイザーを支える。
エリアナは、手を伸ばした。
「陛下、どうか」
「触るな!」
カイザーが叫ぶ。
侍従が、エリアナを押し戻す。
「もう帰れ。陛下は、お前の助けを望んでいない」
エリアナは、立ち上がった。
「わかりました」
だが、エリアナは諦めない。
「ですが、私は必ず薬を作ります。陛下が望まなくても」
エリアナは、野営地を後にした。
銀狼が、その後をついてくる。
森を抜け、領主館へ戻る。
エリアナの目には、決意の光。
「必ず、治してみせる」
領主館に戻ると、エリアナは机に向かった。
薬草の瓶を並べる。乳鉢と乳棒。蒸留器。
前世の知識を、総動員する。
黒死病。ペスト菌。
抗生物質が必要。ペニシリン、ストレプトマイシン。
だが、この世界にはない。
ならば、薬草で代用する。
ウィローバーク。サリチル酸を含む。抗炎症作用。
エキナセア。免疫賦活作用。
ゴールデンシール。ベルベリンを含む。抗菌作用。
だが、これだけでは足りない。
もっと強力な抗菌作用が必要。
エリアナは、ノートをめくる。
前世の記憶を辿る。
「ペニシリンに近い成分……自然界に存在するのは……」
エリアナは、考え込む。
その時、銀狼が立ち上がった。
扉へ向かい、外へ出る。
「待って!」
エリアナが追いかけると、銀狼は森へ走っていった。
エリアナは、その後を追う。
銀狼は、森の奥深く、湿った場所へ向かった。
そこには、古い倒木。
銀狼が、その倒木の根元を掘り始める。
「何を……?」
エリアナが近づくと、銀狼が咥えて持ち上げたのは、特殊なキノコ。
白くて小さい。だが、独特の匂い。
エリアナの目が、見開かれた。
「これは……!」
ペニシリウム属のキノコ。
ペニシリンの原料。
「銀狼、どうしてこれを……」
銀狼が、エリアナを見つめる。
その目に、知性の光。
エリアナは、キノコを受け取った。
「ありがとう」
銀狼が、尾を振る。
エリアナは、領主館へ戻った。
机に向かい、キノコを観察する。
間違いない。
これがあれば、ペニシリンに近い薬が作れる。
エリアナは、徹夜で作業を始めた。
キノコを培養し、成分を抽出する。
他の薬草と組み合わせる。
試行錯誤。
失敗。
再挑戦。
朝日が、窓から差し込む頃。
エリアナの手に、一つの瓶があった。
淡い黄色の液体。
試作薬。
エリアナは、それを見つめた。
「これで……治せる」
確信が、胸に満ちる。
エリアナは、瓶を大切に包んだ。
そして、立ち上がる。
「今日、もう一度行く」
銀狼が、エリアナを見つめる。
エリアナは、微笑んだ。
「一緒に来て」
銀狼が、尾を振った。


