数日後、王都の大法廷で継母マルグリットの公開裁判が開かれた。
法廷は、王宮から離れた場所にある古い建物。高い天井、円形の傍聴席、中央に裁判長の席と被告席。
朝から、貴族たちが次々と詰めかけていた。
豪華な衣装を纏った公爵、侯爵、伯爵。宝石を身につけた令嬢たち。
そして、市民たちも傍聴席の後方に集まっている。
法廷は、満員だった。
エリアナとカイザーは、証人席の近くに座っていた。
エリアナは、深い青のドレスを着ている。シンプルだが、品がある。髪は結い上げられ、顔には緊張の色。
カイザーは、黒い礼服。皇帝としての威厳に満ちている。
エリアナの手を、カイザーが握った。
「大丈夫だ」
カイザーの声が、小さく囁く。
「お前は、強い」
エリアナは、頷いた。
鐘が鳴り、裁判長が入廷した。
年配の男性。白い髪、深い皺。長い法服を纏っている。
全員が、立ち上がった。
裁判長が席に着くと、皆も座った。
「これより、マルグリット・ド・ヴァランセ侯爵夫人の裁判を開廷する」
裁判長の声が、法廷に響く。
「被告を、入廷させよ」
扉が開いた。
護衛に両腕を掴まれて、継母マルグリットが入ってきた。
かつての豪華なドレスではない。質素な灰色の服。宝石もない。髪も乱れている。
だが、その目には、まだ冷たい光があった。
傍聴席が、ざわめく。
「あれが、侯爵夫人……」
「随分と、やつれたわね」
継母は、被告席に座らされた。
裁判長が、書類を開いた。
「マルグリット・ド・ヴァランセ、お前は先代侯爵を毒殺し、娘エリアナを虐待し、財産を横領した罪で訴えられている」
裁判長の声が、冷たい。
「弁明はあるか」
継母が、顔を上げた。
継母の声が、低く響く。
「私は、何もしていません」
裁判長が、頷いた。
「では、証人を呼ぶ」
裁判長が、エリアナを見た。
「エリアナ皇妃、証言台へ」
エリアナは、立ち上がった。
カイザーが、エリアナの手を握りしめた。
「頑張れ」
エリアナは、頷いた。
証言台へ向かう。
傍聴席の視線が、エリアナに集まる。
エリアナは、証言台に立った。
裁判長が、尋ねた。
「エリアナ皇妃、証拠を提出してください」
エリアナは、懐から父の日記を取り出した。
古い革張りの日記帳。
「これが、父の遺言です」
エリアナの声が、法廷に響く。
エリアナは、日記を開いた。
ページをめくり、該当箇所を見つける。
「これを、朗読します」
エリアナが、深く息を吸った。
そして、読み始めた。
「マルグリットが、怪しい動きをしている。彼女は、黒いローブの男と何度も会っている。毒を購入しているようだ」
傍聴席が、ざわめく。
エリアナは、続ける。
「私は、彼女に狙われているかもしれない。この日記を、森の古い木の根元に隠す。もし何かあれば、エリアナが見つけてくれるだろう」
エリアナの声が、震える。
だが、止まらない。
「証拠は、この日記だ。医師も買収されている。診断書は偽造だろう」
ページをめくる。
「エリアナ、もし私が突然死んだら、これを信じてほしい。マルグリットが、私を殺したのだ」
エリアナの目から、涙が溢れた。
だが、声は続ける。
「そして、私の財産。全てを、エリアナに遺す。マルグリットには、一銭も与えるな」
エリアナは、日記を閉じた。
「これが、父の遺言です」
法廷が、静まり返った。
しばらくの沈黙。
そして、傍聴席が騒然となった。
「本当に、毒殺だったのか」
「侯爵夫人が、夫を殺した」
「信じられない」
裁判長が、杖を叩いた。
「静粛に」
法廷が、静かになる。
裁判長が、エリアナに尋ねた。
「この日記の真偽は、確認できるか」
「はい」
エリアナが、頷く。
「父の筆跡です。間違いありません」
裁判長が、日記を受け取った。
丁寧にページをめくり、確認する。
そして、頷いた。
「確かに、先代侯爵の筆跡だ」
裁判長が、継母を見た。
「マルグリット、これについて何か言うことは」
継母は、黙っていた。
顔色は、蒼白。
だが、まだ諦めていない目。
エリアナは、証言台を降りた。
席に戻ろうとする。
その時、継母が叫んだ。
「それは、偽造です!」
継母の声が、法廷に響く。
「あの娘が、捏造したのです!」
エリアナが、振り返った。
「私を陥れるために、父の日記を偽造したのです!」
継母の声が、必死だった。
裁判長が、継母を見た。
「証拠は」
「証拠など、ありません。ですが、あの娘は嘘つきです!」
継母が、エリアナを指差す。
「私を憎んで、こんな嘘を!」
傍聴席が、再びざわめく。
裁判長が、杖を叩いた。
「静粛に」
そして、エリアナに尋ねた。
「エリアナ皇妃、他に証人はいるか」
エリアナは、頷いた。
「はい」
裁判長が、頷く。
「証人を、呼びなさい」
扉が開いた。
老メイド、マリアが入ってきた。
年老いた体を、ゆっくりと動かす。
証言台へ向かう。
傍聴席が、注目する。
マリアが、証言台に立った。
裁判長が、尋ねた。
「名前を」
「マリアと申します。元侯爵家の使用人です」
マリアの声が、震えている。
「証言をお願いします」
マリアは、深く息を吸った。
そして、口を開いた。
「夫人は、本当に毒を購入していました」
マリアの声が、法廷に響く。
「私は、見ました。夫人が、黒いローブの男と密談しているのを」
マリアが、継母を見た。
「夫人が、医師に大金を渡しているのを」
「夫人が、『診断書を偽造しろ』と命じているのを」
傍聴席が、ざわめく。
継母の顔が、さらに青ざめた。
マリアは、続ける。
「そして、エリアナお嬢様を虐待していました」
マリアの目から、涙が溢れる。
「食事を抜き、殴り、罵倒し、部屋に閉じ込めました。お嬢様は、毎日泣いていました。ですが、誰も助けられませんでした。夫人が、怖かったのです」
マリアが、頭を下げた。
「ごめんなさい、お嬢様。私は、何もできませんでした」
エリアナは、立ち上がった。
「いいえ、マリア。貴女は、何も悪くありません」
エリアナの声が、優しい。
「貴女が、勇気を出して証言してくれました。それだけで、十分です」
マリアが、顔を上げた。
涙が、止まらない。
裁判長が、マリアに尋ねた。
「他に、証言はあるか」
「はい」
マリアが、頷く。
「他の使用人たちも、同じことを見ています。皆、証言する準備ができています」
裁判長が、頷いた。
「では、順に呼びなさい」
次々と、元使用人たちが証言台に立った。
若い男。中年の女。老人。
皆、同じことを証言した。
「夫人が、侯爵様を毒殺しました」
「夫人が、エリアナ様を虐待しました」
「夫人が、財産を横領しました」
証言が、積み重なっていく。
継母の顔色が、どんどん悪くなっていく。
最後の証人が終わった時、継母は立ち上がった。
「嘘です! 全て嘘です!」
継母の声が、叫ぶ。
「私は、何もしていません!」
裁判長が、冷たく言った。
「マルグリット、これだけの証言がある。もう、逃れられない」
継母が、エリアナを睨んだ。
憎しみに満ちた目。
「お前が……お前が、全てを……」
だが、言葉が続かない。
エリアナは、冷静に継母を見つめた。
「お母様、もう逃げられません」
エリアナの声が、静かに響く。
「真実は、明らかになりました」
継母が、床に座り込んだ。
顔を両手で覆う。
「違う……違う……」
継母の声が、掠れている。
裁判長が、宣言した。
「証人尋問を、終了する」
法廷が、静まり返った。
裁判長が、書類を整理する。
そして、扉の方を見た。
「次の被告を、入廷させよ」
扉が開いた。
イザベラが、連れてこられた。
イザベラは、泣いていた。
目は赤く腫れ、顔は蒼白。
かつての華やかさは、どこにもない。
イザベラが、被告席に座らされた。
継母の隣。
二人は、顔を見合わせた。
継母が、イザベラに囁こうとする。
だが、護衛が間に入った。
裁判長が、イザベラに尋ねた。
「イザベラ・ド・ヴァランセ、お前は母マルグリットと共謀し、エリアナ皇妃を毒殺しようとした罪で訴えられている」
裁判長の声が、冷たい。
「弁明はあるか」
イザベラは、しばらく黙っていた。
震えている。
そして、口を開いた。
「全て、母の指示です!」
イザベラの声が、叫ぶように響く。
継母が、イザベラを見た。
目が、見開かれる。
「私は、従っただけです!」
イザベラが、泣きながら続ける。
「母が、『姉を陥れろ』と言ったのです! 母が、『毒を混入しろ』と命じたのです! 私は、ただ従っただけです!」
イザベラが、継母を指差す。
「全て、母のせいです!」
傍聴席が、騒然となった。
「娘が、母を売った」
「信じられない」
継母が、立ち上がった。
「この愚か者!」
継母の声が、怒りに満ちている。
「何を言っているの!」
イザベラが、叫び返す。
「本当のことです! 母が、全て指示したのです!」
「黙りなさい!」
継母が、イザベラに詰め寄ろうとする。
だが、護衛が継母を押さえた。
「離しなさい!」
継母が、暴れる。
だが、護衛は動じない。
裁判長が、杖を叩いた。
「静粛に!」
法廷が、少し静かになる。
裁判長が、イザベラに尋ねた。
「イザベラ、お前の証言は真実か」
「はい」
イザベラが、涙を流しながら頷く。
「母が、全て計画しました。父を殺すことも、姉を虐待することも、姉を毒殺することも。私は、ただ従っただけです」
裁判長が、書類に記録する。
傍聴席では、貴族たちが囁き合っている。
エリアナは、イザベラを見つめていた。
その目には、複雑な感情。
憐れみ。
そして、悲しみ。
イザベラは、かつてエリアナを嘲笑していた。
だが今、その姿はあまりにも惨めだった。
王太子アレクが、傍聴席の一角に座っていた。
顔は蒼白。目は虚ろ。
妻の裏切り。
母娘の醜い争い。
全てを、目の当たりにしている。
アレクの隣には、誰もいない。
孤独な王太子。
かつて、エリアナを捨てた男。
今、その報いを受けている。
裁判長が、立ち上がった。
「これより、判決を言い渡す」
法廷が、静まり返った。
全員が、固唾を呑んで見守る。
裁判長が、書類を読み上げた。
「被告マルグリット・ド・ヴァランセ」
継母が、顔を上げた。
「お前は、先代侯爵を毒殺し、娘エリアナを虐待し、財産を横領した」
裁判長の声が、法廷に響く。
「証拠は明白であり、証人も多数いる。よって、お前に次の刑を言い渡す」
裁判長が、一呼吸置いた。
「侯爵位剥奪、全財産没収、終身投獄」
継母の体が、崩れ落ちた。
「そんな……」
継母の声が、掠れている。
「終身投獄……」
裁判長が、続ける。
「被告イザベラ・ド・ヴァランセ」
イザベラが、震えている。
「お前は、母マルグリットと共謀し、エリアナ皇妃を毒殺しようとした」
裁判長の声が、冷たい。
「証言により、お前の関与は明白である。よって、お前に次の刑を言い渡す」
裁判長が、宣言した。
「王太子妃の地位剥奪、10年の投獄」
イザベラが、泣き崩れた。
「嫌だ……嫌だ……」
イザベラの声が、法廷に響く。
裁判長が、杖を叩いた。
「以上をもって、判決とする」
護衛たちが、継母とイザベラを連行し始めた。
継母は、抵抗しようとした。
「放しなさい! 私は侯爵夫人よ!」
だが、護衛は容赦しない。
両腕を掴み、引きずっていく。
イザベラは、泣きながら連行される。
「助けて……誰か……」
だが、誰も助けない。
二人は、法廷から連れ出された。
扉が閉まる。
静寂が、戻る。
エリアナは、席に座ったまま、じっと前を見つめていた。
終わった。
本当に、終わった。
父の仇を、討った。
継母を、裁いた。
エリアナの目から、涙が溢れた。
止められない。
カイザーが、エリアナの肩を抱いた。
「よく頑張った」
カイザーの声が、優しい。
エリアナは、カイザーの胸に顔を埋めた。
「お父様……」
エリアナの声が、震える。
「やりました……」
カイザーが、エリアナの髪を撫でる。
「お前は、強かった。誰よりも、強かった」
エリアナは、泣き続けた。
安堵の涙。
悲しみの涙。
そして、達成感の涙。
全てが、混ざり合って溢れてくる。
法廷では、貴族たちが次々と立ち上がっていた。
「皇妃陛下、お見事でした」
一人の公爵が、エリアナに頭を下げた。
他の貴族たちも、次々と頭を下げる。
「正義が、示されました」
「真実が、明らかになりました」
エリアナは、顔を上げた。
涙を拭い、立ち上がる。
そして、貴族たちに頭を下げた。
「ありがとうございます」
エリアナの声が、静かに響く。
「皆様のご支援があって、ここまで来られました」
貴族たちが、微笑む。
市民たちも、拍手し始めた。
最初は小さな拍手。
だが、次第に大きくなっていく。
法廷全体が、拍手に包まれた。
エリアナは、深く頭を下げた。
カイザーが、エリアナの手を取った。
「行くぞ」
二人は、法廷を後にした。
外では、朝日が昇っていた。
新しい一日。
新しい人生。
エリアナは、空を見上げた。
青い空。
流れる雲。
「お父様、見ていてくださいましたか」
エリアナの声が、空に向かう。
「正義を、示しました。真実を、明らかにしました。これで、貴方の無念は晴れたでしょうか」
風が、吹く。
優しい風。
まるで、父が答えているかのように。
エリアナは、微笑んだ。
「ありがとうございます、お父様」
エリアナは、カイザーを見た。
「これから、どうしましょう」
カイザーが、微笑んだ。
「これから、俺たちの未来を築く」
カイザーが、エリアナを抱き寄せた。
「お前と俺で、新しい人生を」
エリアナは、頷いた。
「はい」
二人は、手を繋いで歩き始めた。
王宮へ。
新しい未来へ。
戦いは、終わった。
復讐は、果たした。
そして今、本当の人生が始まる。
愛に満ちた人生。
希望に満ちた人生。
エリアナは、前だけを見つめた。
過去は、もう終わった。
これからは、未来だけ。
カイザーと共に。
手を繋いで。
歩いていく。
どこまでも。
法廷は、王宮から離れた場所にある古い建物。高い天井、円形の傍聴席、中央に裁判長の席と被告席。
朝から、貴族たちが次々と詰めかけていた。
豪華な衣装を纏った公爵、侯爵、伯爵。宝石を身につけた令嬢たち。
そして、市民たちも傍聴席の後方に集まっている。
法廷は、満員だった。
エリアナとカイザーは、証人席の近くに座っていた。
エリアナは、深い青のドレスを着ている。シンプルだが、品がある。髪は結い上げられ、顔には緊張の色。
カイザーは、黒い礼服。皇帝としての威厳に満ちている。
エリアナの手を、カイザーが握った。
「大丈夫だ」
カイザーの声が、小さく囁く。
「お前は、強い」
エリアナは、頷いた。
鐘が鳴り、裁判長が入廷した。
年配の男性。白い髪、深い皺。長い法服を纏っている。
全員が、立ち上がった。
裁判長が席に着くと、皆も座った。
「これより、マルグリット・ド・ヴァランセ侯爵夫人の裁判を開廷する」
裁判長の声が、法廷に響く。
「被告を、入廷させよ」
扉が開いた。
護衛に両腕を掴まれて、継母マルグリットが入ってきた。
かつての豪華なドレスではない。質素な灰色の服。宝石もない。髪も乱れている。
だが、その目には、まだ冷たい光があった。
傍聴席が、ざわめく。
「あれが、侯爵夫人……」
「随分と、やつれたわね」
継母は、被告席に座らされた。
裁判長が、書類を開いた。
「マルグリット・ド・ヴァランセ、お前は先代侯爵を毒殺し、娘エリアナを虐待し、財産を横領した罪で訴えられている」
裁判長の声が、冷たい。
「弁明はあるか」
継母が、顔を上げた。
継母の声が、低く響く。
「私は、何もしていません」
裁判長が、頷いた。
「では、証人を呼ぶ」
裁判長が、エリアナを見た。
「エリアナ皇妃、証言台へ」
エリアナは、立ち上がった。
カイザーが、エリアナの手を握りしめた。
「頑張れ」
エリアナは、頷いた。
証言台へ向かう。
傍聴席の視線が、エリアナに集まる。
エリアナは、証言台に立った。
裁判長が、尋ねた。
「エリアナ皇妃、証拠を提出してください」
エリアナは、懐から父の日記を取り出した。
古い革張りの日記帳。
「これが、父の遺言です」
エリアナの声が、法廷に響く。
エリアナは、日記を開いた。
ページをめくり、該当箇所を見つける。
「これを、朗読します」
エリアナが、深く息を吸った。
そして、読み始めた。
「マルグリットが、怪しい動きをしている。彼女は、黒いローブの男と何度も会っている。毒を購入しているようだ」
傍聴席が、ざわめく。
エリアナは、続ける。
「私は、彼女に狙われているかもしれない。この日記を、森の古い木の根元に隠す。もし何かあれば、エリアナが見つけてくれるだろう」
エリアナの声が、震える。
だが、止まらない。
「証拠は、この日記だ。医師も買収されている。診断書は偽造だろう」
ページをめくる。
「エリアナ、もし私が突然死んだら、これを信じてほしい。マルグリットが、私を殺したのだ」
エリアナの目から、涙が溢れた。
だが、声は続ける。
「そして、私の財産。全てを、エリアナに遺す。マルグリットには、一銭も与えるな」
エリアナは、日記を閉じた。
「これが、父の遺言です」
法廷が、静まり返った。
しばらくの沈黙。
そして、傍聴席が騒然となった。
「本当に、毒殺だったのか」
「侯爵夫人が、夫を殺した」
「信じられない」
裁判長が、杖を叩いた。
「静粛に」
法廷が、静かになる。
裁判長が、エリアナに尋ねた。
「この日記の真偽は、確認できるか」
「はい」
エリアナが、頷く。
「父の筆跡です。間違いありません」
裁判長が、日記を受け取った。
丁寧にページをめくり、確認する。
そして、頷いた。
「確かに、先代侯爵の筆跡だ」
裁判長が、継母を見た。
「マルグリット、これについて何か言うことは」
継母は、黙っていた。
顔色は、蒼白。
だが、まだ諦めていない目。
エリアナは、証言台を降りた。
席に戻ろうとする。
その時、継母が叫んだ。
「それは、偽造です!」
継母の声が、法廷に響く。
「あの娘が、捏造したのです!」
エリアナが、振り返った。
「私を陥れるために、父の日記を偽造したのです!」
継母の声が、必死だった。
裁判長が、継母を見た。
「証拠は」
「証拠など、ありません。ですが、あの娘は嘘つきです!」
継母が、エリアナを指差す。
「私を憎んで、こんな嘘を!」
傍聴席が、再びざわめく。
裁判長が、杖を叩いた。
「静粛に」
そして、エリアナに尋ねた。
「エリアナ皇妃、他に証人はいるか」
エリアナは、頷いた。
「はい」
裁判長が、頷く。
「証人を、呼びなさい」
扉が開いた。
老メイド、マリアが入ってきた。
年老いた体を、ゆっくりと動かす。
証言台へ向かう。
傍聴席が、注目する。
マリアが、証言台に立った。
裁判長が、尋ねた。
「名前を」
「マリアと申します。元侯爵家の使用人です」
マリアの声が、震えている。
「証言をお願いします」
マリアは、深く息を吸った。
そして、口を開いた。
「夫人は、本当に毒を購入していました」
マリアの声が、法廷に響く。
「私は、見ました。夫人が、黒いローブの男と密談しているのを」
マリアが、継母を見た。
「夫人が、医師に大金を渡しているのを」
「夫人が、『診断書を偽造しろ』と命じているのを」
傍聴席が、ざわめく。
継母の顔が、さらに青ざめた。
マリアは、続ける。
「そして、エリアナお嬢様を虐待していました」
マリアの目から、涙が溢れる。
「食事を抜き、殴り、罵倒し、部屋に閉じ込めました。お嬢様は、毎日泣いていました。ですが、誰も助けられませんでした。夫人が、怖かったのです」
マリアが、頭を下げた。
「ごめんなさい、お嬢様。私は、何もできませんでした」
エリアナは、立ち上がった。
「いいえ、マリア。貴女は、何も悪くありません」
エリアナの声が、優しい。
「貴女が、勇気を出して証言してくれました。それだけで、十分です」
マリアが、顔を上げた。
涙が、止まらない。
裁判長が、マリアに尋ねた。
「他に、証言はあるか」
「はい」
マリアが、頷く。
「他の使用人たちも、同じことを見ています。皆、証言する準備ができています」
裁判長が、頷いた。
「では、順に呼びなさい」
次々と、元使用人たちが証言台に立った。
若い男。中年の女。老人。
皆、同じことを証言した。
「夫人が、侯爵様を毒殺しました」
「夫人が、エリアナ様を虐待しました」
「夫人が、財産を横領しました」
証言が、積み重なっていく。
継母の顔色が、どんどん悪くなっていく。
最後の証人が終わった時、継母は立ち上がった。
「嘘です! 全て嘘です!」
継母の声が、叫ぶ。
「私は、何もしていません!」
裁判長が、冷たく言った。
「マルグリット、これだけの証言がある。もう、逃れられない」
継母が、エリアナを睨んだ。
憎しみに満ちた目。
「お前が……お前が、全てを……」
だが、言葉が続かない。
エリアナは、冷静に継母を見つめた。
「お母様、もう逃げられません」
エリアナの声が、静かに響く。
「真実は、明らかになりました」
継母が、床に座り込んだ。
顔を両手で覆う。
「違う……違う……」
継母の声が、掠れている。
裁判長が、宣言した。
「証人尋問を、終了する」
法廷が、静まり返った。
裁判長が、書類を整理する。
そして、扉の方を見た。
「次の被告を、入廷させよ」
扉が開いた。
イザベラが、連れてこられた。
イザベラは、泣いていた。
目は赤く腫れ、顔は蒼白。
かつての華やかさは、どこにもない。
イザベラが、被告席に座らされた。
継母の隣。
二人は、顔を見合わせた。
継母が、イザベラに囁こうとする。
だが、護衛が間に入った。
裁判長が、イザベラに尋ねた。
「イザベラ・ド・ヴァランセ、お前は母マルグリットと共謀し、エリアナ皇妃を毒殺しようとした罪で訴えられている」
裁判長の声が、冷たい。
「弁明はあるか」
イザベラは、しばらく黙っていた。
震えている。
そして、口を開いた。
「全て、母の指示です!」
イザベラの声が、叫ぶように響く。
継母が、イザベラを見た。
目が、見開かれる。
「私は、従っただけです!」
イザベラが、泣きながら続ける。
「母が、『姉を陥れろ』と言ったのです! 母が、『毒を混入しろ』と命じたのです! 私は、ただ従っただけです!」
イザベラが、継母を指差す。
「全て、母のせいです!」
傍聴席が、騒然となった。
「娘が、母を売った」
「信じられない」
継母が、立ち上がった。
「この愚か者!」
継母の声が、怒りに満ちている。
「何を言っているの!」
イザベラが、叫び返す。
「本当のことです! 母が、全て指示したのです!」
「黙りなさい!」
継母が、イザベラに詰め寄ろうとする。
だが、護衛が継母を押さえた。
「離しなさい!」
継母が、暴れる。
だが、護衛は動じない。
裁判長が、杖を叩いた。
「静粛に!」
法廷が、少し静かになる。
裁判長が、イザベラに尋ねた。
「イザベラ、お前の証言は真実か」
「はい」
イザベラが、涙を流しながら頷く。
「母が、全て計画しました。父を殺すことも、姉を虐待することも、姉を毒殺することも。私は、ただ従っただけです」
裁判長が、書類に記録する。
傍聴席では、貴族たちが囁き合っている。
エリアナは、イザベラを見つめていた。
その目には、複雑な感情。
憐れみ。
そして、悲しみ。
イザベラは、かつてエリアナを嘲笑していた。
だが今、その姿はあまりにも惨めだった。
王太子アレクが、傍聴席の一角に座っていた。
顔は蒼白。目は虚ろ。
妻の裏切り。
母娘の醜い争い。
全てを、目の当たりにしている。
アレクの隣には、誰もいない。
孤独な王太子。
かつて、エリアナを捨てた男。
今、その報いを受けている。
裁判長が、立ち上がった。
「これより、判決を言い渡す」
法廷が、静まり返った。
全員が、固唾を呑んで見守る。
裁判長が、書類を読み上げた。
「被告マルグリット・ド・ヴァランセ」
継母が、顔を上げた。
「お前は、先代侯爵を毒殺し、娘エリアナを虐待し、財産を横領した」
裁判長の声が、法廷に響く。
「証拠は明白であり、証人も多数いる。よって、お前に次の刑を言い渡す」
裁判長が、一呼吸置いた。
「侯爵位剥奪、全財産没収、終身投獄」
継母の体が、崩れ落ちた。
「そんな……」
継母の声が、掠れている。
「終身投獄……」
裁判長が、続ける。
「被告イザベラ・ド・ヴァランセ」
イザベラが、震えている。
「お前は、母マルグリットと共謀し、エリアナ皇妃を毒殺しようとした」
裁判長の声が、冷たい。
「証言により、お前の関与は明白である。よって、お前に次の刑を言い渡す」
裁判長が、宣言した。
「王太子妃の地位剥奪、10年の投獄」
イザベラが、泣き崩れた。
「嫌だ……嫌だ……」
イザベラの声が、法廷に響く。
裁判長が、杖を叩いた。
「以上をもって、判決とする」
護衛たちが、継母とイザベラを連行し始めた。
継母は、抵抗しようとした。
「放しなさい! 私は侯爵夫人よ!」
だが、護衛は容赦しない。
両腕を掴み、引きずっていく。
イザベラは、泣きながら連行される。
「助けて……誰か……」
だが、誰も助けない。
二人は、法廷から連れ出された。
扉が閉まる。
静寂が、戻る。
エリアナは、席に座ったまま、じっと前を見つめていた。
終わった。
本当に、終わった。
父の仇を、討った。
継母を、裁いた。
エリアナの目から、涙が溢れた。
止められない。
カイザーが、エリアナの肩を抱いた。
「よく頑張った」
カイザーの声が、優しい。
エリアナは、カイザーの胸に顔を埋めた。
「お父様……」
エリアナの声が、震える。
「やりました……」
カイザーが、エリアナの髪を撫でる。
「お前は、強かった。誰よりも、強かった」
エリアナは、泣き続けた。
安堵の涙。
悲しみの涙。
そして、達成感の涙。
全てが、混ざり合って溢れてくる。
法廷では、貴族たちが次々と立ち上がっていた。
「皇妃陛下、お見事でした」
一人の公爵が、エリアナに頭を下げた。
他の貴族たちも、次々と頭を下げる。
「正義が、示されました」
「真実が、明らかになりました」
エリアナは、顔を上げた。
涙を拭い、立ち上がる。
そして、貴族たちに頭を下げた。
「ありがとうございます」
エリアナの声が、静かに響く。
「皆様のご支援があって、ここまで来られました」
貴族たちが、微笑む。
市民たちも、拍手し始めた。
最初は小さな拍手。
だが、次第に大きくなっていく。
法廷全体が、拍手に包まれた。
エリアナは、深く頭を下げた。
カイザーが、エリアナの手を取った。
「行くぞ」
二人は、法廷を後にした。
外では、朝日が昇っていた。
新しい一日。
新しい人生。
エリアナは、空を見上げた。
青い空。
流れる雲。
「お父様、見ていてくださいましたか」
エリアナの声が、空に向かう。
「正義を、示しました。真実を、明らかにしました。これで、貴方の無念は晴れたでしょうか」
風が、吹く。
優しい風。
まるで、父が答えているかのように。
エリアナは、微笑んだ。
「ありがとうございます、お父様」
エリアナは、カイザーを見た。
「これから、どうしましょう」
カイザーが、微笑んだ。
「これから、俺たちの未来を築く」
カイザーが、エリアナを抱き寄せた。
「お前と俺で、新しい人生を」
エリアナは、頷いた。
「はい」
二人は、手を繋いで歩き始めた。
王宮へ。
新しい未来へ。
戦いは、終わった。
復讐は、果たした。
そして今、本当の人生が始まる。
愛に満ちた人生。
希望に満ちた人生。
エリアナは、前だけを見つめた。
過去は、もう終わった。
これからは、未来だけ。
カイザーと共に。
手を繋いで。
歩いていく。
どこまでも。


