翌朝、王宮の中庭に騒ぎが起きた。
門番たちが、慌てた様子で走ってくる。
「皇妃陛下! 大変です!」
エリアナは、自室の窓から顔を出した。
「何事ですか」
「辺境の村人たちが、王都に!」
門番の声が、興奮している。
エリアナの心臓が、跳ね上がった。
「村人たち?」
エリアナは、急いで外套を羽織り、中庭へ駆け出した。
カイザーも、既に中庭に立っていた。
王宮の門の前。
そこには、数十人の人々が集まっていた。
老村長。若い男たち。女たち。そして、子供たち。
辺境の村人たち。
全員が、ここにいた。
エリアナが門に近づくと、村人たちが一斉に振り返った。
「皇妃様!」
子供たちが、駆け寄ってくる。
門番が慌てて止めようとするが、カイザーが手を上げた。
「通してやれ」
カイザーの声が、優しい。
門が開かれた。
子供たちが、エリアナに駆け寄る。
「エリアナ様!」
「会いたかった!」
エリアナは、膝をついて子供たちを抱きしめた。
「みんな……」
涙が、溢れそうになる。
老村長が、ゆっくりと近づいてきた。
杖をついて、一歩一歩。
エリアナは、立ち上がった。
老村長が、エリアナの前で止まった。
そして、深く頭を下げた。
「エリアナ様」
老村長の声が、震えている。
「私たちは、貴女の味方です」
老村長が、顔を上げた。
その目には、涙。
「王都で、噂を聞きました」
老村長の声が、続く。
「皇妃様が、地下牢に入れられたと」
「皇妃様が、苦しんでいると」
村人たちが、次々と頷く。
「私たちは、じっとしていられませんでした」
若い男が、前に出た。
「皇妃様は、私たちの村を救ってくださいました」
「荒れ果てた土地を、薬草園に変えてくださいました」
女たちも、声を上げる。
「私たちの子供を、治してくださいました」
「希望を、与えてくださいました」
老村長が、エリアナの手を取った。
「だから、私たちは来ました」
老村長の声が、力強い。
「貴女を、支えるために。貴女の味方であることを、示すために」
エリアナの目から、涙が溢れた。
止められない。
村人たちが、一人一人近づいてくる。
「エリアナ様、頑張ってください」
「私たちは、ずっと貴女を信じています」
「貴女は、私たちの誇りです」
子供たちが、花を差し出す。
野に咲く、素朴な花。
だが、その一つ一つに、温かい気持ちが込められている。
「エリアナ様、これ」
一人の少女が、花束を渡す。
「村のみんなで、摘んできました」
エリアナは、花束を受け取った。
香りが、鼻をつく。
優しい香り。
温かい香り。
エリアナは、花束を胸に抱きしめた。
「ありがとう……」
エリアナの声が、震える。
「ありがとうございます、皆さん」
村人たちが、微笑んでいる。
老村長が、言った。
「エリアナ様、貴女は一人ではありません」
老村長の声が、温かい。
「私たちが、います。貴女の家族が、ここにいます」
エリアナの胸が、熱くなった。
家族。
本当の家族。
王都の屋敷では、誰もエリアナを家族として扱わなかった。
継母は冷たく、イザベラは嘲笑い、使用人たちは目を逸らした。
だが、ここにいる人々は違う。
村人たちは、エリアナを必要としている。
エリアナも、村人たちを必要としている。
共に働き、共に笑い、共に生きる。
それが、家族。
エリアナは、村人たちを見回した。
一人一人の顔。
温かい目。
優しい微笑み。
「私には……家族がいる」
エリアナは、呟いた。
涙が、頬を伝う。
「本当の家族が」
老村長が、エリアナの肩を抱いた。
「そうです。私たちは、家族です」
村人たちが、歓声を上げた。
「エリアナ様!」
「皇妃様!」
子供たちが、エリアナの周りで踊る。
カイザーが、その光景を見ていた。
その目は、優しかった。
カイザーが、エリアナに近づく。
「いい仲間を持ったな」
カイザーの声が、温かい。
エリアナは、頷いた。
「はい」
カイザーが、村人たちに向き直った。
「皆、よく来てくれた」
カイザーの声が、広場に響く。
「エリアナは、俺の妻だ。そして、お前たちの領主だ」
カイザーが、宣言する。
「俺も、お前たちを守る」
村人たちが、跪いた。
「陛下、ありがとうございます」
カイザーが、手を上げた。
「跪くな。立て」
村人たちが、立ち上がる。
カイザーが、微笑んだ。
「お前たちは、エリアナの家族だ。ならば、俺の家族でもある」
村人たちの目が、輝いた。
「陛下……」
カイザーが、エリアナの手を取った。
「今日は、宮殿で休んでいけ」
カイザーの声が、優しい。
「明日、村へ送り届ける」
村人たちが、頭を下げた。
「ありがとうございます、陛下」
エリアナは、村人たちと共に宮殿へ入った。
温かい気持ちに、包まれながら。
夕方、エリアナは銀狼と共に薬草園を歩いていた。
村人たちは、宮殿の客室で休んでいる。
カイザーが、手配してくれた。
エリアナは、薬草の間を歩きながら、銀狼に語りかけた。
「ありがとう」
エリアナの声が、優しい。
「貴方がいなければ、父の日記を見つけられなかった」
銀狼が、エリアナを見上げる。
その目には、知性の光。
エリアナは、銀狼の頭を撫でた。
「貴方は、いつも私を助けてくれる」
その時。
銀狼が、立ち上がった。
そして、口を開いた。
「お前は、誰よりも強い」
低い声。
人間の言葉。
エリアナの体が、固まった。
「え……?」
エリアナは、銀狼を見つめた。
銀狼が、まっすぐにエリアナを見ている。
「お前が、俺を救ったように」
銀狼の声が、続く。
「今度は、お前が自分を救え」
エリアナの息が、止まった。
「貴方……話せるの?」
銀狼が、頷くように鼻を鳴らした。
「俺は、魔獣の王だ」
銀狼の声が、誇らしげだった。
「千年を生きる、森の守護者」
エリアナは、膝をついた。
銀狼と目線を合わせる。
「なぜ、今まで話さなかったの」
銀狼が、答えた。
「時が来るのを、待っていた」
銀狼の目が、エリアナを見つめる。
「お前が、本当に強くなるのを」
エリアナは、銀狼を見つめた。
「私は……まだ弱いです」
「違う」
銀狼が、首を横に振った。
「お前は、強い」
銀狼が、一歩近づく。
「お前は、継母に虐げられても、諦めなかった。お前は、毒を盛られても、生き返った。お前は、地下牢に入れられても、希望を失わなかった」
銀狼の声が、力強い。
「それが、強さだ」
エリアナの目から、涙が溢れた。
「でも……怖かったのです」
エリアナの声が、震える。
「地下牢で、一人で、暗闇の中で。怖くて、怖くて」
銀狼が、エリアナに近づいた。
額を、エリアナの額に合わせる。
「恐怖を感じることは、弱さではない」
銀狼の声が、優しい。
「恐怖を感じても、前に進むことが、強さだ」
エリアナは、銀狼を抱きしめた。
「ありがとう」
エリアナの声が、囁く。
「貴方がいてくれて」
銀狼が、小さく鳴いた。
「俺は、お前の守護者だ」
銀狼の声が、誓いのように響く。
「お前を守り、お前を支える。それが、俺の使命だ」
エリアナは、銀狼を抱きしめたまま、泣いた。
安堵の涙。
感謝の涙。
銀狼が、じっとエリアナに抱きしめられている。
温かい毛並み。
力強い鼓動。
「もう、大丈夫だ」
銀狼が、囁く。
「お前には、俺がいる。カイザーがいる。村人たちがいる。お前は、一人じゃない」
エリアナは、頷いた。
「はい」
二人は、しばらく抱き合っていた。
薬草園の中で。
月明かりの下で。
静かな時間。
温かい時間。
夜、薬草園。
エリアナは、一人薬草を眺めていた。
村人たちは、既に休んでいる。
銀狼も、どこかで休んでいる。
エリアナは、薬草の葉に触れた。
柔らかい。
優しい。
その時、背後から声が聞こえた。
「エリアナ」
カイザーの声。
エリアナが、振り返る。
カイザーが、薬草園の入口に立っていた。
黒い服を着て、月明かりに照らされている。
「カイザー」
エリアナが、微笑む。
カイザーが、ゆっくりと近づいてきた。
エリアナの前で、止まる。
そして。
カイザーが、跪いた。
エリアナの目が、見開かれた。
「カイザー?」
カイザーが、エリアナを見上げた。
その目は、真剣だった。
「エリアナ」
カイザーの声が、低く響く。
「改めて、俺の皇妃になってくれ」
カイザーが、懐から小さな箱を取り出した。
開ける。
中には、指輪。
銀色の指輪。中央に、深い青の宝石。
月明かりに照らされて、輝いている。
「契約でも、何でもない」
カイザーの声が、続く。
「心から、お前を愛している。お前と共に、生きたい。お前と共に、笑いたい。お前と共に、老いたい」
カイザーの目が、エリアナを見つめる。
「俺の妻になってくれ」
エリアナの目から、涙が溢れた。
止められない。
「カイザー……」
エリアナの声が、震える。
「私も……」
エリアナは、膝をついた。
カイザーと目線を合わせる。
「私も、貴方を愛しています」
エリアナの声が、囁く。
「心から貴方と共に、生きたい。貴方と共に、笑いたい。貴方と共に、老いたい」
エリアナが、手を差し出した。
カイザーが、指輪をエリアナの指にはめた。
ぴったりと、収まる。
指輪が、月明かりに輝く。
カイザーが、立ち上がった。
エリアナも、立ち上がる。
二人は、見つめ合った。
カイザーが、エリアナを抱きしめた。
強く。
エリアナも、カイザーを抱きしめた。
「愛している、エリアナ」
カイザーの声が、耳元で響く。
「俺の全てだ」
「私も、愛しています」
エリアナが、囁き返す。
「貴方が、私の全てです」
カイザーが、エリアナの顔を両手で包んだ。
そして、キスをした。
優しく。
深く。
エリアナは、目を閉じた。
カイザーの唇。
温かい。
愛おしい。
キスが、深くなる。
二人は、時間を忘れて抱き合った。
その時、空に、花火が上がった。
ドンッという音と共に、色とりどりの光が夜空を彩る。
エリアナが、顔を上げた。
「花火……?」
カイザーが、微笑んだ。
「俺が、手配した」
カイザーの声が、誇らしげだった。
「お前への、プロポーズの演出だ」
エリアナは、笑った。
「貴方らしいです」
花火が、次々と上がる。
赤、青、緑、金色。
夜空を、美しく染める。
エリアナとカイザーは、並んで花火を見上げた。
手を繋いで。
「綺麗ですね」
エリアナが、呟く。
「ああ」
カイザーが、答える。
「だが、お前の方が綺麗だ」
エリアナの頬が、赤くなる。
カイザーが、エリアナを抱き寄せた。
二人は、花火を見上げ続けた。
幸福な時間。
愛に満ちた時間。
花火が、終わった。
静寂が、戻る。
だが、二人の心には温かさが残っていた。
カイザーが、エリアナを見た。
「これから、どうする」
エリアナは、少し考えた。
そして、答えた。
「継母を、裁判にかけます」
エリアナの声が、きっぱりと響く。
「父の無念を、晴らすために」
カイザーが、頷いた。
「俺が、全面的に支援する」
カイザーの声が、力強い。
「お前の戦いは、俺の戦いだ」
エリアナは、カイザーの手を握った。
「ありがとうございます」
エリアナが、薬草園の奥へ歩いた。
小さな石碑がある。
父を偲んで、エリアナが建てたもの。
エリアナは、石碑の前で膝をついた。
懐から、父の日記を取り出す。
「お父様」
エリアナの声が、静かに響く。
「必ず、正義を示します」
エリアナが、日記を胸に抱きしめた。
「継母を裁き、真実を明らかにします。貴方の無念を、晴らします」
エリアナの目に、強い光が宿った。
決意の光。
もう、迷わない。
もう、恐れない。
エリアナは、立ち上がった。
カイザーが、エリアナの隣に立つ。
「行くぞ」
カイザーの声が、優しい。
エリアナは、頷いた。
「はい」
二人は、手を繋いで薬草園を後にした。
銀狼が、どこからか現れた。
二人の後をついてくる。
月明かりが、三人を照らしている。
新しい戦いが、始まろうとしていた。
だが、エリアナは恐れない。
カイザーがいる。
銀狼がいる。
村人たちがいる。
そして、エリアナ自身の決意がある。
「必ず、勝つ」
エリアナは、呟いた。
カイザーが、エリアナの手を握りしめた。
「ああ。必ず」
銀狼が、小さく鳴いた。
三人は、宮殿へ向かった。
明日から、本当の戦いが始まる。
継母との、最終決戦。
だが、エリアナの心には不安はなかった。
希望だけがあった。
正義を示す希望。
父の無念を晴らす希望。
そして、新しい未来を築く希望。
夜空には、星が輝いている。
無数の星。
その一つ一つが、エリアナを見守っているかのようだった。
エリアナは、空を見上げた。
「見ていてください、お父様」
エリアナの声が、夜空に響く。
「必ず、勝ちます」
カイザーが、エリアナを抱きしめた。
「一緒に、戦おう」
エリアナは、頷いた。
「はい。一緒に」
三人は、宮殿へ入った。
新しい戦いへ。
希望に満ちた未来へ。
手を繋ぎながら。
門番たちが、慌てた様子で走ってくる。
「皇妃陛下! 大変です!」
エリアナは、自室の窓から顔を出した。
「何事ですか」
「辺境の村人たちが、王都に!」
門番の声が、興奮している。
エリアナの心臓が、跳ね上がった。
「村人たち?」
エリアナは、急いで外套を羽織り、中庭へ駆け出した。
カイザーも、既に中庭に立っていた。
王宮の門の前。
そこには、数十人の人々が集まっていた。
老村長。若い男たち。女たち。そして、子供たち。
辺境の村人たち。
全員が、ここにいた。
エリアナが門に近づくと、村人たちが一斉に振り返った。
「皇妃様!」
子供たちが、駆け寄ってくる。
門番が慌てて止めようとするが、カイザーが手を上げた。
「通してやれ」
カイザーの声が、優しい。
門が開かれた。
子供たちが、エリアナに駆け寄る。
「エリアナ様!」
「会いたかった!」
エリアナは、膝をついて子供たちを抱きしめた。
「みんな……」
涙が、溢れそうになる。
老村長が、ゆっくりと近づいてきた。
杖をついて、一歩一歩。
エリアナは、立ち上がった。
老村長が、エリアナの前で止まった。
そして、深く頭を下げた。
「エリアナ様」
老村長の声が、震えている。
「私たちは、貴女の味方です」
老村長が、顔を上げた。
その目には、涙。
「王都で、噂を聞きました」
老村長の声が、続く。
「皇妃様が、地下牢に入れられたと」
「皇妃様が、苦しんでいると」
村人たちが、次々と頷く。
「私たちは、じっとしていられませんでした」
若い男が、前に出た。
「皇妃様は、私たちの村を救ってくださいました」
「荒れ果てた土地を、薬草園に変えてくださいました」
女たちも、声を上げる。
「私たちの子供を、治してくださいました」
「希望を、与えてくださいました」
老村長が、エリアナの手を取った。
「だから、私たちは来ました」
老村長の声が、力強い。
「貴女を、支えるために。貴女の味方であることを、示すために」
エリアナの目から、涙が溢れた。
止められない。
村人たちが、一人一人近づいてくる。
「エリアナ様、頑張ってください」
「私たちは、ずっと貴女を信じています」
「貴女は、私たちの誇りです」
子供たちが、花を差し出す。
野に咲く、素朴な花。
だが、その一つ一つに、温かい気持ちが込められている。
「エリアナ様、これ」
一人の少女が、花束を渡す。
「村のみんなで、摘んできました」
エリアナは、花束を受け取った。
香りが、鼻をつく。
優しい香り。
温かい香り。
エリアナは、花束を胸に抱きしめた。
「ありがとう……」
エリアナの声が、震える。
「ありがとうございます、皆さん」
村人たちが、微笑んでいる。
老村長が、言った。
「エリアナ様、貴女は一人ではありません」
老村長の声が、温かい。
「私たちが、います。貴女の家族が、ここにいます」
エリアナの胸が、熱くなった。
家族。
本当の家族。
王都の屋敷では、誰もエリアナを家族として扱わなかった。
継母は冷たく、イザベラは嘲笑い、使用人たちは目を逸らした。
だが、ここにいる人々は違う。
村人たちは、エリアナを必要としている。
エリアナも、村人たちを必要としている。
共に働き、共に笑い、共に生きる。
それが、家族。
エリアナは、村人たちを見回した。
一人一人の顔。
温かい目。
優しい微笑み。
「私には……家族がいる」
エリアナは、呟いた。
涙が、頬を伝う。
「本当の家族が」
老村長が、エリアナの肩を抱いた。
「そうです。私たちは、家族です」
村人たちが、歓声を上げた。
「エリアナ様!」
「皇妃様!」
子供たちが、エリアナの周りで踊る。
カイザーが、その光景を見ていた。
その目は、優しかった。
カイザーが、エリアナに近づく。
「いい仲間を持ったな」
カイザーの声が、温かい。
エリアナは、頷いた。
「はい」
カイザーが、村人たちに向き直った。
「皆、よく来てくれた」
カイザーの声が、広場に響く。
「エリアナは、俺の妻だ。そして、お前たちの領主だ」
カイザーが、宣言する。
「俺も、お前たちを守る」
村人たちが、跪いた。
「陛下、ありがとうございます」
カイザーが、手を上げた。
「跪くな。立て」
村人たちが、立ち上がる。
カイザーが、微笑んだ。
「お前たちは、エリアナの家族だ。ならば、俺の家族でもある」
村人たちの目が、輝いた。
「陛下……」
カイザーが、エリアナの手を取った。
「今日は、宮殿で休んでいけ」
カイザーの声が、優しい。
「明日、村へ送り届ける」
村人たちが、頭を下げた。
「ありがとうございます、陛下」
エリアナは、村人たちと共に宮殿へ入った。
温かい気持ちに、包まれながら。
夕方、エリアナは銀狼と共に薬草園を歩いていた。
村人たちは、宮殿の客室で休んでいる。
カイザーが、手配してくれた。
エリアナは、薬草の間を歩きながら、銀狼に語りかけた。
「ありがとう」
エリアナの声が、優しい。
「貴方がいなければ、父の日記を見つけられなかった」
銀狼が、エリアナを見上げる。
その目には、知性の光。
エリアナは、銀狼の頭を撫でた。
「貴方は、いつも私を助けてくれる」
その時。
銀狼が、立ち上がった。
そして、口を開いた。
「お前は、誰よりも強い」
低い声。
人間の言葉。
エリアナの体が、固まった。
「え……?」
エリアナは、銀狼を見つめた。
銀狼が、まっすぐにエリアナを見ている。
「お前が、俺を救ったように」
銀狼の声が、続く。
「今度は、お前が自分を救え」
エリアナの息が、止まった。
「貴方……話せるの?」
銀狼が、頷くように鼻を鳴らした。
「俺は、魔獣の王だ」
銀狼の声が、誇らしげだった。
「千年を生きる、森の守護者」
エリアナは、膝をついた。
銀狼と目線を合わせる。
「なぜ、今まで話さなかったの」
銀狼が、答えた。
「時が来るのを、待っていた」
銀狼の目が、エリアナを見つめる。
「お前が、本当に強くなるのを」
エリアナは、銀狼を見つめた。
「私は……まだ弱いです」
「違う」
銀狼が、首を横に振った。
「お前は、強い」
銀狼が、一歩近づく。
「お前は、継母に虐げられても、諦めなかった。お前は、毒を盛られても、生き返った。お前は、地下牢に入れられても、希望を失わなかった」
銀狼の声が、力強い。
「それが、強さだ」
エリアナの目から、涙が溢れた。
「でも……怖かったのです」
エリアナの声が、震える。
「地下牢で、一人で、暗闇の中で。怖くて、怖くて」
銀狼が、エリアナに近づいた。
額を、エリアナの額に合わせる。
「恐怖を感じることは、弱さではない」
銀狼の声が、優しい。
「恐怖を感じても、前に進むことが、強さだ」
エリアナは、銀狼を抱きしめた。
「ありがとう」
エリアナの声が、囁く。
「貴方がいてくれて」
銀狼が、小さく鳴いた。
「俺は、お前の守護者だ」
銀狼の声が、誓いのように響く。
「お前を守り、お前を支える。それが、俺の使命だ」
エリアナは、銀狼を抱きしめたまま、泣いた。
安堵の涙。
感謝の涙。
銀狼が、じっとエリアナに抱きしめられている。
温かい毛並み。
力強い鼓動。
「もう、大丈夫だ」
銀狼が、囁く。
「お前には、俺がいる。カイザーがいる。村人たちがいる。お前は、一人じゃない」
エリアナは、頷いた。
「はい」
二人は、しばらく抱き合っていた。
薬草園の中で。
月明かりの下で。
静かな時間。
温かい時間。
夜、薬草園。
エリアナは、一人薬草を眺めていた。
村人たちは、既に休んでいる。
銀狼も、どこかで休んでいる。
エリアナは、薬草の葉に触れた。
柔らかい。
優しい。
その時、背後から声が聞こえた。
「エリアナ」
カイザーの声。
エリアナが、振り返る。
カイザーが、薬草園の入口に立っていた。
黒い服を着て、月明かりに照らされている。
「カイザー」
エリアナが、微笑む。
カイザーが、ゆっくりと近づいてきた。
エリアナの前で、止まる。
そして。
カイザーが、跪いた。
エリアナの目が、見開かれた。
「カイザー?」
カイザーが、エリアナを見上げた。
その目は、真剣だった。
「エリアナ」
カイザーの声が、低く響く。
「改めて、俺の皇妃になってくれ」
カイザーが、懐から小さな箱を取り出した。
開ける。
中には、指輪。
銀色の指輪。中央に、深い青の宝石。
月明かりに照らされて、輝いている。
「契約でも、何でもない」
カイザーの声が、続く。
「心から、お前を愛している。お前と共に、生きたい。お前と共に、笑いたい。お前と共に、老いたい」
カイザーの目が、エリアナを見つめる。
「俺の妻になってくれ」
エリアナの目から、涙が溢れた。
止められない。
「カイザー……」
エリアナの声が、震える。
「私も……」
エリアナは、膝をついた。
カイザーと目線を合わせる。
「私も、貴方を愛しています」
エリアナの声が、囁く。
「心から貴方と共に、生きたい。貴方と共に、笑いたい。貴方と共に、老いたい」
エリアナが、手を差し出した。
カイザーが、指輪をエリアナの指にはめた。
ぴったりと、収まる。
指輪が、月明かりに輝く。
カイザーが、立ち上がった。
エリアナも、立ち上がる。
二人は、見つめ合った。
カイザーが、エリアナを抱きしめた。
強く。
エリアナも、カイザーを抱きしめた。
「愛している、エリアナ」
カイザーの声が、耳元で響く。
「俺の全てだ」
「私も、愛しています」
エリアナが、囁き返す。
「貴方が、私の全てです」
カイザーが、エリアナの顔を両手で包んだ。
そして、キスをした。
優しく。
深く。
エリアナは、目を閉じた。
カイザーの唇。
温かい。
愛おしい。
キスが、深くなる。
二人は、時間を忘れて抱き合った。
その時、空に、花火が上がった。
ドンッという音と共に、色とりどりの光が夜空を彩る。
エリアナが、顔を上げた。
「花火……?」
カイザーが、微笑んだ。
「俺が、手配した」
カイザーの声が、誇らしげだった。
「お前への、プロポーズの演出だ」
エリアナは、笑った。
「貴方らしいです」
花火が、次々と上がる。
赤、青、緑、金色。
夜空を、美しく染める。
エリアナとカイザーは、並んで花火を見上げた。
手を繋いで。
「綺麗ですね」
エリアナが、呟く。
「ああ」
カイザーが、答える。
「だが、お前の方が綺麗だ」
エリアナの頬が、赤くなる。
カイザーが、エリアナを抱き寄せた。
二人は、花火を見上げ続けた。
幸福な時間。
愛に満ちた時間。
花火が、終わった。
静寂が、戻る。
だが、二人の心には温かさが残っていた。
カイザーが、エリアナを見た。
「これから、どうする」
エリアナは、少し考えた。
そして、答えた。
「継母を、裁判にかけます」
エリアナの声が、きっぱりと響く。
「父の無念を、晴らすために」
カイザーが、頷いた。
「俺が、全面的に支援する」
カイザーの声が、力強い。
「お前の戦いは、俺の戦いだ」
エリアナは、カイザーの手を握った。
「ありがとうございます」
エリアナが、薬草園の奥へ歩いた。
小さな石碑がある。
父を偲んで、エリアナが建てたもの。
エリアナは、石碑の前で膝をついた。
懐から、父の日記を取り出す。
「お父様」
エリアナの声が、静かに響く。
「必ず、正義を示します」
エリアナが、日記を胸に抱きしめた。
「継母を裁き、真実を明らかにします。貴方の無念を、晴らします」
エリアナの目に、強い光が宿った。
決意の光。
もう、迷わない。
もう、恐れない。
エリアナは、立ち上がった。
カイザーが、エリアナの隣に立つ。
「行くぞ」
カイザーの声が、優しい。
エリアナは、頷いた。
「はい」
二人は、手を繋いで薬草園を後にした。
銀狼が、どこからか現れた。
二人の後をついてくる。
月明かりが、三人を照らしている。
新しい戦いが、始まろうとしていた。
だが、エリアナは恐れない。
カイザーがいる。
銀狼がいる。
村人たちがいる。
そして、エリアナ自身の決意がある。
「必ず、勝つ」
エリアナは、呟いた。
カイザーが、エリアナの手を握りしめた。
「ああ。必ず」
銀狼が、小さく鳴いた。
三人は、宮殿へ向かった。
明日から、本当の戦いが始まる。
継母との、最終決戦。
だが、エリアナの心には不安はなかった。
希望だけがあった。
正義を示す希望。
父の無念を晴らす希望。
そして、新しい未来を築く希望。
夜空には、星が輝いている。
無数の星。
その一つ一つが、エリアナを見守っているかのようだった。
エリアナは、空を見上げた。
「見ていてください、お父様」
エリアナの声が、夜空に響く。
「必ず、勝ちます」
カイザーが、エリアナを抱きしめた。
「一緒に、戦おう」
エリアナは、頷いた。
「はい。一緒に」
三人は、宮殿へ入った。
新しい戦いへ。
希望に満ちた未来へ。
手を繋ぎながら。


