舞踏会が、佳境に入った頃。
エリアナは、カイザーの隣でワインを飲んでいた。
その時、背後から声が聞こえた。
「まあ、エリアナ?」
甲高い声。
エリアナの体が、固まった。
この声は。
エリアナが振り返ると、そこには継母マルグリットとイザベラが立っていた。
継母は、豪華な紫のドレスを纏っている。宝石を身につけ、化粧は完璧。
イザベラは、ピンクのドレス。金色の巻き毛を優雅に結い上げている。
二人とも、冷たい笑みを浮かべていた。
「辺境の野良犬が、随分と着飾っているわね」
継母の声が、嘲笑に満ちている。
「まさか、皇妃になるとは。世も末ね」
イザベラが、クスクスと笑う。
「皇帝陛下も、物好きなのね」
エリアナの拳が、握りしめられた。
だが、表情は変えない。
冷静に。
エリアナは、優雅に微笑んだ。
「お母様、お元気そうで何よりです」
エリアナの声は、穏やかだった。
「イザベラも、王太子妃として順調かしら」
継母の笑みが、一瞬凍りついた。
イザベラの顔が、歪む。
「貴女に心配される筋合いはないわ」
イザベラが、鋭く言う。
「私は、王太子殿下に愛されているもの」
エリアナは、微笑みを保った。
「それは良かったですわ」
その時、背後から冷たい声が響いた。
「我が婚約者を侮辱する者は、許さん」
カイザーだった。
カイザーが、エリアナの隣に立つ。
その目は、氷のように冷たい。
継母とイザベラが、顔色を失った。
「陛下……」
継母が、慌てて頭を下げる。
「失礼いたしました。冗談のつもりで」
「冗談?」
カイザーの声が、低く響く。
「俺には、侮辱にしか聞こえなかったが」
カイザーの周囲に、冷気が漂う。
周りの貴族たちが、息を呑む。
継母が、震えている。
イザベラは、青ざめている。
「もう一度、エリアナを侮辱してみろ」
カイザーが、一歩前に出る。
「その時は、お前たちの家を潰す」
継母が、顔を上げた。
その目には、恐怖。
「申し訳ございません、陛下」
継母が、深く頭を下げる。
イザベラも、慌てて頭を下げた。
カイザーは、冷たく見下ろした。
「消えろ」
継母とイザベラは、慌てて去っていった。
エリアナは、その背中を見送った。
カイザーが、エリアナの肩を抱いた。
「大丈夫か」
エリアナは、頷いた。
「はい。ありがとうございます」
カイザーが、エリアナの額にキスをした。
「お前を傷つける者は、誰であろうと許さない」
エリアナの胸が、温かくなった。
だが、同時に決意も固まった。
継母を、必ず裁く。
翌日、エリアナは密かに動き始めた。
旧侯爵家の使用人に、接触する。
父が生きていた頃、仕えていた人々。
エリアナは、王都の下町を歩いた。
質素な服を着て、フードで顔を隠している。
古い建物の前で、エリアナは立ち止まった。
扉を叩く。
しばらくして、扉が開いた。
老メイド、マリア。
エリアナが幼い頃から仕えてくれた、唯一親切だった使用人。
マリアは、エリアナを見て目を見開いた。
「お嬢様……!」
「マリア、久しぶりです」
エリアナは、微笑んだ。
マリアは、慌ててエリアナを中に招いた。
小さな部屋。質素な家具。
二人は、テーブルを挟んで座った。
「お嬢様、本当に皇妃様になられたのですね」
マリアの目から、涙が溢れる。
「嬉しいです。本当に」
エリアナは、マリアの手を握った。
「マリア、お願いがあります」
マリアが、真剣な顔になった。
「何でしょうか」
「父の死について、何か知っていることがあれば教えてください」
マリアの顔が、曇った。
「やはり……お嬢様も気づいておられたのですね」
エリアナの心臓が、跳ね上がった。
「何か、知っているのですか」
マリアは、しばらく沈黙した。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「お嬢様、実は……」
マリアの声が、震える。
「侯爵様が亡くなる数日前、夫人が医師と密談しているのを見ました」
エリアナは、息を呑んだ。
「医師と?」
「はい。夫人が、医師に大金を渡していました。そして、『診断書を偽造しろ』と」
エリアナの拳が、握りしめられた。
「診断書を……」
「侯爵様の死因を、心不全としろと。本当の原因を隠せと」
マリアの目から、涙が流れる。
「私は、怖くて何も言えませんでした。ごめんなさい、お嬢様」
エリアナは、マリアの手を握りしめた。
「いいえ、マリア。貴女は悪くありません」
エリアナは、深く息を吸った。
「他に、何か知っていることはありますか」
マリアは、頷いた。
「夫人が、怪しげな男と何度も会っていました。黒いローブを着た男です」
エリアナは、記憶を辿った。
あの夜、見た密談。
黒いローブの男。
「その男は、誰ですか」
「わかりません。ですが、薬を売る商人だと聞きました」
毒を売る商人。
エリアナは、全てが繋がっていくのを感じた。
「マリア、この話を証言してくれますか」
マリアは、真剣な目でエリアナを見つめた。
「はい。お嬢様のためなら」
エリアナは、マリアを抱きしめた。
「ありがとうございます」
エリアナは、マリアの家を後にした。
フードを深く被り、王宮へ戻る。
自室で、エリアナはノートに全てを記録した。
継母の医師買収。
偽の診断書。
黒いローブの男。
全ての証拠を、集める。
「必ず、正義を」
エリアナは、呟いた。
「お父様、必ず」
数日後、再び舞踏会が開かれた。
エリアナは、カイザーと共に出席していた。
音楽が流れ、貴族たちが踊っている。
エリアナが、テラスで休んでいると、背後から声が聞こえた。
「エリアナ」
低い声。
エリアナが振り返ると、王太子アレクが立っていた。
金色の髪、端正な顔立ち。だが、その目には疲れが見える。
「アレク様」
エリアナは、冷静に答えた。
アレクが、一歩近づく。
「君と、話がしたい」
「何でしょうか」
エリアナの声は、冷たかった。
アレクは、しばらく沈黙した。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「君を手放したのは、間違いだった」
エリアナの目が、見開かれた。
「今更、そんなことを」
「わかっている。今更だ」
アレクの声が、苦しげだった。
「だが、後悔している。君は、誰よりも素晴らしい女性だった」
エリアナは、首を横に振った。
「もう遅いです」
エリアナの声が、きっぱりと響く。
「私には、陛下がいます」
アレクの顔が、苦痛に歪んだ。
「そうか……」
アレクは、肩を落とした。
「君が幸せなら、それでいい」
アレクは、そう言い残して去っていった。
エリアナは、その背中を見送った。
同情は、ない。
あの時、エリアナを捨てたのはアレクだ。
今更、後悔されても。
「あの男に、未練はあるか」
背後から、カイザーの声。
エリアナが振り返ると、カイザーが立っていた。
その目には、嫉妬の色。
エリアナは、微笑んだ。
「ありません」
エリアナは、カイザーに抱きついた。
「貴方だけです」
カイザーが、エリアナを抱きしめた。
「そうか」
カイザーの声が、安堵に満ちている。
「お前は、俺のものだ」
エリアナは、頷いた。
「はい。貴方のものです」
二人は、抱き合ったまま、しばらく動かなかった。
数週間後、エリアナはカイザーに提案した。
「薬を、販売したいのです」
カイザーが、エリアナを見る。
「薬を?」
「はい。貴族向けに、美容と健康の薬を」
エリアナは、ノートを見せた。
「若返りの効果がある薬草を調合しました。これを販売すれば、多くの人が喜ぶと思います」
カイザーは、ノートを見た。
そして、笑った。
「商売をするのか」
「はい。おかしいですか」
「いや」
カイザーが、首を横に振る。
「面白い。やってみろ」
カイザーが、エリアナの頭を撫でる。
「お前が望むなら、何でも支援する」
エリアナは、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます」
エリアナは、薬草園で薬を調合し始めた。
若返りの薬。
肌を美しくする薬。
髪を艶やかにする薬。
全て、前世の知識に基づいて。
数週間後、エリアナは貴族向けに薬の販売を始めた。
宮殿の一室を使い、貴族婦人たちを招く。
部屋には、美しく装飾された瓶が並んでいる。
貴族婦人たちが、次々と訪れた。
「これが、噂の薬ですか」
一人の婦人が、瓶を手に取る。
「はい。肌を美しくする効果があります」
エリアナが、優雅に説明する。
婦人が、試してみる。
数日後、婦人が再び訪れた。
「素晴らしいわ! 肌が、本当に綺麗になったわ!」
婦人の興奮した声。
噂は、すぐに広まった。
貴族婦人たちが、次々とエリアナの薬を求めてくる。
ある日、エリアナの部屋に数人の令嬢が訪れた。
以前、舞踏会でエリアナを嘲笑していた令嬢たち。
「元は追放された令嬢」と囁いていた者たち。
令嬢たちは、深く頭を下げた。
「皇妃陛下、お願いします」
一人の令嬢が、懇願する声。
「その薬を、私たちにも分けていただけませんか」
エリアナは、内心で微笑んだ。
ざまぁ。
以前は嘲笑していたのに、今は頭を下げている。
だが、エリアナは表情には出さない。
優雅に、微笑む。
「もちろんです。皆様に、お分けいたします」
令嬢たちが、安堵の表情。
「ありがとうございます、皇妃陛下」
「本当に、お優しい方ですわ」
令嬢たちは、薬を受け取り、満足そうに去っていった。
エリアナは、一人部屋に残された。
窓の外を見る。
王都の街並み。
エリアナは、小さく笑った。
人は、権力に群がる。
以前は見下していた者に、今は頭を下げる。
それが、現実。
だが、エリアナはそれを利用する。
薬の販売で得た人脈。
それを、継母を裁くために使う。
全ては、計画通り。
エリアナは、ノートを開いた。
証拠のリスト。
マリアの証言。
医師の買収の記録。
黒いローブの男の情報。
まだ、足りない。
もっと証拠が必要。
だが、少しずつ集まっている。
「もう少し」
エリアナは、呟いた。
「もう少しで、全てが揃う」
カイザーが、部屋に入ってきた。
「エリアナ、何をしている」
エリアナは、ノートを閉じた。
「薬の記録を、つけていました」
カイザーが、エリアナの隣に座る。
「薬の販売は、順調か」
「はい。貴族婦人たちに、大好評です」
カイザーが、微笑む。
「さすがだな」
カイザーが、エリアナを抱き寄せた。
「お前は、何でもできる」
エリアナは、カイザーに寄り添った。
「貴方のおかげです」
カイザーが、エリアナの髪を撫でる。
「俺は、ただお前を支えているだけだ」
エリアナは、カイザーを見上げた。
「それが、何よりも嬉しいのです」
カイザーが、エリアナにキスをした。
優しく。深く。
エリアナは、目を閉じた。
幸福。
だが、同時に決意も固い。
継母を裁く。
父の無念を晴らす。
そして、自分の人生を、完全に取り戻す。
カイザーが、そばにいてくれる。
それがあれば、何でもできる。
エリアナは、そう信じていた。
夜が、深くなっていく。
二人は、抱き合ったまま、静かな時を過ごした。
窓の外には、星が輝いている。
新しい未来が、そこにある。
エリアナは、前だけを見つめた。
エリアナは、カイザーの隣でワインを飲んでいた。
その時、背後から声が聞こえた。
「まあ、エリアナ?」
甲高い声。
エリアナの体が、固まった。
この声は。
エリアナが振り返ると、そこには継母マルグリットとイザベラが立っていた。
継母は、豪華な紫のドレスを纏っている。宝石を身につけ、化粧は完璧。
イザベラは、ピンクのドレス。金色の巻き毛を優雅に結い上げている。
二人とも、冷たい笑みを浮かべていた。
「辺境の野良犬が、随分と着飾っているわね」
継母の声が、嘲笑に満ちている。
「まさか、皇妃になるとは。世も末ね」
イザベラが、クスクスと笑う。
「皇帝陛下も、物好きなのね」
エリアナの拳が、握りしめられた。
だが、表情は変えない。
冷静に。
エリアナは、優雅に微笑んだ。
「お母様、お元気そうで何よりです」
エリアナの声は、穏やかだった。
「イザベラも、王太子妃として順調かしら」
継母の笑みが、一瞬凍りついた。
イザベラの顔が、歪む。
「貴女に心配される筋合いはないわ」
イザベラが、鋭く言う。
「私は、王太子殿下に愛されているもの」
エリアナは、微笑みを保った。
「それは良かったですわ」
その時、背後から冷たい声が響いた。
「我が婚約者を侮辱する者は、許さん」
カイザーだった。
カイザーが、エリアナの隣に立つ。
その目は、氷のように冷たい。
継母とイザベラが、顔色を失った。
「陛下……」
継母が、慌てて頭を下げる。
「失礼いたしました。冗談のつもりで」
「冗談?」
カイザーの声が、低く響く。
「俺には、侮辱にしか聞こえなかったが」
カイザーの周囲に、冷気が漂う。
周りの貴族たちが、息を呑む。
継母が、震えている。
イザベラは、青ざめている。
「もう一度、エリアナを侮辱してみろ」
カイザーが、一歩前に出る。
「その時は、お前たちの家を潰す」
継母が、顔を上げた。
その目には、恐怖。
「申し訳ございません、陛下」
継母が、深く頭を下げる。
イザベラも、慌てて頭を下げた。
カイザーは、冷たく見下ろした。
「消えろ」
継母とイザベラは、慌てて去っていった。
エリアナは、その背中を見送った。
カイザーが、エリアナの肩を抱いた。
「大丈夫か」
エリアナは、頷いた。
「はい。ありがとうございます」
カイザーが、エリアナの額にキスをした。
「お前を傷つける者は、誰であろうと許さない」
エリアナの胸が、温かくなった。
だが、同時に決意も固まった。
継母を、必ず裁く。
翌日、エリアナは密かに動き始めた。
旧侯爵家の使用人に、接触する。
父が生きていた頃、仕えていた人々。
エリアナは、王都の下町を歩いた。
質素な服を着て、フードで顔を隠している。
古い建物の前で、エリアナは立ち止まった。
扉を叩く。
しばらくして、扉が開いた。
老メイド、マリア。
エリアナが幼い頃から仕えてくれた、唯一親切だった使用人。
マリアは、エリアナを見て目を見開いた。
「お嬢様……!」
「マリア、久しぶりです」
エリアナは、微笑んだ。
マリアは、慌ててエリアナを中に招いた。
小さな部屋。質素な家具。
二人は、テーブルを挟んで座った。
「お嬢様、本当に皇妃様になられたのですね」
マリアの目から、涙が溢れる。
「嬉しいです。本当に」
エリアナは、マリアの手を握った。
「マリア、お願いがあります」
マリアが、真剣な顔になった。
「何でしょうか」
「父の死について、何か知っていることがあれば教えてください」
マリアの顔が、曇った。
「やはり……お嬢様も気づいておられたのですね」
エリアナの心臓が、跳ね上がった。
「何か、知っているのですか」
マリアは、しばらく沈黙した。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「お嬢様、実は……」
マリアの声が、震える。
「侯爵様が亡くなる数日前、夫人が医師と密談しているのを見ました」
エリアナは、息を呑んだ。
「医師と?」
「はい。夫人が、医師に大金を渡していました。そして、『診断書を偽造しろ』と」
エリアナの拳が、握りしめられた。
「診断書を……」
「侯爵様の死因を、心不全としろと。本当の原因を隠せと」
マリアの目から、涙が流れる。
「私は、怖くて何も言えませんでした。ごめんなさい、お嬢様」
エリアナは、マリアの手を握りしめた。
「いいえ、マリア。貴女は悪くありません」
エリアナは、深く息を吸った。
「他に、何か知っていることはありますか」
マリアは、頷いた。
「夫人が、怪しげな男と何度も会っていました。黒いローブを着た男です」
エリアナは、記憶を辿った。
あの夜、見た密談。
黒いローブの男。
「その男は、誰ですか」
「わかりません。ですが、薬を売る商人だと聞きました」
毒を売る商人。
エリアナは、全てが繋がっていくのを感じた。
「マリア、この話を証言してくれますか」
マリアは、真剣な目でエリアナを見つめた。
「はい。お嬢様のためなら」
エリアナは、マリアを抱きしめた。
「ありがとうございます」
エリアナは、マリアの家を後にした。
フードを深く被り、王宮へ戻る。
自室で、エリアナはノートに全てを記録した。
継母の医師買収。
偽の診断書。
黒いローブの男。
全ての証拠を、集める。
「必ず、正義を」
エリアナは、呟いた。
「お父様、必ず」
数日後、再び舞踏会が開かれた。
エリアナは、カイザーと共に出席していた。
音楽が流れ、貴族たちが踊っている。
エリアナが、テラスで休んでいると、背後から声が聞こえた。
「エリアナ」
低い声。
エリアナが振り返ると、王太子アレクが立っていた。
金色の髪、端正な顔立ち。だが、その目には疲れが見える。
「アレク様」
エリアナは、冷静に答えた。
アレクが、一歩近づく。
「君と、話がしたい」
「何でしょうか」
エリアナの声は、冷たかった。
アレクは、しばらく沈黙した。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「君を手放したのは、間違いだった」
エリアナの目が、見開かれた。
「今更、そんなことを」
「わかっている。今更だ」
アレクの声が、苦しげだった。
「だが、後悔している。君は、誰よりも素晴らしい女性だった」
エリアナは、首を横に振った。
「もう遅いです」
エリアナの声が、きっぱりと響く。
「私には、陛下がいます」
アレクの顔が、苦痛に歪んだ。
「そうか……」
アレクは、肩を落とした。
「君が幸せなら、それでいい」
アレクは、そう言い残して去っていった。
エリアナは、その背中を見送った。
同情は、ない。
あの時、エリアナを捨てたのはアレクだ。
今更、後悔されても。
「あの男に、未練はあるか」
背後から、カイザーの声。
エリアナが振り返ると、カイザーが立っていた。
その目には、嫉妬の色。
エリアナは、微笑んだ。
「ありません」
エリアナは、カイザーに抱きついた。
「貴方だけです」
カイザーが、エリアナを抱きしめた。
「そうか」
カイザーの声が、安堵に満ちている。
「お前は、俺のものだ」
エリアナは、頷いた。
「はい。貴方のものです」
二人は、抱き合ったまま、しばらく動かなかった。
数週間後、エリアナはカイザーに提案した。
「薬を、販売したいのです」
カイザーが、エリアナを見る。
「薬を?」
「はい。貴族向けに、美容と健康の薬を」
エリアナは、ノートを見せた。
「若返りの効果がある薬草を調合しました。これを販売すれば、多くの人が喜ぶと思います」
カイザーは、ノートを見た。
そして、笑った。
「商売をするのか」
「はい。おかしいですか」
「いや」
カイザーが、首を横に振る。
「面白い。やってみろ」
カイザーが、エリアナの頭を撫でる。
「お前が望むなら、何でも支援する」
エリアナは、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます」
エリアナは、薬草園で薬を調合し始めた。
若返りの薬。
肌を美しくする薬。
髪を艶やかにする薬。
全て、前世の知識に基づいて。
数週間後、エリアナは貴族向けに薬の販売を始めた。
宮殿の一室を使い、貴族婦人たちを招く。
部屋には、美しく装飾された瓶が並んでいる。
貴族婦人たちが、次々と訪れた。
「これが、噂の薬ですか」
一人の婦人が、瓶を手に取る。
「はい。肌を美しくする効果があります」
エリアナが、優雅に説明する。
婦人が、試してみる。
数日後、婦人が再び訪れた。
「素晴らしいわ! 肌が、本当に綺麗になったわ!」
婦人の興奮した声。
噂は、すぐに広まった。
貴族婦人たちが、次々とエリアナの薬を求めてくる。
ある日、エリアナの部屋に数人の令嬢が訪れた。
以前、舞踏会でエリアナを嘲笑していた令嬢たち。
「元は追放された令嬢」と囁いていた者たち。
令嬢たちは、深く頭を下げた。
「皇妃陛下、お願いします」
一人の令嬢が、懇願する声。
「その薬を、私たちにも分けていただけませんか」
エリアナは、内心で微笑んだ。
ざまぁ。
以前は嘲笑していたのに、今は頭を下げている。
だが、エリアナは表情には出さない。
優雅に、微笑む。
「もちろんです。皆様に、お分けいたします」
令嬢たちが、安堵の表情。
「ありがとうございます、皇妃陛下」
「本当に、お優しい方ですわ」
令嬢たちは、薬を受け取り、満足そうに去っていった。
エリアナは、一人部屋に残された。
窓の外を見る。
王都の街並み。
エリアナは、小さく笑った。
人は、権力に群がる。
以前は見下していた者に、今は頭を下げる。
それが、現実。
だが、エリアナはそれを利用する。
薬の販売で得た人脈。
それを、継母を裁くために使う。
全ては、計画通り。
エリアナは、ノートを開いた。
証拠のリスト。
マリアの証言。
医師の買収の記録。
黒いローブの男の情報。
まだ、足りない。
もっと証拠が必要。
だが、少しずつ集まっている。
「もう少し」
エリアナは、呟いた。
「もう少しで、全てが揃う」
カイザーが、部屋に入ってきた。
「エリアナ、何をしている」
エリアナは、ノートを閉じた。
「薬の記録を、つけていました」
カイザーが、エリアナの隣に座る。
「薬の販売は、順調か」
「はい。貴族婦人たちに、大好評です」
カイザーが、微笑む。
「さすがだな」
カイザーが、エリアナを抱き寄せた。
「お前は、何でもできる」
エリアナは、カイザーに寄り添った。
「貴方のおかげです」
カイザーが、エリアナの髪を撫でる。
「俺は、ただお前を支えているだけだ」
エリアナは、カイザーを見上げた。
「それが、何よりも嬉しいのです」
カイザーが、エリアナにキスをした。
優しく。深く。
エリアナは、目を閉じた。
幸福。
だが、同時に決意も固い。
継母を裁く。
父の無念を晴らす。
そして、自分の人生を、完全に取り戻す。
カイザーが、そばにいてくれる。
それがあれば、何でもできる。
エリアナは、そう信じていた。
夜が、深くなっていく。
二人は、抱き合ったまま、静かな時を過ごした。
窓の外には、星が輝いている。
新しい未来が、そこにある。
エリアナは、前だけを見つめた。


