気まぐれでもいい
嘘でもいい
一度だけでいいから
その唇から紡がれる
『言葉』を、聞きたい
……聞きたい
……聞きたくない
だって、それは
夢の終わりを示す呪文だから
「明日からいよいよリーグ戦だ。試合に出る者も、そうでない者も、皆同じだ。気を緩める事無く試合に臨むように。そして男子、女子ともにリーグ昇格だ」
「「はいっっ!!!」」
疾風の力強い宣言。
皆、士気が上がっているのが、ビリビリと五感に伝わる。
「副主将」
隣に座っていたあたしは、急に呼ばれて疾風を見る。
決して傲らないけれど、
自信に満ちあふれていて揺るがない強い瞳。
主将として部員を引っ張っているその姿に、
何度ときめいたのだろうか。
呼ばれた理由は分かりきっている。
あたしは前を向き直して深呼吸する。
皆、真剣にじっとあたしを見る。
自分自身にも言い聞かすように、一言一句噛み締めながら話す。
「集中力、精神力など全てにおいて相手に負けないように・・・そして何より、己に負けないように・・・。以上っ!」
「さっすが心だな」
「何が?」
時刻はお昼をまわっていた。
明日の試合など軽い打ち合わせの後、あたしと疾風は顧問の部屋に行くところ。
もう大学生なので、顧問の引率は無くても大丈夫だけど、一応来て頂けるか確認する為だ。
「心の言葉を聞いて、皆やる気上げてる。さすが副主将」
「疾風が先だったからよ。あたしはそれに倣っただけ」
紙パックのジュースをカラカラ鳴らしながら、疾風は笑う。
「買い被んなよ。俺はオマエのそういうとこ良ーく知ってんの」
ずるい。
本当にコイツはずるい。
好きだとは言わないくせに、
大事だと、簡単に言う。
何気ない疾風の一言にあっさりと陥落してしまう。
だけど彼のそれは
【好き】
という感情ではなく
【友情】
なんだ。
たとえそれが
期間限定の【彼氏】だとしても。
恨めしげな視線を投げつけると、疾風はキョトンとする。
「何だよ、ジュース欲しかったのか?惜しかったな・・・もう飲んだ・・・」
「このっ!!」
言い終わる前に手を伸ばして、乙女心がわからない彼の髪の毛を掴んで引っ張った。
「いってっーーー!!」
「・・・スッキリしないっ!!」
と、もう一度、
さっきよりも思いっきり引っ張る。
「だぁっ!!何なんだっ!!いてぇだろっ!!」
「あぁ・・・なんていうか・・・、スキンシップ??」
「何爽やかな顔して言ってんだ・・・!オマエは彼氏に対してそんなスキンシップするのかよ?!!」
「え…?」
あの日。
期間限定の恋人に合意した疾風にキスをした。
驚いた瞳の疾風。
あたしは、この行動の真意を追求される前に帰ろうと促し、疾風ももうその事に触れてはこなかった。
次の日、ちゃんと疾風と話し合い取り決めたこと。
“リーグ戦に集中するから、それが終わってからフリをはじめる”
“心に好きな人が出来たら、そこでフリは終わりにすること”
最後に疾風は笑ってこう言った。
『心配すんな、フリって言ってもお前は通常運転でいいんだよ。俺が何とかするからさ』
――そういう気遣いは反則なんだってば……
と、いちいちトキメくあたしもほんとどうかしてる。
部内でも一応、内密にしておくのだが、友達でもある雫と和泉には事の顛末を伝えた。
雫はあたしが疾風を好きなのを知っていたが、どうやら和泉も感づいていたらしい。
密かにフォロー……というか見守ってくれる事になった。
まぁ……この双子、人の恋を楽しんでいる感が否めないんですが……。
疾風はというと、淡々としていて今までと何ら変わらずの態度。
そりゃそうだ。
でも言い出しっぺのあたしは……。
妙に意識し過ぎて、ここ数日可笑しな態度ばかり。
フリ…しかもまだ開始してないとはいえ、部活以外に疾風と会えば【彼氏】を意識してしまう。
わかっていても疾風がいつもの対応……。
即ち、恋人として意識されていないことに、軽いショックを受けているのだ。
――ひとり馬鹿みたい
疾風は彼女を好きで、彼女の為にフリをしているだけ。
そう分かっていて提案したくせに…。
――始まっていないはずなのに、
あたしだけが先走っているみたいで。
だから疾風は、恋人らしいことはしない。
そう思っていたのに――【彼氏】の言葉。
不意打ちとはこのことだ。
「なんだよその顔…心が言い出したんだろ?」
「…ぁぁ…うん、そうなんだけど…でもリーグ戦もあるし……」
「変なヤツだなぁ…ほら」
口ごもるあたしの前に、差し出された手のひら。ちょこんとのってる銀紙。
「コレで我慢しろよ」
くしゃと顔を緩ませて笑うその顔は、
あの時と同じ。
胸の奥がキュッと締め付けられて、
苦しいけど、
甘く痺れる。
そう。
恋に落ちる感覚を初めて知った、
あの時と同じだ。
「好きだね、そのチョコ」
疾風がいつも持ち歩いているチョコレート。
その銘柄はどこにも置いてある、
ありふれたモノだけど、
疾風の大のお気に入り。
「ん、好き。もう一個いる?」
「いいよコレで。……あたしも‥その……好きだし」
何気ない会話のはずなのに、
顔が茹で上がり耳まで熱い。
なんだか見られたくなくて、
咄嗟に下を向いた。
握ってるチョコレートが溶けそうな程、
体温が上昇していく。
「心?」
疾風をマトモに見れず、うつ向いてるあたしの頭に、大きな少し硬い手が降ってきた。
そしてゆっくり髪を撫でる。
「大丈夫か?」
「大丈夫に決まってるでしょっ」
「もしさ、それまでにお前に好きな人が出来たらちゃんと言えよ。お前は俺の大事な仲間なんだ」
「分かってる…………もう100回は聞いてる」
「ウソ付け、せいぜい15回だろ」
そう話す疾風の声はひどく優しい。
でもその優しさは、
牙を剥き、
あたしの心に噛みついて抉ってくる。
あたしは、必死に目尻に浮かぶ水分が、流れないよう耐えた。
バレるな。
困らせるな。
あたしは恋人のフリしてるだけ。
今は余計な感情を刺激して、疾風を困らせたくない。
あの日、誓ったでしょ。
一粒のチョコレートとともに、
あたしはまた、
本当の気持ちを飲み込んだ。
嘘でもいい
一度だけでいいから
その唇から紡がれる
『言葉』を、聞きたい
……聞きたい
……聞きたくない
だって、それは
夢の終わりを示す呪文だから
「明日からいよいよリーグ戦だ。試合に出る者も、そうでない者も、皆同じだ。気を緩める事無く試合に臨むように。そして男子、女子ともにリーグ昇格だ」
「「はいっっ!!!」」
疾風の力強い宣言。
皆、士気が上がっているのが、ビリビリと五感に伝わる。
「副主将」
隣に座っていたあたしは、急に呼ばれて疾風を見る。
決して傲らないけれど、
自信に満ちあふれていて揺るがない強い瞳。
主将として部員を引っ張っているその姿に、
何度ときめいたのだろうか。
呼ばれた理由は分かりきっている。
あたしは前を向き直して深呼吸する。
皆、真剣にじっとあたしを見る。
自分自身にも言い聞かすように、一言一句噛み締めながら話す。
「集中力、精神力など全てにおいて相手に負けないように・・・そして何より、己に負けないように・・・。以上っ!」
「さっすが心だな」
「何が?」
時刻はお昼をまわっていた。
明日の試合など軽い打ち合わせの後、あたしと疾風は顧問の部屋に行くところ。
もう大学生なので、顧問の引率は無くても大丈夫だけど、一応来て頂けるか確認する為だ。
「心の言葉を聞いて、皆やる気上げてる。さすが副主将」
「疾風が先だったからよ。あたしはそれに倣っただけ」
紙パックのジュースをカラカラ鳴らしながら、疾風は笑う。
「買い被んなよ。俺はオマエのそういうとこ良ーく知ってんの」
ずるい。
本当にコイツはずるい。
好きだとは言わないくせに、
大事だと、簡単に言う。
何気ない疾風の一言にあっさりと陥落してしまう。
だけど彼のそれは
【好き】
という感情ではなく
【友情】
なんだ。
たとえそれが
期間限定の【彼氏】だとしても。
恨めしげな視線を投げつけると、疾風はキョトンとする。
「何だよ、ジュース欲しかったのか?惜しかったな・・・もう飲んだ・・・」
「このっ!!」
言い終わる前に手を伸ばして、乙女心がわからない彼の髪の毛を掴んで引っ張った。
「いってっーーー!!」
「・・・スッキリしないっ!!」
と、もう一度、
さっきよりも思いっきり引っ張る。
「だぁっ!!何なんだっ!!いてぇだろっ!!」
「あぁ・・・なんていうか・・・、スキンシップ??」
「何爽やかな顔して言ってんだ・・・!オマエは彼氏に対してそんなスキンシップするのかよ?!!」
「え…?」
あの日。
期間限定の恋人に合意した疾風にキスをした。
驚いた瞳の疾風。
あたしは、この行動の真意を追求される前に帰ろうと促し、疾風ももうその事に触れてはこなかった。
次の日、ちゃんと疾風と話し合い取り決めたこと。
“リーグ戦に集中するから、それが終わってからフリをはじめる”
“心に好きな人が出来たら、そこでフリは終わりにすること”
最後に疾風は笑ってこう言った。
『心配すんな、フリって言ってもお前は通常運転でいいんだよ。俺が何とかするからさ』
――そういう気遣いは反則なんだってば……
と、いちいちトキメくあたしもほんとどうかしてる。
部内でも一応、内密にしておくのだが、友達でもある雫と和泉には事の顛末を伝えた。
雫はあたしが疾風を好きなのを知っていたが、どうやら和泉も感づいていたらしい。
密かにフォロー……というか見守ってくれる事になった。
まぁ……この双子、人の恋を楽しんでいる感が否めないんですが……。
疾風はというと、淡々としていて今までと何ら変わらずの態度。
そりゃそうだ。
でも言い出しっぺのあたしは……。
妙に意識し過ぎて、ここ数日可笑しな態度ばかり。
フリ…しかもまだ開始してないとはいえ、部活以外に疾風と会えば【彼氏】を意識してしまう。
わかっていても疾風がいつもの対応……。
即ち、恋人として意識されていないことに、軽いショックを受けているのだ。
――ひとり馬鹿みたい
疾風は彼女を好きで、彼女の為にフリをしているだけ。
そう分かっていて提案したくせに…。
――始まっていないはずなのに、
あたしだけが先走っているみたいで。
だから疾風は、恋人らしいことはしない。
そう思っていたのに――【彼氏】の言葉。
不意打ちとはこのことだ。
「なんだよその顔…心が言い出したんだろ?」
「…ぁぁ…うん、そうなんだけど…でもリーグ戦もあるし……」
「変なヤツだなぁ…ほら」
口ごもるあたしの前に、差し出された手のひら。ちょこんとのってる銀紙。
「コレで我慢しろよ」
くしゃと顔を緩ませて笑うその顔は、
あの時と同じ。
胸の奥がキュッと締め付けられて、
苦しいけど、
甘く痺れる。
そう。
恋に落ちる感覚を初めて知った、
あの時と同じだ。
「好きだね、そのチョコ」
疾風がいつも持ち歩いているチョコレート。
その銘柄はどこにも置いてある、
ありふれたモノだけど、
疾風の大のお気に入り。
「ん、好き。もう一個いる?」
「いいよコレで。……あたしも‥その……好きだし」
何気ない会話のはずなのに、
顔が茹で上がり耳まで熱い。
なんだか見られたくなくて、
咄嗟に下を向いた。
握ってるチョコレートが溶けそうな程、
体温が上昇していく。
「心?」
疾風をマトモに見れず、うつ向いてるあたしの頭に、大きな少し硬い手が降ってきた。
そしてゆっくり髪を撫でる。
「大丈夫か?」
「大丈夫に決まってるでしょっ」
「もしさ、それまでにお前に好きな人が出来たらちゃんと言えよ。お前は俺の大事な仲間なんだ」
「分かってる…………もう100回は聞いてる」
「ウソ付け、せいぜい15回だろ」
そう話す疾風の声はひどく優しい。
でもその優しさは、
牙を剥き、
あたしの心に噛みついて抉ってくる。
あたしは、必死に目尻に浮かぶ水分が、流れないよう耐えた。
バレるな。
困らせるな。
あたしは恋人のフリしてるだけ。
今は余計な感情を刺激して、疾風を困らせたくない。
あの日、誓ったでしょ。
一粒のチョコレートとともに、
あたしはまた、
本当の気持ちを飲み込んだ。



