あなたはだれ?

 私が高校に入学したとき、如月先輩は高校二年生。職員室に向かう廊下ですれ違うことが何度かあった如月先輩の第一印象は、「クールな先輩」、だった。さらさらとしたまっすぐな髪。涼やかな切れ長の目。高い背。一人で颯爽と歩く姿。文武両道と噂で、女子の人気も高かった。
(日本刀が似合いそうな先輩だなあ)
 私は勝手にそう思っていた。
 だがある日、私は見てしまった。男子生徒と笑って話す如月先輩を。
 その笑顔はとても綺麗だった。優しかった。第一印象とは違う柔らかな雰囲気に、私は先輩だけが誰よりも素敵に見えるようになった。
(どんな声をしているのだろう。どんなことが好きなんだろう)
 私の先輩に対する好奇心は尽きることなく、毎日先輩のことを想うようになった。
 
 そんなある日。
 昼食後、教科書を手に部室を出たときだった。
 隣の部室のドアが開き、二人の男子生徒が出てきた。
 その片方は間違いなく如月先輩その人だった。
 笑いながら話す先輩の声を私は初めて聞いた。
「どうした、前田?」
 同じ部活仲間の聡子の言葉も耳に入らないほど、私は先輩の声にうっとりしていた。
 落ち着いた優しいテナーの声。聞く者を安心させるような、想像どおり綺麗な声だった。
 それからは部室にいる時間が増えた。隣の部屋から聞こえてくる如月先輩の声を聞くだけで、その一日が素敵になった。声が聞けるようになると、それ以上を望むようになった。もっと見たい。話してみたい。
 私は授業後、聡子を待つのを口実に、部室の戸の前に座り込むことが増えた。
 如月先輩は帰る前に部室に寄る。多分、部室の前に自転車を止めているからだろう。それは私にとっては幸運だった。ほぼ毎日先輩を見つめることができたのだから。校舎のほうを見ながら、先輩がやってくるのを待つ。先輩が見えると、嬉しくなって口元がほころぶ。それを隠すように下を向いた。
 たまに目が合うことが増えた。そんなとき私は恥ずかしくて目をそらしてしまうのだった。