あの娘と私



 ***


 「木寺さんの一番好きな映画って何?」

 「ライフイズビューティフル!!」

 田村さんの問いに、私は迷わず答えた。
 そんな私に田村さんがくすりと笑った。

 「大好きなんだね。どんなお話?」
 「そうだねえ、愛を描いた映画だと思う。
 ナチスの強制収容所が後半は舞台になってるから重いテーマなんだけど、でもね、見終わった後、悲しさもあるけど温かい気持ちになるの。
 あんなお父さん、なかなかいない……!」
 熱く語った私に、田村さんはまた優しい笑顔を見せた。
 「そっか。じゃあ、今週末見てみようかな」
 「ぜひ!」
 私は拳を握りしめて言った。

 田村さんが私の好きな映画に興味を持ってくれたことが嬉しかった。

 「見たよ! ライフイズビューティフル」

 田村さんの言葉に私は思わず笑顔になる。

 「見たんだ!」
 「うん! すごく良かった。私もあのお父さん好き。あんな人と結婚できるといいよね」
 「でしょ!
 私ね、田村さんのこと、あのお父さんと似てると思う時あるの。いつも笑顔を絶やさないところ」

 私の言葉に田村さんの黒眼が揺れた。そして、田村さんは、そうかな、と笑った。
 その笑顔はどこか悲しげだった。

 「田村さん?」

 「……私は愛する誰かのためじゃなくて、笑ってるのは自分のためだもの。皆んなに嫌われたくないって思うからだよ」

 珍しく目を伏せた田村さんを私はじっと見つめた。

 「もしそうだとしても、誰に対しても笑顔で接するってなかなか出来ないことだと思うよ? 私はやっぱり田村さんって素敵だと思う」

 田村さんは驚いたように私を見返した。そして、

 「ありがとう。嬉しい」

 そう溢れる笑顔で言った。


 私は自分のことを話してくれた田村さんがますます好きになった。


 その後、私と美佐子の仲は急速に近づいた。

 映画の話もだが、私は美佐子にメイクの仕方を習ったり、美佐子のペットの猫を見せてもらいに行ったりもした。

 美佐子のことを知れば知るほど美佐子は魅力的だと感じた。

 聞き上手で、なんでも楽しそうに聞いてくれる。そして優しく微笑んでくれる。自分のための笑顔だと美佐子は言ったけど、私にはそうは思えないほど素敵な笑顔だ。

 私は話すのが苦手だが、美佐子には自然と口が軽くなった。美佐子と話すのは楽しかった。


 ただ、一つ。気がかりなことがあった。

 それは美佐子の視線だった。

 美佐子は時々ぼんやりと視線が虚ろになるときがあるのだ。

「美佐子?」
「あ、ごめん。今日仕事の後のことだったよね」


 はじめは気付かなかった。それが何を意味するのか。

 だが、美佐子がそうなるのは会社でだけだと気づいた。
 そして、その時、美佐子の目が誰を追っているのかにも気づいてしまった。

 美佐子は涼が好きなのだろう。

 そう。ぼんやりとしている視線の先にはいつも涼がいた。

 私は。

 美佐子は好きだ。かけがえのない友達になった。他のものならいくらでも美佐子になら譲れる。

 でも。

 涼には涼の気持ちがあるのは分かってる。それでも、涼はだめ。涼だけはごめん、譲れない。