マフラーの赤い糸


 二週間後。

 その日はクリスマスイヴだった。

 私は春翔君に呼び出されて、放課後廊下の隅にいた。そこは化学室がある廊下で人通りが少ない。

「はい。これ、こないだのお返し。開けてみて」

 春翔君は、少し遅れてきた私に可愛くラッピングされた包みを渡してくれた。

「そんな、お返しなんていらなかったのに。でも、嬉しい! ありがとう」

 私は包み紙を開けた。そこには赤いニット帽が入っていた。私は首を傾げる。

「岸田さん、自転車通学だよね? いつも学校に来る時、寒さで耳が赤くなってたから」
「え? そう、なの?」

 私は自分の知らない自分に戸惑う。

「意外に本人は気付いてないもんなんだね」
「そうだね。ありがとう。松坂君」

 私はさっそくニット帽を被ってみた。とても温かい。松坂君からもらったから、さらに温かく感じるのだろう。

「それにしても、異性へプレゼントを選ぶのってとても緊張するんだね。選んでは戻してを何度繰り返したか」
「そうだね。それは分かる」

 特に好きな人のを選ぶのは。

「だからさ、これからは一緒に行かない?」

 春翔君がさらりと言った言葉を、私は理解できなくて、

「はい?」

 と裏返った声を出した。

「で、でも、そんなにプレゼント交換するのって変だし、それに一緒に選びにいくのはデートみたいじゃない、かな?」

 困惑気味の私に、春翔君は意味ありげに笑った。

「デート、ダメ? 違ったらごめんね。岸田さん、僕のこと好きでしょ?」

 春翔君の言葉に、私は驚きと恥ずかしさに顔が熱を持つのが分かった。

「な、なんで?!」

 視線を泳がせながら言うと、春翔君は目を三日月のようにして笑った。春翔君のこの笑顔、大好きなのに、今はなんだか憎らしい。

「なんでだと思う?」
「か、からかってるの? 私がマフラープレゼントしたから? そ、それは……」
「うん?」

 春翔君は、優しく目を細めて、困り果てる私を見ている。私は身体が沸騰するように熱くなって、ニット帽を脱いだ。全身が心臓になったみたいだ。

「プレゼントしたのは……」

 それは春翔君のマフラーを自分のものにしたかったから。そして、寒そうな春翔君に私のプレゼントしたマフラーを巻いて欲しかったから。マフラーは特別だから。

 ニット帽を握りしめたまま、言葉を発することができずに時間だけが過ぎていく。

 本当のことじゃなくていい。渡した時みたいに冗談にしてしまえば……。

 春翔君は辛抱強く待っていたけれど、なかなか本当のことが言えない私に、続きを引き取るように言った。

「ハズレちゃった? 僕が好きだからじゃないの? 僕はニット帽あげたの、岸田さんを好きになったからなんだけどな」

 人は自分の理解の範疇を超えると思考が止まってしまうらしい。

「聞こえてる? 岸田さんを好きだって言ったんだよ? だから、僕と付き合わない?」

 私は、ただ頷くことしかできない人形のように、こくこくと首を縦に振った。

「良かった!」

 春翔君の弾んだ声に、ようやく事態が飲み込めてきた私は、幸せがじわじわと胸のあたりから全身に巡っていくのを感じた。初めての両想い。

 本当に? 夢じゃない?

 

 帰り道。
 二人で自転車を押しながら夕日の中を帰る途中、春翔君からの言葉に、思考だけでなく息まで止まりそうになった。

「好きな人のマフラーって特別だよね。今なら僕にも分かるかな。……実はあの日、岸田さんが僕のマフラー持って帰るの、見ちゃったんだ。あのマフラーは岸田さんが使っていいからね」
 

 絶対言えない。

 春翔君のマフラーを抱きしめて、香りを嗅いでいたなんて。

 でも。

 もう、そうする必要もなくなるんだ。
 春翔君は私の隣にいるから。