マフラーの赤い糸

 マフラー。

 それは、首に直接巻くもの。
 好きな人のマフラーは、好きな人の首に直接巻かれているもので。だから他のどんな物より魅力的に思える私は、おかしいのだろうか。

 その日は魔がさしてしまったんだと思う。

 放課後、先生から頼まれて集めたプリントを職員室に届けて、誰もいくなった教室に戻ると、好きな人である松坂春翔君のマフラーが、机に置きっぱなしになっているのに気がついた。

 私は辺りを一度見回した。そして、ふらふらと引き寄せられるようにそのマフラーに手を伸ばした。

 ガバッ。

 私は思いっきりそのマフラーに顔を埋めた。

 初めて嗅ぐ匂い。
 これが春翔君の匂いなんだ。
 そう思うだけで幸せで。
 もう一度、深く匂いを嗅ごうとしたときだった。

 教室の扉が開く音が響いて、私はそのマフラーを手に、とっさにしゃがんで身を隠した。

「マフラー、教室に忘れたと思ったんだけどな」

 小さく春翔君が呟くのが聞こえた。

 私は心臓が飛び出しそうになるのを堪えて、息を潜めていた。

 お願い、気づかないで!

 自分の胸の辺りがドクドクと脈打つのを抑えるように、手にしたマフラーをギュッと握る。

 春翔君はそのまま扉を閉めて去っていってくれた。

 私は安堵のため息をついて、立ち上がった。
 手には春翔君のマフラー。

 顔押し付けちゃったし、クリーニングに出して返そう。

 私は家にそのマフラーを持って帰ることにして走り出した。
 廊下でそれを誰かが見ていたなんて気付かずに。



 数日後。

 私は春翔君のマフラーをクリーニングに出せずにいた。

 ぎゅっとマフラーを抱きしめると、春翔君の香りで満たされて、まるで春翔君を抱きしめているような錯覚に陥る。

 香りって不思議だ。その人の存在、温もりまで感じる気がする。


 毎日、マフラーなしで寒そうに首をすくめている春翔君を見ると、このままではいけないと思う。
 でも、私にこんなことをされているマフラーを返されても気持ち悪いだけだと思って、私は春翔君に新しいマフラーを買ってプレゼントすることにした。