「ねえ、ジェニファー。俺と結婚してくれよ」
春のうららかな風が吹く離宮の庭。
ガポゼの中央に置かれたテーブルには、豪奢なティーポットと二客のカップ。
それを挟んで向かいには、ブリテニア王国第二王子モルドレッド殿下が満面の笑みで私を見ていた。
彼は週一でこれを言っている。
よくもまあ、飽きもせず。私の答えもわかりきっているでしょうに。
「わたくしは構いませんが、国王陛下がお許しになりませんわよ。……辺境伯の長女と王位継承権第二位の王子殿下の結婚だなんて」
「そうかな」
「ええ。なにしろこちとら人質ですもの。ほどほどの権力、それっぽいお役目、いい感じに見える立ち位置……それ以上のものを与えないでしょう」
モルドレッド殿下はムスッとした顔で私を睨んだ。
長い白金の髪は無造作にポニーテールに束ねられ、濃い緑の瞳は半分くらいに細められている。
薄い唇はへの字で、山ほどの小言を言いたげだった。
「俺は、君に自由に生きてほしいんだけど」
「残念ながら、そう願ってくださるのは殿下だけですからね」
「むー」
「さあ、そろそろ参りませんと。私は第二妃の公務のお手伝いがございますの」
「母から無茶は言われていないかい?」
「まさか。よくしていただいておりますわ」
なにしろ、朝晩兵士の訓練に参加していることさえ、お目こぼしいただいているくらいだし。
モルドレッド殿下は紅茶を飲み干して立ち上がった。
私も続いて立ち上がり、彼の後についていく。
「ジニー、好きだよ」
「ありがとうございます、殿下。わたくしもお慕い申し上げておりますわ」
「じゃあ結婚してくれ」
「国王陛下のお許しがあれば、謹んでお受けします」
「君の許しが欲しい」
「許せる立場におりませんの」
「いーっ」
「子どもじゃないですか……」
殿下はムスッとして去っていった。きっと浴室で身を清めてから王城へ向かわれるのだろう。
彼には山ほどの書類が待ち構えている。
私は踵を返し、第二妃の離宮へと向かった。
春の風は相変わらず穏やかに吹いていて、庭園の花々を優しく揺らしていた。
「ただいま戻りました、第二王妃殿下」
「おかえりなさい、ジニー。ですが、そんな他人行儀な言い方しないでね。ママ上と呼んでちょうだいと、いつも言っているでしょう」
「……そうお呼びすると、モルドレッド殿下が本気にしますので」
「そうねえ……ごめんなさいね、わたくしの権力が足りないばかりに、あなたを幽閉状態にしてしまって」
第二王妃は眉をひそめた。
私を自由にするには現国王以上の権力が必要になるので、今の発言はなかなか危ういと思う。
「お気遣いのほど、ありがとうございます。ところで、先日仰っていた庭園でのお茶会ですが……」
話を逸らしたら、第二王妃も肩を竦めて乗ってくださった。
城内にいる限り、私たちに自由な発言権などありはしない。
そんなことは私も彼女もよくわかっていた。
そもそも私はヴォーティガン辺境伯の長女である。
我がブリテニア王国は島国で、東の海の向こうにある大国ゲルソンからの侵略を頻繁に受けていた。
それを武力で防いだのが我がヴォーティガン家だ。
今のところは小康状態で、私が生まれてから二十年弱ほど、多少の小競り合いはあっても緊張するほどではない状況が続いている。
しかし、いつ何時、何があるかはわからない。
ヴォーティガン家では常々、兵士の鍛錬や武装、戦支度を怠らないよう心がけてきた。
……それが、裏目に出た。
脳みそ花畑の現国王……いえ、平和に慣れきったウーゼル・ドレイク国王は、
「なぜ、平和なのに武装する必要が? そういう態度がゲルソンを戦に駆り立てるのではないのかね?」
と言い出した。
思いつく限りの語彙で罵倒したいところだったが、そこは堪えた。
でも、ウーゼル王の愚行はそれだけに収まらなかった。
武装の理由として、ドレイク王家への反乱の可能性を挙げた。
わたくしの持つ能力が『鼓舞』だったことも、不運だった。
ブリテニアに住まう人間は、生まれたときに妖精から一人につき一つの能力を贈られる。
ウーゼル王は『調和』、モルドレッド殿下は『抑制』。
どちらも周囲にいる人々を落ち着かせたり、興奮を抑えて対話に持ち込んだりする能力だ。
私の『鼓舞』は言葉の通り、兵士の士気を上げたり、勇気づけたりすることができる。
その能力でもって民を扇動し、反乱を企てているのでは……と疑われ、私は十歳を過ぎた頃から第二王妃の離宮にとらわれることになった。
父の方針で七歳から兵士に交じって鍛錬を重ね、私がかけ声をかけることで鍛錬の効果やモチベーションを向上させ……そうしたことをしてきたため、ウーゼル王の懸念はあながち間違いではなく、父上も強く反発できなかったらしい。
それに、モルドレッド殿下にも常々お伝えしているように、第二王妃殿下は私にとてもよくしてくださっている。
衣食住はモルドレッド殿下とほぼ変わらないものを用意してくださっているし、国王には秘密で朝晩の兵士の鍛錬にも参加させてもらっている。
勉強面でもモルドレッド殿下と同世代だし、人質だからといって最低限の知識すら身につけさせないのは王家の威信に関わると言って、殿下とほぼ同じ教育を施してくださっている。
お茶会やダンスパーティ等の社交界でも同様だ。
「第二王妃は貴族の子女にマナーを身につけさせることもできないなんて噂が立ったら、わたくしの面目が立ちませんわ」
とおっしゃる。
第二王妃自身も、私と同じような経緯で嫁いでいるから、というのも大きいだろう。
彼女は西の海岸沿いを治める辺境伯の次女だ。
とはいえウーゼル王や正妃とも仲がよく、国王陛下、正妃殿下、第二王妃殿下、それぞれの息子たちで晩餐を共にすることも多い。なんなら私まで呼んでくださるから、あまり幽閉や囚われている感は、普段の生活にはなかった。
……たまに、堂々と兵士の鍛錬に参加したくなるくらいだ。
ある日のこと、離宮の執務室で第二王妃殿下と社交シーズンの予算について相談していたら、モルドレッド殿下が顔を出した。
「父上のところに書類の確認に行くから、ジニーも一緒に行こう」
「なぜですか?」
「この子を俺の正妃として迎えますって言う」
「なら行きません」
「冗談……じゃないけど、今回は諦める。ほら、もう少ししたら俺の地方視察があるだろ? それに今回も君を連れて行きたいから、事前に話を通したいんだよ」
モルドレッド殿下は「これ」と書類を差し出した。
そこには来月末から二か月ほどかけて、国の東側の地域を視察する計画が記されていた。
「かまいませんが、なぜ私をお連れに?」
「ヴォーティガン郷の顔を見たいかと思って」
殿下はさらっと言って、私から書類を受け取った。
顔は普通だ。笑顔でもないし、嬉しそうでも、ましてや偉そうなんかではなくて、本当、そういうところだ。
「……ありがとうございます。謹んでご一緒させていただきます」
「よかった。母上、ジニーをお借りしますね」
「はい、どうぞ」
モルドレッド殿下と並んで頭を下げて、第二王妃の執務室を出た。
王宮の奥にある国王陛下の書斎に向かうと、陛下は第一王子アーサー殿下と話をしていた。
「陛下、失礼いたします」
「モルドレッドか。ジェニファー嬢も。二人揃って、いかがした?」
ウーゼル王が微笑み、アーサー殿下も同じような笑みを浮かべて一歩下がった。
「来月よりわたくしが参ります地方視察について、経路をまとめてまいりましたので、確認をお願いします。またジェニファー・ヴォーティガン嬢も同伴したく思いますが、よろしいでしょうか」
一瞬、ウーゼル王の笑みが消えた。すぐに笑顔に戻ったが、アーサー殿下と顔を見合わせた。
「それはまた、どうして?」
「彼女には、十のときから我が母と共に離宮の管理を任せてまいりました。ときには国民や現地の貴族の声を直接聞くことで、より現実的な考え方ができるようになればと思います。また、ヴォーティガン領にも挨拶の予定ですので、彼女を伴うことでヴォーティガン郷からの印象を良くし、今後とも王家への忠誠を誓わせることができるかと存じます」
「今後とも第二王妃のお力添えになりたく存じます。見聞を広めるためにも、お願い致します」
モルドレッド殿下の説明の後、私は頭を下げた。
殿下の説明も、私の言い分も、それっぽくはあるけれど、果たして。
ウーゼル王は少し悩んだ様子を見せてから、
「そなたの考えはわかった。一度他の者の意見も確認してから返答する故、しばし待たれよ。今週中には返答する」
「ご考慮のほど、よろしくお願いします」
二人で再び頭を下げ、書斎から退室した。
そのままモルドレッド殿下と一緒に、離宮の庭へと向かう。
「たぶん大丈夫。父上は即答しないのはいつものことだし」
庭のベンチに腰を下ろした途端、殿下は私を見て微笑んだ。
「大丈夫であることを祈りましょう。しかしまあ、よくもあれだけそれらしい理由を挙げ連ねましたね」
「そりゃもう、ちゃんと考えておいたんだよ。君を一時でも連れ出したかったんだ」
「……ありがとうございます」
「なんてあれこれ言ったけど、俺がジニーと外をデートしたかっただけなんだ。……ところで、父上の様子、何か変じゃなかった?」
モルドレッド殿下の笑みが消えた。
首を傾げて、遠くを見ている。
「何か、ですか?」
「うん。んー……俺が何か言ったときに、いちいち兄上の様子をうかがったりしてなかったと思うんだよな」
そう言われれば、最初にモルドレッド殿下が頼んだとき、アーサー殿下と顔を見合わせていたけれど、それは殿下の案に驚いたからだと思っていた。
「今までは、そうではなかったのですか?」
「違ったと思う。そもそも兄上がいるときに話すことがあまりなかったから、ちょっと確証は持てないけど……」
「では、次回があれば、私も気にしておきますわね」
「うん、よろしく」
モルドレッド殿下が立ち上がったので、私もついていく。
そのまま第二王妃の執務室まで送ってもらった。
ウーゼル陛下がアーサー殿下の様子をうかがう理由って、なんだろう。モルドレッド殿下の背中を見送りながら考える。
別に意見を聞くことはおかしなことじゃない。でもそれなら、わざわざ様子をうかがわずに、どう思うか問えばいいだけだ。
アーサー殿下が国王の地位を継ぐことは、誰も反対していない(もちろん第二王子派の貴族はいるけど、モルドレッド殿下を国王にしたいというよりは、地方財政を管轄することになる第二王子と仲良くすることで反乱の意志がないと示したり、王家からの報償や印象をよくしておきたい程度のものだ)。
まあ、今私が考えてもわからないから、第二王妃と共に、今期の社交界についての相談を再開した。
春のうららかな風が吹く離宮の庭。
ガポゼの中央に置かれたテーブルには、豪奢なティーポットと二客のカップ。
それを挟んで向かいには、ブリテニア王国第二王子モルドレッド殿下が満面の笑みで私を見ていた。
彼は週一でこれを言っている。
よくもまあ、飽きもせず。私の答えもわかりきっているでしょうに。
「わたくしは構いませんが、国王陛下がお許しになりませんわよ。……辺境伯の長女と王位継承権第二位の王子殿下の結婚だなんて」
「そうかな」
「ええ。なにしろこちとら人質ですもの。ほどほどの権力、それっぽいお役目、いい感じに見える立ち位置……それ以上のものを与えないでしょう」
モルドレッド殿下はムスッとした顔で私を睨んだ。
長い白金の髪は無造作にポニーテールに束ねられ、濃い緑の瞳は半分くらいに細められている。
薄い唇はへの字で、山ほどの小言を言いたげだった。
「俺は、君に自由に生きてほしいんだけど」
「残念ながら、そう願ってくださるのは殿下だけですからね」
「むー」
「さあ、そろそろ参りませんと。私は第二妃の公務のお手伝いがございますの」
「母から無茶は言われていないかい?」
「まさか。よくしていただいておりますわ」
なにしろ、朝晩兵士の訓練に参加していることさえ、お目こぼしいただいているくらいだし。
モルドレッド殿下は紅茶を飲み干して立ち上がった。
私も続いて立ち上がり、彼の後についていく。
「ジニー、好きだよ」
「ありがとうございます、殿下。わたくしもお慕い申し上げておりますわ」
「じゃあ結婚してくれ」
「国王陛下のお許しがあれば、謹んでお受けします」
「君の許しが欲しい」
「許せる立場におりませんの」
「いーっ」
「子どもじゃないですか……」
殿下はムスッとして去っていった。きっと浴室で身を清めてから王城へ向かわれるのだろう。
彼には山ほどの書類が待ち構えている。
私は踵を返し、第二妃の離宮へと向かった。
春の風は相変わらず穏やかに吹いていて、庭園の花々を優しく揺らしていた。
「ただいま戻りました、第二王妃殿下」
「おかえりなさい、ジニー。ですが、そんな他人行儀な言い方しないでね。ママ上と呼んでちょうだいと、いつも言っているでしょう」
「……そうお呼びすると、モルドレッド殿下が本気にしますので」
「そうねえ……ごめんなさいね、わたくしの権力が足りないばかりに、あなたを幽閉状態にしてしまって」
第二王妃は眉をひそめた。
私を自由にするには現国王以上の権力が必要になるので、今の発言はなかなか危ういと思う。
「お気遣いのほど、ありがとうございます。ところで、先日仰っていた庭園でのお茶会ですが……」
話を逸らしたら、第二王妃も肩を竦めて乗ってくださった。
城内にいる限り、私たちに自由な発言権などありはしない。
そんなことは私も彼女もよくわかっていた。
そもそも私はヴォーティガン辺境伯の長女である。
我がブリテニア王国は島国で、東の海の向こうにある大国ゲルソンからの侵略を頻繁に受けていた。
それを武力で防いだのが我がヴォーティガン家だ。
今のところは小康状態で、私が生まれてから二十年弱ほど、多少の小競り合いはあっても緊張するほどではない状況が続いている。
しかし、いつ何時、何があるかはわからない。
ヴォーティガン家では常々、兵士の鍛錬や武装、戦支度を怠らないよう心がけてきた。
……それが、裏目に出た。
脳みそ花畑の現国王……いえ、平和に慣れきったウーゼル・ドレイク国王は、
「なぜ、平和なのに武装する必要が? そういう態度がゲルソンを戦に駆り立てるのではないのかね?」
と言い出した。
思いつく限りの語彙で罵倒したいところだったが、そこは堪えた。
でも、ウーゼル王の愚行はそれだけに収まらなかった。
武装の理由として、ドレイク王家への反乱の可能性を挙げた。
わたくしの持つ能力が『鼓舞』だったことも、不運だった。
ブリテニアに住まう人間は、生まれたときに妖精から一人につき一つの能力を贈られる。
ウーゼル王は『調和』、モルドレッド殿下は『抑制』。
どちらも周囲にいる人々を落ち着かせたり、興奮を抑えて対話に持ち込んだりする能力だ。
私の『鼓舞』は言葉の通り、兵士の士気を上げたり、勇気づけたりすることができる。
その能力でもって民を扇動し、反乱を企てているのでは……と疑われ、私は十歳を過ぎた頃から第二王妃の離宮にとらわれることになった。
父の方針で七歳から兵士に交じって鍛錬を重ね、私がかけ声をかけることで鍛錬の効果やモチベーションを向上させ……そうしたことをしてきたため、ウーゼル王の懸念はあながち間違いではなく、父上も強く反発できなかったらしい。
それに、モルドレッド殿下にも常々お伝えしているように、第二王妃殿下は私にとてもよくしてくださっている。
衣食住はモルドレッド殿下とほぼ変わらないものを用意してくださっているし、国王には秘密で朝晩の兵士の鍛錬にも参加させてもらっている。
勉強面でもモルドレッド殿下と同世代だし、人質だからといって最低限の知識すら身につけさせないのは王家の威信に関わると言って、殿下とほぼ同じ教育を施してくださっている。
お茶会やダンスパーティ等の社交界でも同様だ。
「第二王妃は貴族の子女にマナーを身につけさせることもできないなんて噂が立ったら、わたくしの面目が立ちませんわ」
とおっしゃる。
第二王妃自身も、私と同じような経緯で嫁いでいるから、というのも大きいだろう。
彼女は西の海岸沿いを治める辺境伯の次女だ。
とはいえウーゼル王や正妃とも仲がよく、国王陛下、正妃殿下、第二王妃殿下、それぞれの息子たちで晩餐を共にすることも多い。なんなら私まで呼んでくださるから、あまり幽閉や囚われている感は、普段の生活にはなかった。
……たまに、堂々と兵士の鍛錬に参加したくなるくらいだ。
ある日のこと、離宮の執務室で第二王妃殿下と社交シーズンの予算について相談していたら、モルドレッド殿下が顔を出した。
「父上のところに書類の確認に行くから、ジニーも一緒に行こう」
「なぜですか?」
「この子を俺の正妃として迎えますって言う」
「なら行きません」
「冗談……じゃないけど、今回は諦める。ほら、もう少ししたら俺の地方視察があるだろ? それに今回も君を連れて行きたいから、事前に話を通したいんだよ」
モルドレッド殿下は「これ」と書類を差し出した。
そこには来月末から二か月ほどかけて、国の東側の地域を視察する計画が記されていた。
「かまいませんが、なぜ私をお連れに?」
「ヴォーティガン郷の顔を見たいかと思って」
殿下はさらっと言って、私から書類を受け取った。
顔は普通だ。笑顔でもないし、嬉しそうでも、ましてや偉そうなんかではなくて、本当、そういうところだ。
「……ありがとうございます。謹んでご一緒させていただきます」
「よかった。母上、ジニーをお借りしますね」
「はい、どうぞ」
モルドレッド殿下と並んで頭を下げて、第二王妃の執務室を出た。
王宮の奥にある国王陛下の書斎に向かうと、陛下は第一王子アーサー殿下と話をしていた。
「陛下、失礼いたします」
「モルドレッドか。ジェニファー嬢も。二人揃って、いかがした?」
ウーゼル王が微笑み、アーサー殿下も同じような笑みを浮かべて一歩下がった。
「来月よりわたくしが参ります地方視察について、経路をまとめてまいりましたので、確認をお願いします。またジェニファー・ヴォーティガン嬢も同伴したく思いますが、よろしいでしょうか」
一瞬、ウーゼル王の笑みが消えた。すぐに笑顔に戻ったが、アーサー殿下と顔を見合わせた。
「それはまた、どうして?」
「彼女には、十のときから我が母と共に離宮の管理を任せてまいりました。ときには国民や現地の貴族の声を直接聞くことで、より現実的な考え方ができるようになればと思います。また、ヴォーティガン領にも挨拶の予定ですので、彼女を伴うことでヴォーティガン郷からの印象を良くし、今後とも王家への忠誠を誓わせることができるかと存じます」
「今後とも第二王妃のお力添えになりたく存じます。見聞を広めるためにも、お願い致します」
モルドレッド殿下の説明の後、私は頭を下げた。
殿下の説明も、私の言い分も、それっぽくはあるけれど、果たして。
ウーゼル王は少し悩んだ様子を見せてから、
「そなたの考えはわかった。一度他の者の意見も確認してから返答する故、しばし待たれよ。今週中には返答する」
「ご考慮のほど、よろしくお願いします」
二人で再び頭を下げ、書斎から退室した。
そのままモルドレッド殿下と一緒に、離宮の庭へと向かう。
「たぶん大丈夫。父上は即答しないのはいつものことだし」
庭のベンチに腰を下ろした途端、殿下は私を見て微笑んだ。
「大丈夫であることを祈りましょう。しかしまあ、よくもあれだけそれらしい理由を挙げ連ねましたね」
「そりゃもう、ちゃんと考えておいたんだよ。君を一時でも連れ出したかったんだ」
「……ありがとうございます」
「なんてあれこれ言ったけど、俺がジニーと外をデートしたかっただけなんだ。……ところで、父上の様子、何か変じゃなかった?」
モルドレッド殿下の笑みが消えた。
首を傾げて、遠くを見ている。
「何か、ですか?」
「うん。んー……俺が何か言ったときに、いちいち兄上の様子をうかがったりしてなかったと思うんだよな」
そう言われれば、最初にモルドレッド殿下が頼んだとき、アーサー殿下と顔を見合わせていたけれど、それは殿下の案に驚いたからだと思っていた。
「今までは、そうではなかったのですか?」
「違ったと思う。そもそも兄上がいるときに話すことがあまりなかったから、ちょっと確証は持てないけど……」
「では、次回があれば、私も気にしておきますわね」
「うん、よろしく」
モルドレッド殿下が立ち上がったので、私もついていく。
そのまま第二王妃の執務室まで送ってもらった。
ウーゼル陛下がアーサー殿下の様子をうかがう理由って、なんだろう。モルドレッド殿下の背中を見送りながら考える。
別に意見を聞くことはおかしなことじゃない。でもそれなら、わざわざ様子をうかがわずに、どう思うか問えばいいだけだ。
アーサー殿下が国王の地位を継ぐことは、誰も反対していない(もちろん第二王子派の貴族はいるけど、モルドレッド殿下を国王にしたいというよりは、地方財政を管轄することになる第二王子と仲良くすることで反乱の意志がないと示したり、王家からの報償や印象をよくしておきたい程度のものだ)。
まあ、今私が考えてもわからないから、第二王妃と共に、今期の社交界についての相談を再開した。



