伊野尾くんの脳内全部バレバレです。



「好きです。伊藤(いとう)さん。僕と付き合ってください」


 5月の始まりにしては肌寒い体育館裏。


 頬を赤くし、照れ臭そうに手を差し伸べてくる青年に、わたしはなんと言えばいいのだろう。言葉に詰まり、固唾を飲んだ。


「え……えっと……」


 これで多分24回目だ。このように異性から愛を告げられるのは。ちなみに、高校2年生になってから、24回である。


「ごめんなさい。わたし……」


 青年――鈴木(すずき)という名だった気がする――はわたしの制服の袖を掴んだ。そして勢いよく引っ張る。背の低い鈴木は歯を食いしばってわたしを見上げた。


「そうなんだ、なら仕方ないね」


 鈴木は感情を押し殺すように笑った。その目尻には少しだけ涙が浮かんでいる。



『――自分の顔が良いからって他人を見下しやがって』



 紛れもない“事実”が脳内に入り込んでくる。鈴木の後ろ姿からはずっと、負の感情が流れている。それが全て、わたしの頭の中に住みついてきた。わたしは気が遠くなりそうになるのを、瞬きで誤魔化した。


 鈴木の後ろ姿は儚げがあった。それはまるで小さな花弁のようで。



 失恋、か。わたしは目を細める。


 わからないものはわからないのだ。失恋した彼の気持ちを理解しようとは思わない。しかし、無慈悲な人間にはなりたくない。無論、嫌われたくないからである。


 そうだな、彼の言葉は正しい。わたしは誰もが認める美人らしいし、自分の容姿が人より優れていることも内心わかってはいた。それ故に、わたしは他人から密かに愛され続けていた。


 第三者目線で言おうとすると難しいけれど、わたしはおそらく「高嶺の花」というやつだ。わたしの周りに人は集まらない。


 正直、さっきの青年の名前が鈴木であると言える自信はどこにもないし、むしろ、鈴木ではない可能性の方が高い。しかし、もしも彼の名前を覚えてしまったら……そのことが誰かにバレてしまえば、彼はもう終わりだ。


 なぜなら、わたしに名前を覚えられるということは、アイドルに認知されるのと同じだからである。


 “伊藤(いとう)桐花(きりか)と接触してはいけない”という暗黙の了解がこの学校に存在しているということは、誰から見ても明白だ。


「もう嫌だ……なんでみんな揃って……」


 お門違いの憎しみが他人へ向く。言って仕舞えば自分の容姿が優れていることが元凶だが。


 わたしは校内へ足を運ぶ。


『――給食まだかな』


『――ブサイクだなコイツ』


『――わたし綺麗でしょ?』


 腹立たしい文章が脳内へ流れ込んでくる。わたしは思わず頭を抱えた。


「どうして……なんでみんな……」


 誰も気づいてくれない。気づかれたくもない。


 わたしは異能力者だ。異能力名は『ヒトリテレパシー』。


 簡単にいうと、『他者の心を読むことができる』能力だ。


 人の心はガラス板のように脆い。これを知っているのは紛れもないわたしだけ――