桜木学園、歴史研究科百人一首部 〜桜の下、託された記憶〜

 助監督候補者選抜会は、中休み開始後3分で開会した。
「野宮さん、助監督候補になったんだね」
 歌波がしみじみと言った。
 野宮さんは、先日の歌合模擬会(うたあわせもぎかい)判者(はんじゃ)を務めた、百人一首部一の優秀者なんだ。

 そして、助監督候補者の中から、どうやって選ぶかっていうと・・・・・・。
 これと同時に行われる脚本家グループ選抜の候補者とペアを組み、仮の脚本を上げて、審査を受けるみたい。
 詩波は誰と組むのかなと思っていたら、同じクラスの男の子に話しかけていた。誰だろう。
「歌波、あの子誰?」
「ああ、野宮さんの双子の弟だね。詩波と仲が良いんだよ」
 野宮さんの弟か。それにしても詩波、よく男の子と話せるな。
「藤堂くんとは、一応ライバルなんだよね」
 歌波にこそこそ言うと、少し驚いた顔をされた。
「そうだけど・・・・・・、志津音やっぱり、藤堂くんのこと気になってるの?」
「だから違うって」
 どうして何度も聞いてくるんだろう。
 藤堂くんは4年2組。もうすでに彼女がいるかもしれないし。

「脚本を上げるの、こんなに短い期間でできるんだね」
「2人しかいないし、気の合う人と組んでるからね。実際のドラマではもっとたくさん時間が必要だよ。今回は当選しても改稿する可能性は大だからね。まあ、頑張るよ」
 教室までの渡り廊下を歩きながら、詩波が笑う。
「すごいね〜、頑張れ」
 私は詩波に笑顔を向ける。
「でも私、このままだと当選できなそうなんだよね? 今日の脚本賞、大賞は藤堂くんたちだったじゃん」
 歌波は心配そうにしながらも遠くに視線を向けた。
 その先にいるのは、藤堂くんと、歴史研究科敬語探究部(れきしけんきゅうかけいごたんきゅうぶ)の女の子だ。たしかあの子は、かなり有名な女優さん(時代劇で評判)の姪だった気がする。彼女の従姉(いとこ)である女優さんの娘は今、この学園の大学部で平安時代の研究をしているらしい。
穂奈美(ほなみ)、久しぶりね」
 誰が呼んだのか、穂奈美と呼ばれた藤堂くんの相方に(おそらく従姉の)大学生が話しかけていた。あの人が、かの有名な女優さんの娘さんか。想像をはるかに超える容姿に目を奪われた。
 そして藤堂くんの相方ーーー穂奈美もこれまた和洋問わず似合う美少女だった。
 穂奈美は美しくお辞儀をし、口を開いた。