桜木学園、歴史研究科百人一首部 〜桜の下、託された記憶〜

 驚いてしまった。桜木学園でドラマ撮影って、どんなものなんだろう。気になるな。
「そのドラマの助監督を選ぶ会が今日あって、見るだけでも行こうかなと思って」
 詩波が歌波の肩に手を置いて、ピースをする。
「私、脚本家グループに入りたいの」
 そういえば、と思う。
「詩波は物語とか好きだもんね、似合いそう」
「詩波、藤堂(とうどう)くんも同じグループだもんね、頑張って」
 歌波の口から予想外の名前が出た。藤堂くん。去年、私と同じクラスだった。いつも源氏物語を読んでは切なそうな目をするのだ。初蜜くんと同じく謎めいた男の子だ。
「脚本家グループって、何人いるの?」
 藤堂くん以外にも何人かいるよね? どうして特定なんだろう。
「えっと、4人くらいかな」
「その割に応募者は40人くらいいるけどね。どうやって選んでるんだろう」
 歌波は軽い足取りでこっちを振り返る。
「志津音も立候補しない?」
 詩波もこっちを見つめてくる。
「え・・・・・・」
 どうしよう。
「私は・・・・・・」

 中休み。
「志津音」
 歌波が手を振ってくる。
 初蜜くんは2時間目で早退してしまい、中休みは歌波と例の助監督候補者たちの選抜会を見学しに行くことにした。
「志津音、用事は大丈夫なの?」
「ああ、初蜜くんが早退しちゃって」
「ふぅん」
 歌波は詩波のクラスに寄るようで、私も一緒に行った。
「あ、藤堂くん」
 私が呟くと、歌波が振り返った。
「ん? 志津音も藤堂くんのこと気になってるの? 目で追ってるじゃん」
「いや、詩波のこと追ってたら目に入っただけ」
 まったく、歌波、困るなあ。
 私は平安時代の姫でもないんだし、色恋を実際に体験するのもまだ先だと思う。
「詩波、早く。置いてくよ」
 歌波に急かされ、詩波は急いで出てきた。
 4年2組。
 その看板に指で触れる。
 学年一のカップル数を誇る、恋多きクラスだ。
「志津音は何役になるんだろうね」
 詩波が私の肩に触れた。
 そう、朝、あの後私は演じたいと言ったんだ。
 もし、詩波が脚本家になれて、私がそれを演じられたら、そんなに嬉しいことはないと思えるんだ。
「うん。私、誰かと共演したいな」
「いいじゃん、オーディション頑張って! 応援する‼︎」
 詩波と歌波はハイタッチをして、私の方を見てくれた。
 
でも。 
知らなかった。
私が藤堂くんたちと共演することになるなんて・・・・・・。