桜木学園、歴史研究科百人一首部 〜桜の下、託された記憶〜

「あ、いや、今食べます」
 私が言うと、彼は安心したように、またおこしを一口食べた。
 私も一口かじると、ポロポロとカケラが落ちてしまった。
「あ・・・・・・」
 拾い集めてつまもうとすると、初蜜くんが「立って」と促した。
 私が立ち上がると、彼は自分の制服に落ちたカケラを払い落とした。
 一瞬、また彼にさっきの平安貴族の面影を見てしまった。
 それくらい、初蜜くんの所作は美しかった。
 私も真似たけれど・・・・・・。
 なかなか上手くいかなかった。


 八時。
 私たちは「なごやか餡子」を出て、桜木学園に向かった。
 私の手には、初蜜くんに預かった計画書がある。
「志津音、中休み、フリーベンチで会おう」
「あ、はい」
「じゃあ、また」
 門をくぐって、彼と別れた。
「志津音! おはよう、今日ゆっくりだね」
 詩波《しなみ》が話しかけてくる。
「これ、私たちの歌」
 小さな紙を受け取ると、そこには筆で書き流された歌が一首あった。でも、達筆だったからすぐには読み解けなかった。家に帰ってゆっくり味わおう。
「歌波と作ったの」
 詩波の隣には彼女の双子、歌波がいた。
「ありがとう」
 お礼を言うと、
「返歌は大丈夫だから」
 歌波は遠慮がちに呟いた。
「え? なんで」
 私は聞き返した。
「だって、小式部内侍の歌、調査するんでしょ?」
「ああ、これか」
 なんだ。
「ん? 何それ」
 詩波が計画書を覗き込んでくる。


               調査計画書
  調査内容:百人一首60番、小式部内侍の歌が詠まれた場所について
  調査担当:歴史研究科百人一首部4年、初蜜考斗、光間志津音(3月末時点)
        ※追加・変更等あれば「調査進行書」にて再提出します
  調査期間:計画書認定後〜翌年度3月末まで
  調査費用:参考用書籍代5000円程度


「いいじゃん、頑張って! 私たち応援するよ」
 詩波はぴょんぴょん飛び跳ねて、ブラウスのリボンを揺らす。
「ありがとう。この歌も」
 歌波もうなずいてくれた。
「じゃあ、そろそろ行こう」
 私たちは桜がそれなりに咲き始めた校庭を通って、校舎に入った。
「志津音、中休み空いてる?」
 詩波が桜の蕾をつつきながら聞いてきた。
「ああ、ちょっと用事があって。ごめんね。なんかあった?」
 すると、歌波が口を開いた。
「あのね、この学園でドラマ撮影をすることになったの」