初蜜くんには、前世があった。
正確な名前は教えてもらえなかったけれど、確実なのは、藤原基俊の知り合いだったこと。
本人が言ったのだから、きっとそうなのだろう。
「志津音、ちょっと」
「あ・・・・・・すみません」
顔を上げると、初蜜くんが立っていた。
いきなり話しかけられるとぎこちなくなるのは、私の・・・・・・ずっと直らない、話し方の癖だ。
「ちょっとだけ、和菓子屋いかない?」
彼が指さしたほうを向くと、いつもの店があった。
「志津音。これ、小式部内侍の歌の研究調査計画書」
朝七時二十分。
私たちの姿は、お気に入りの和菓子屋、「なごやか餡子(東京本店)」にあった。
桜木学園から徒歩三分、最寄駅の新住駅からも徒歩五分で着くこの店で、桜餅をひとくちぱくり。
初蜜くんは「おこし」という中国から来た唐菓子をじっと見つめている。
渡された書類を眺めて、ページをめくっていく。
【歴史研究科百人一首部 研究調査計画書】
太字で書かれた文字の下に、
〈4ー1、初蜜考斗 4ー3、光間志津音〉
私たちの名前がある。
「これ・・・・・・」
ちゃんと書いてくれたんだ。
全三ページの計画書。
「懐かしいな、この味」
唐突に初蜜くんの声がした。
前を向くと、そこには平安貴族の男性がいて、おこしを片手に目を細めていた。
「え・・・・・・」
初蜜くんじゃない。
誰・・・・・・!?
「なあ、そう思うだろう?」
彼は微かに何かを呟いた。
なんて言ったの・・・・・・。
「この味、」
その瞬間、ふっと彼は姿を消した。
今のは、なんだったんだろう。
私の目の前には、初蜜くん本人がいる。
「志津音、これ、一口食べてみない?」
彼はおこしを少し割って、私に差し出した。
「あの・・・・・・」
「なんだい、志津音」
「あ・・・・・・。さっき、ここに平安貴族の男性がいて・・・・・・。誰だったんでしょうか」
初蜜くんは首を傾げて、
「僕のことじゃないか?」
と笑った。
でも。
一つだけ気になって。
彼の笑う顔は、私が幻を見たことに納得しているように見えたんだ。
今度は私が首を傾げて、おこしのカケラをじっと見つめる。
「食べないのか?」
少し不安そうに初蜜くんは話しかけてきた。
私のことを心配してくれているのだろうか。
正確な名前は教えてもらえなかったけれど、確実なのは、藤原基俊の知り合いだったこと。
本人が言ったのだから、きっとそうなのだろう。
「志津音、ちょっと」
「あ・・・・・・すみません」
顔を上げると、初蜜くんが立っていた。
いきなり話しかけられるとぎこちなくなるのは、私の・・・・・・ずっと直らない、話し方の癖だ。
「ちょっとだけ、和菓子屋いかない?」
彼が指さしたほうを向くと、いつもの店があった。
「志津音。これ、小式部内侍の歌の研究調査計画書」
朝七時二十分。
私たちの姿は、お気に入りの和菓子屋、「なごやか餡子(東京本店)」にあった。
桜木学園から徒歩三分、最寄駅の新住駅からも徒歩五分で着くこの店で、桜餅をひとくちぱくり。
初蜜くんは「おこし」という中国から来た唐菓子をじっと見つめている。
渡された書類を眺めて、ページをめくっていく。
【歴史研究科百人一首部 研究調査計画書】
太字で書かれた文字の下に、
〈4ー1、初蜜考斗 4ー3、光間志津音〉
私たちの名前がある。
「これ・・・・・・」
ちゃんと書いてくれたんだ。
全三ページの計画書。
「懐かしいな、この味」
唐突に初蜜くんの声がした。
前を向くと、そこには平安貴族の男性がいて、おこしを片手に目を細めていた。
「え・・・・・・」
初蜜くんじゃない。
誰・・・・・・!?
「なあ、そう思うだろう?」
彼は微かに何かを呟いた。
なんて言ったの・・・・・・。
「この味、」
その瞬間、ふっと彼は姿を消した。
今のは、なんだったんだろう。
私の目の前には、初蜜くん本人がいる。
「志津音、これ、一口食べてみない?」
彼はおこしを少し割って、私に差し出した。
「あの・・・・・・」
「なんだい、志津音」
「あ・・・・・・。さっき、ここに平安貴族の男性がいて・・・・・・。誰だったんでしょうか」
初蜜くんは首を傾げて、
「僕のことじゃないか?」
と笑った。
でも。
一つだけ気になって。
彼の笑う顔は、私が幻を見たことに納得しているように見えたんだ。
今度は私が首を傾げて、おこしのカケラをじっと見つめる。
「食べないのか?」
少し不安そうに初蜜くんは話しかけてきた。
私のことを心配してくれているのだろうか。


