「それな、作ったの俺の親父なんだ」
「……えっ?」
目を細める長谷川を見る。空になった煮物の小鉢へ視線を落とし、もう一度長谷川の顔を見た。
「うちの親、板前って言っただろ」
「や、言ってたけどさ。本当に?」
「本当に。嘘ついてどうすんだよ」
長谷川が笑っていると、店員さんが静かにやって来て小鉢を下げた。
次いで天ぷらが運ばれてきた。揚げたてらしく湯気が立ちのぼり、香ばしい匂いがふわりと広がる。
「わ、美味しそう」
「夏野菜とエビのかき揚げだな。天つゆでもいいけど、塩もうまいから試してくれ」
「うん!」
「悪いな、ビールなくて」
「ちょ、忘れてたのに! 思い出したらビール飲みたくなっちゃうじゃん……!」
暑い夏の終わりに天ぷらとビール!
間違いない〜。
「今度作ろうか」
「お願いします!!」
「声がデケえよ。とにかく今はそれを食べてくれ」
「うん、いただきます」
ナス、オクラ、かぼちゃ、ゴーヤ、イカにキス。
どどれもおいしそうだけど、塩でいくか麺つゆでいくか悩むな……!
「どした?」
「イカは塩と麺つゆ、どっちがオススメ?」
「塩。ここの塩はいい品だからぜひ試してくれ。あ、でも」
長谷川が一瞬目を逸らしてから、どこか照れたように目を細めて私を見た。
「麺つゆを試したければ、ここで作ってる麺つゆに近いのが作れるから、今度作る」
「お願いします」
「あのさ」
「ん?」
イカに塩を振る。
さらさら、ぱらぱら。白い塩が衣の上で小さく跳ねた。
「ここ、俺の実家でさ」
「うん」
「俺は、いつか立花を恋人として親に紹介したくて、ここに連れてきた」
箸を止めた。
長谷川は微笑んでいるけど、口の端はわずかに引きつっている。テーブルの上の手は強く握りしめられ、骨が白く浮いていた。
私の前の皿には、キスの天ぷらがひとつだけ残っていた。
指先から転げ落ちそうになった箸を持ち直し、それからゆっくり皿の脇に置いた。
――ふと、初めて一緒に料理をしたときのことを思い出した。
『俺は迷惑かけられてるなんて思ったことねえけど』
あのとき、長谷川は真っ直ぐに私を見ていた。今と同じように。
喉がからからに乾いている。唾を飲み込み、ようやく口を開いた。
「……私、ズボラじゃん」
「うん」
「即答すんなし。私の親ね、私がこれだけズボラで適当なの分かってて、差し入れにちょっといいワイン送ってくる人たちだよ」
「うん」
「だから、長谷川が会ったら、変な人たち過ぎてびっくりするかもしれない」
握りしめられていた拳が、ゆっくり解かれた。引きつっていた口元も緩み、長谷川はふっと息を吐く。
「大丈夫。立花で慣れてる」
「キスの天ぷら、麺つゆでも食べたいから今度作って」
「いいけど立花も手伝えよ」
……当たり前じゃん。私だって、長谷川と料理をするのが好きだもの。
長谷川は、さっきまでよりずっと優しい顔で私を見ていた。きっと私も同じような顔をしている。
「『お願い、美颯ちゃん』って言って」
「これからよろしく、美颯」
「こちらこそ、よろしく紫月」
「……えっ?」
目を細める長谷川を見る。空になった煮物の小鉢へ視線を落とし、もう一度長谷川の顔を見た。
「うちの親、板前って言っただろ」
「や、言ってたけどさ。本当に?」
「本当に。嘘ついてどうすんだよ」
長谷川が笑っていると、店員さんが静かにやって来て小鉢を下げた。
次いで天ぷらが運ばれてきた。揚げたてらしく湯気が立ちのぼり、香ばしい匂いがふわりと広がる。
「わ、美味しそう」
「夏野菜とエビのかき揚げだな。天つゆでもいいけど、塩もうまいから試してくれ」
「うん!」
「悪いな、ビールなくて」
「ちょ、忘れてたのに! 思い出したらビール飲みたくなっちゃうじゃん……!」
暑い夏の終わりに天ぷらとビール!
間違いない〜。
「今度作ろうか」
「お願いします!!」
「声がデケえよ。とにかく今はそれを食べてくれ」
「うん、いただきます」
ナス、オクラ、かぼちゃ、ゴーヤ、イカにキス。
どどれもおいしそうだけど、塩でいくか麺つゆでいくか悩むな……!
「どした?」
「イカは塩と麺つゆ、どっちがオススメ?」
「塩。ここの塩はいい品だからぜひ試してくれ。あ、でも」
長谷川が一瞬目を逸らしてから、どこか照れたように目を細めて私を見た。
「麺つゆを試したければ、ここで作ってる麺つゆに近いのが作れるから、今度作る」
「お願いします」
「あのさ」
「ん?」
イカに塩を振る。
さらさら、ぱらぱら。白い塩が衣の上で小さく跳ねた。
「ここ、俺の実家でさ」
「うん」
「俺は、いつか立花を恋人として親に紹介したくて、ここに連れてきた」
箸を止めた。
長谷川は微笑んでいるけど、口の端はわずかに引きつっている。テーブルの上の手は強く握りしめられ、骨が白く浮いていた。
私の前の皿には、キスの天ぷらがひとつだけ残っていた。
指先から転げ落ちそうになった箸を持ち直し、それからゆっくり皿の脇に置いた。
――ふと、初めて一緒に料理をしたときのことを思い出した。
『俺は迷惑かけられてるなんて思ったことねえけど』
あのとき、長谷川は真っ直ぐに私を見ていた。今と同じように。
喉がからからに乾いている。唾を飲み込み、ようやく口を開いた。
「……私、ズボラじゃん」
「うん」
「即答すんなし。私の親ね、私がこれだけズボラで適当なの分かってて、差し入れにちょっといいワイン送ってくる人たちだよ」
「うん」
「だから、長谷川が会ったら、変な人たち過ぎてびっくりするかもしれない」
握りしめられていた拳が、ゆっくり解かれた。引きつっていた口元も緩み、長谷川はふっと息を吐く。
「大丈夫。立花で慣れてる」
「キスの天ぷら、麺つゆでも食べたいから今度作って」
「いいけど立花も手伝えよ」
……当たり前じゃん。私だって、長谷川と料理をするのが好きだもの。
長谷川は、さっきまでよりずっと優しい顔で私を見ていた。きっと私も同じような顔をしている。
「『お願い、美颯ちゃん』って言って」
「これからよろしく、美颯」
「こちらこそ、よろしく紫月」



