鬼同期が家だとオカンだったし、その後スパダリに進化した

「おい、立花」

「長谷川もコーヒー飲む?」

「さっき淹れたばっかりだからいらねえ。そうじゃなくて、助かった」

「何が?」


 見上げた長谷川は、気まずそうな、困ったような顔をしていた。

 さっきまで、紫くんにあんなにガミガミ言っていた勢いはどこに行ったのさ。

 マグカップを軽くすすいで、カフェオレのスティックを開ける。


「紫のフォローしてくれて」

「ああ。別にいいよ。むしろ、あのおっちょこちょい相手にあそこまで丁寧に修正箇所指摘するとか、長谷川って意外と面倒見いいんだね。言い方はアレだけど」

「やっぱりダメかな」

「ダメっていうか、キツい。紫くん萎縮しちゃって、せっかくちゃんと指示してるのに頭入ってなかったの、もったいないっしょ」

「……そうだな」


 冷静に考えると、長谷川は言い方がキツいだけで指摘自体はまともだ。逆に私は言い方が穏やかなだけで、言ってること自体は別に優しくない。そう考えると、先輩として優しいのは案外長谷川のほうなのかもしれなかった。

 マグカップにお湯を注ぐと、甘ったるいカフェオレの匂いがふわっと立ち上った。


「立花」

「うん」

「やっぱ俺にもそれちょうだい」

「いいよ。戻ろうか」


 長谷川と営業部に戻る。

 並んで歩いているだけで、別に会話はない。

 席に戻って引き出しからカフェオレのスティックを一本取り出して渡すと、長谷川はやけに嬉しそうな顔で受け取った。

 いつもそれくらい笑顔でいればいいのに。

 でもそれを口にする前に、長谷川はもういつもの仏頂面に戻って、自分の席へ行ってしまった。


 そういえば、戻ってくるときは置いていかれなかったな、とカフェオレがなくなる頃になってやっと気づいた。