鬼同期が家だとオカンだったし、その後スパダリに進化した

「……ってことがありまして」

「長谷川、マジかよ」


 移動中の電車の中で、丹沢先輩にさっきの長谷川との話をしたら、ぎょっとされた。そりゃそうだ。


「秦野さん、たまに仕事頼んでも、よくわからんって顔してること多かったけど……そっか、そういうことか」

「もしかして長谷川が成績いいのって、自分で全てを把握しているからでしょうか」

「そういうこと? そりゃ一人で全部抱えてりゃ、抜け漏れも伝達ミスもないだろうけどさあ……これ、課長に言っていい?」

「むしろお願いします」

「おうよ」


 頼もしく頷く先輩のあとを追って電車を降り、そのままお客様先へ向かった。

 うちは飲食系の卸をやっていて、私と丹沢先輩の担当はファミレスチェーンだ。大手ファミレスチェーンの、やたら大きい本社ビルへと向かった。



 帰り道、電車を降りたところで、丹沢先輩が


「さっきの話だけど」


 と、不意に口を開いた。


「立花さん、秦野さんとチェンジってなったらヤダ?」

「だいじょぶです。むしろ長谷川のモラハラで萎縮する後輩がいなくなるなら、そのぶんやりやすいまであります」

「ひゅう、頼もしい! ……俺に未練などは?」

「ないので安心してください」

「ちょっとくらい別れを惜しんでくれてもよくない? ま、可能性の話だけど」


 丹沢先輩はひょうひょうと笑いながら、先に会社へ入っていった。


 弊社の自社ビルは自動ドアが開くと、エントランスを風が一気に吹き抜ける。だから丹沢先輩は、風よけになるために毎回私より先に入ってくれる。

 そんなこと一回も口にしたことない先輩だから、バディ解消が寂しくないわけじゃない。でも、それはそれ。

 私はその背中を追いかけて、課長のところへ向かった。



 ――結論から言えば、担当は変わらなかった。


 そりゃそうだ。こんな微妙な時期に、いきなり担当を代えたりしない。

 でも、秦野ちゃんが営業事務としてできることがやけに少ないのは、課長も前から気になっていたらしくて、私と丹沢先輩でフォローに入ることになった。


「営業事務の中で、口伝になってる作業、山ほどあるだろ? あれ、立花さんと秦野さんでマニュアル化しといてよ」


 課長がにこりと笑って言った。

 ……ですよね。私もそろそろ口伝じゃなくてマニュアル化したかった。でも、言い出したが最後、担当になるやつだから、ずっと見て見ぬ振りしてた案件だ。


「承知しました。秦野ちゃん、仕事増やしちゃって悪いけど、一緒に頑張ろう」

「はい!」


 営業男子たち――丹沢先輩と課長、そして長谷川はまだ話があるらしく、私は秦野ちゃんを連れて先に席へ戻った。

 戸部先輩はもう帰宅済みだったから、空いた席に秦野ちゃんを座らせて、マニュアル化したい作業一覧を一緒に確認する。


「わ、こんなに……」

「この中で、秦野ちゃんがやったことある作業ってどれ?」

「えっと、これと、ここからここと……」


 向こうの話が終わったらしい長谷川が、何か言いたげな顔で後ろを通っていった。でもちょっと面倒だったし、こいつのせいでまた仕事増えたなってモヤモヤしていたから、見ない振りをした。