ともかく席について、パソコンを立ち上げてメールを確認する。
金曜の夜はそこそこ遅くまで働いてたのに、そのあとにもメールが来ていた。
土日にも届いてるし、ほんと休めって感じ。
返事できるものは返して、確認が必要なものはメモに残しておく。
そうこうしてるうちにフロアの人も増えてきて、課長が来たら朝礼だ。
といっても月曜日だから、「今週も金曜日までがんばりましょう」「残業は控えるように」「今週の目標はこれくらい」なんてざっくり話があっておしまい。
またパソコンに向かって今週のタスクを整理していたら、後ろから誰かが覗き込んできた。
「立花、ちょっといい?」
「いいよ」
そこにいたのは長谷川で、なんだか落ち着かなそうに視線を泳がせている。
「どしたの。エプロンのことなら黙っとくけど」
「いや、今それデカい声で言ったら台無しじゃねえか。違う。頼みたい仕事があるんだよ」
「いいよ」
「内容を聞いてから引き受けろよ。どうすんだよ、馬鹿な無茶振りだったら」
長谷川のノリツッコミが妙に面白くて即答したら、露骨に嫌な顔をされた。
一昨日パワハラを指摘された上で仕事まで無茶振りしてきたら、さすがに面の皮が厚すぎる。長谷川はそういうタイプではないと思ったんだけど。
「するの、無茶振り?」
「しねえけど」
「ね」
「『ね』じゃねえよ。ああもう、話進まねえな。午後、役所に引っ越しの手続き行きたいから、いくつか頼みたいんだよ」
「わかった。あとでメール投げといて」
「だから即答すんなって。えっと、助かる」
「満面の笑みで『ありがとう、美颯ちゃん』って言ってくれればそれでいいから」
「言わねえよ、ばか」
長谷川は苦笑しながら席に戻った。ほどなくしてメールが飛んできて、それを開こうとしたら、隣の席から戸部先輩がひょこっと顔を覗かせた。
「立花ちゃん、いつの間に長谷川くんと仲良くなったの?」
「別になってないです。なってませんけど、なんか不器用な人っぽいことに気づいたので、あんまり怖がらなくてもいいかなって」
「ふうん。立花ちゃん、気にしいだけど割り切ると早いから、頼もしいなあ」
……今の、褒められてた? なんか微妙に雑じゃなかった?
首を傾げながら、長谷川から飛んできたメールを開いた。
明日締め切りの紫くんの企画書の下読みと、明日訪問するお客様の情報取りまとめの二つだ。
それも今週のタスク一覧に突っ込んで、他の仕事と優先順位や締め切りを見比べながら、今日やることを整理していく。
よしよし。今日はそこまで忙しくない。
引き出しからチョコを取り出して、一粒口に放り込む。
さあ、働こう。
***
昼過ぎ。キーボードを打つ手を止めて伸びをしたら、また長谷川が後ろから覗き込んできた。
「頼んだやつ、大丈夫そう?」
「全然大丈夫。定時内に返す」
「よろしく。俺、そろそろ行くから」
「はあい。お疲れさまでした、また明日」
「……お疲れ」
長谷川は、肩の力が抜けたみたいな顔で帰って行った。
入り口のホワイトボードには、長谷川の名前の横に「早退」と細く整った字で書かれている。隣の席では戸部先輩がお弁当を食べていて、他にもちらほら昼を食べている人がいた。
私もそろそろ昼にしようかな。
少し考えてから、土曜日に行きそびれたタリーズへ向かうことにした。別にそこまで好きなわけじゃないのに、行けなかったとなると妙に行きたくなる。
昼に行って戻ってきたら、戸部先輩が顔を上げた。
「立花ちゃんって自炊しない人?」
「しないです。家に調味料もないですし、炊飯器もないです」
「不便じゃない?」
「今のところ困ってないですし。いつか必要に迫られたら、そのときやります」
「そりゃそうだ。私も必要じゃなきゃ、やらないもの」
先輩はちょっと疲れた顔で笑って、仕事に戻った。
金曜の夜はそこそこ遅くまで働いてたのに、そのあとにもメールが来ていた。
土日にも届いてるし、ほんと休めって感じ。
返事できるものは返して、確認が必要なものはメモに残しておく。
そうこうしてるうちにフロアの人も増えてきて、課長が来たら朝礼だ。
といっても月曜日だから、「今週も金曜日までがんばりましょう」「残業は控えるように」「今週の目標はこれくらい」なんてざっくり話があっておしまい。
またパソコンに向かって今週のタスクを整理していたら、後ろから誰かが覗き込んできた。
「立花、ちょっといい?」
「いいよ」
そこにいたのは長谷川で、なんだか落ち着かなそうに視線を泳がせている。
「どしたの。エプロンのことなら黙っとくけど」
「いや、今それデカい声で言ったら台無しじゃねえか。違う。頼みたい仕事があるんだよ」
「いいよ」
「内容を聞いてから引き受けろよ。どうすんだよ、馬鹿な無茶振りだったら」
長谷川のノリツッコミが妙に面白くて即答したら、露骨に嫌な顔をされた。
一昨日パワハラを指摘された上で仕事まで無茶振りしてきたら、さすがに面の皮が厚すぎる。長谷川はそういうタイプではないと思ったんだけど。
「するの、無茶振り?」
「しねえけど」
「ね」
「『ね』じゃねえよ。ああもう、話進まねえな。午後、役所に引っ越しの手続き行きたいから、いくつか頼みたいんだよ」
「わかった。あとでメール投げといて」
「だから即答すんなって。えっと、助かる」
「満面の笑みで『ありがとう、美颯ちゃん』って言ってくれればそれでいいから」
「言わねえよ、ばか」
長谷川は苦笑しながら席に戻った。ほどなくしてメールが飛んできて、それを開こうとしたら、隣の席から戸部先輩がひょこっと顔を覗かせた。
「立花ちゃん、いつの間に長谷川くんと仲良くなったの?」
「別になってないです。なってませんけど、なんか不器用な人っぽいことに気づいたので、あんまり怖がらなくてもいいかなって」
「ふうん。立花ちゃん、気にしいだけど割り切ると早いから、頼もしいなあ」
……今の、褒められてた? なんか微妙に雑じゃなかった?
首を傾げながら、長谷川から飛んできたメールを開いた。
明日締め切りの紫くんの企画書の下読みと、明日訪問するお客様の情報取りまとめの二つだ。
それも今週のタスク一覧に突っ込んで、他の仕事と優先順位や締め切りを見比べながら、今日やることを整理していく。
よしよし。今日はそこまで忙しくない。
引き出しからチョコを取り出して、一粒口に放り込む。
さあ、働こう。
***
昼過ぎ。キーボードを打つ手を止めて伸びをしたら、また長谷川が後ろから覗き込んできた。
「頼んだやつ、大丈夫そう?」
「全然大丈夫。定時内に返す」
「よろしく。俺、そろそろ行くから」
「はあい。お疲れさまでした、また明日」
「……お疲れ」
長谷川は、肩の力が抜けたみたいな顔で帰って行った。
入り口のホワイトボードには、長谷川の名前の横に「早退」と細く整った字で書かれている。隣の席では戸部先輩がお弁当を食べていて、他にもちらほら昼を食べている人がいた。
私もそろそろ昼にしようかな。
少し考えてから、土曜日に行きそびれたタリーズへ向かうことにした。別にそこまで好きなわけじゃないのに、行けなかったとなると妙に行きたくなる。
昼に行って戻ってきたら、戸部先輩が顔を上げた。
「立花ちゃんって自炊しない人?」
「しないです。家に調味料もないですし、炊飯器もないです」
「不便じゃない?」
「今のところ困ってないですし。いつか必要に迫られたら、そのときやります」
「そりゃそうだ。私も必要じゃなきゃ、やらないもの」
先輩はちょっと疲れた顔で笑って、仕事に戻った。



