初恋は、終電の先に

 ……山田(やまだ)尚也(なおや)先輩は、私が高校生のときの委員会の先輩だ。

 高校に入学して三日目くらいに図書室を見に行ったら、カウンターに先輩が立っていた。

 すらりとした体型、さらさらの髪、一重の涼しげな目元が四角い眼鏡の奥で柔らかく細められている。


「一年生、かな?」


 ぼんやりと立ち尽くす私に気づいた先輩が穏やかに微笑んで、その笑顔に、転がり落ちるように恋に落ちた。


 その後私は図書委員に立候補して、ひたすら先輩との接点を増やした。

 毎日のように図書室に通って、カウンターの当番はできるだけ先輩と同じタイミングで入れていた。

 先輩は三年生だったから、一年生の私とは全然接点がなくて、すれ違っただけでも、私は全力で絡みに行っていた。

 友達からは「忠犬?」なんて笑われてたけど、とにかく先輩の顔を見たら駆け寄らずにはいられないくらい、好きだった。


 でも、結局告白はできなかった。

 卒業式の後、先輩はやっぱり図書室で友達と喋っていた。

 一年間先輩にまとわりついていた私のことを先輩の友達も知っていたから、気を利かせてくれて少し離れたところで見守ってくれていたのに、私は泣くことしかできなくて、先輩を困らせたまま、別れてしまった。

***

 ――そのことを私は、十年以上経った今でも後悔している。


 だからまあ、毎日毎日終電まで働かされる可哀想なアラサー女に、神様が見せてくれた都合のいい夢なんだろうな。

 そういうことにしないと頭がパンクする。


 私は先輩と別れた後、可及的速やかに家に向かった。

 コンビニにも寄らずに帰って、カバンを放り投げてシャワーを浴びた。

 適当に髪を乾かして、部屋の明かりもつけずにベッドに倒れ込んだ。

 きっと、明日の昼くらいに目が覚めたときには先輩のことなんて忘れてる。

 先輩が私を覚えていてくれたこととか、あの時と変わらず微笑んでくれたこととか、なんもかんも、忘れさせてくれ。