初恋は、終電の先に

 電車がガタンと揺れて、体が傾いた。

 ドサッと隣の人にぶつかり、同時に電車が止まった。


「あ、ヤバ……」

「まだ秋谷が降りる駅じゃないよ」

「よかった……えっ?」


 ホッとして顔を上げると、隣に座るスーツ姿の男性が、穏やかに微笑んで私を見ていた。


「秋谷、高校の時からよく寝てたけど、大人になっても寝坊助なんだな」

「えっ……や、山田(やまだ)先輩!?」

「久しぶり」


 言葉が出なかった。

 え、なんで。


「……夢、かな?」

「ほっぺた、つねろうか?」

「お願いします……」

「冗談だよ。会いたかった。ねえ、ニャインID教えて」

「え? は、はあ……?」


 ぼんやりしたままスマホを取り出した。

 差し出されたスマホに表示されたコードを読み込み、友達登録をした。

 すぐにポコンと抜けた音がして、アニメキャラクターのスタンプが送られてきた。


「これ、秋谷好きじゃなかったっけ? あ、次。秋谷が降りる駅だろ?」


 先輩が穏やかな笑みのまま、窓の外を見た。

 電車はゆるやかに速度を落として、ホームへと入っていた。


「あ……ほんとだ。あのもしかして先週も、先輩?」

「そうだよ。やっぱり気づいてなかった。よかったよ、今言えて。じゃあまた、終電で。おやすみ」

「は、はい。おやすみなさい、先輩」


 混乱したまま、ホームへと降りた。

 走り去る電車の中で、山田先輩は見えなくなるまで手を振ってくれていた。