初恋は、終電の先に

「……ん」


 ふと、懐かしい匂いがした。

 この匂いは、確か……?


「大丈夫?」

「えっ!?」


 いつの間にか寝ていたうえに、誰かにもたれかかってしまっていたらしい。


「ご、ごめんなさい……!」


 慌てて飛び起きて、頭を下げた。

 顔を上げようとした途端に、電車が揺れてアナウンスが響いた。


「あ、降りなきゃ。すみません、ご迷惑おかけしました!」

「いえ、お気をつけて」


 穏やかな声に見送られて、私は電車を飛び降りた。

***

 週明け三日くらいは、なんとか終電を免れた。

 ……といっても、最終の一つ前とかだけど。

 木曜日は少し早く帰れたけど、金曜日はダメだった。


「くそう……今週こそ、終電を脱せるかと思ったのに……!」


 金曜日の夜、私はいつもどおり、最終電車ギリギリの時間に会社を出た。

 本当にギリギリの時間だったから、ハイヒールなのに小走りで駅に向かった。

 先週はうっかり見知らぬ人にもたれかかっちゃったから、今日は寝ないようにしなきゃ……。

 でも、普通に眠い。

 だってもう日付け変わってるんだよ。

 無理……眠い……。


 小走りどころか、ほぼダッシュで改札を抜けてホームに向かうと、ちょうど電車がホームに滑り込んできた。

 電車の中はやっぱり温かくて、座ったら頭がぼんやりしてきた。

 ずっと走っていたせいで足が痛いし。


「無理……眠い……」


 私は疲れ果てて、まぶたが重くて、もうダメだ。

 膝に乗せたカバンを抱えて目を閉じた。

 ああ、眠い。

 でも電車の中は寒くないし、会社の人もいないし、電話もメールも来ないから、ちょっとくらい目を閉じてもいいと思う。

***

 また、懐かしい匂いがした。


「あれ……、これ……?」