初恋は、終電の先に

「わ、もう降りなきゃ。そういえば、先輩はどちらの駅で降りるんですか?」

「この次だよ」

「そうでしたか。思ったよりも近くにお住まいなんですね」

「大学出てから同じところに住んでたのに、気づかなかったな。もったいないことをした」

「あ、私は引っ越してるんですよ。社内規定が変わって住宅補助の範囲が変わったから」


 電車が止まった。

 立ち上がると、やっぱり先輩はついてきて、ドアの前まで送ってくれた。


「じゃあ、また明日。おやすみ秋谷」

「はい、また明日。おやすみなさい、先輩」


 電車を降りて手を振った。

 ドアが閉まって、先輩も手を振ってくれた。

 先輩を乗せた電車が見えなくなるまで見送って、それから改札を抜けた。

 マンションの手前で、スマホが震えた。


「先輩だ! ……猫?」


 送られてきたのは道路で振り返る猫の写真だった。


『駅前にいた』


 という短いメッセージ付きだ。

 そういえば、先輩は猫好きだっけ。


「俺、猫好きなんだけど、猫には好かれないんだよな」


 高校のころに、そんなことをぼやいていたっけ。

 周りを見回したけど、野良猫はいない。かわりに近所の動物病院の看板に、不細工な猫の絵が描いてあったからスマホで撮って送った。

 すぐに返事が来て、


『そんなかわいい看板があるなら、そっちに住めばよかった』


 と書いてあった。

 ……そんなにかわいいかな。

 この看板をかわいいという先輩がかわいい。

 それを送れない私は、たぶんかわいくないんだろう。