次の日は、終電の二つくらい前の電車に乗れそうだった。
……でも、乗らなかった。だって山田先輩が「また明日」って言ってくれたんだ。
十年ぶりに聞いたその言葉が、今日一日ずっと頭から離れなくて、何度も目頭が熱くなってパソコンの画面が滲んでしかたなかった。
それでも先輩に「秋谷は昔から気が利くし、書類を片付けるの得意だったもんな」って言われたから、頑張れた。
我ながら単純だけど、大好きな先輩にかっこ悪いところは見せたくなくて、一日頑張ったし、頑張ったからには先輩に会いたい。
それに、仕事は切り上げようとすれば切り上げられるだけで、やることはまだまだあった。だから明日の私のためにってそれらしい言い訳をして、終電まで仕事をして会社を出た。
静かなオフィス街に、ヒールがカツカツと地面を叩く音だけが響いた。
夜の空気は冷たいけど、それよりも山田先輩に会える嬉しさと緊張のほうが勝っていて、寒さなんて感じない。
桜はもうすぐ散りそうで、花壇のチューリップも大きく花びらを開いていた。
春の風に髪を揺らされながら、駅へと急ぐ。
改札にスマホを当てた瞬間、終電一つ前の電車が走り去る音が聞こえた。そのままトイレに向かって髪を整え、口紅を塗り直す。ファンデのよれとアイシャドウ、チークも整えた。
マニキュアはちょっと剥がれかけているから、これは帰ったら直そう。
エスカレーターを上がって、七号車の乗り場へ向かった。
相変わらず空には星がうっすら光ってるけど、私は詳しくないからその名前も、繋げたら何かの星座になるのかもわからない。ただ、その星を先輩も見ながら駅に向かって歩いていたら嬉しい、それだけだ。
スマホを見ても、なんの通知も来ていない。
昨晩「また明日」と言って別れたけど、本当に会えるかなんてわからない。会えなくても仕方ない。学生のときだって、「また明日」と別れても、次の日に必ず会えたわけじゃないし。
私はそうやって傷つかないように、何度もしつこく予防線を張る。
スマホをカバンに放り込んで、抱え直した。
ホームに最終電車のアナウンスが流れて、胸の奥がきゅっと痛む。
十年前も、帰りのホームルームが終わるころになると胸が痛くなって、先生の終わりの挨拶と同時に教室を飛び出していた。図書室まで走っていって、三年生の授業が終わるのを今か今かと待ち構えていた。
今も同じように、やかましい心臓を抱えたまま夜風に吹かれて、星を見上げながら電車を待っていた。
先輩は、今日も乗ってくるだろうか。
あまりそわそわしてたら不審がられないかとか、先輩にウザがられないかとか、メイクはおかしくないかとか……十年前から全然進歩していない。
……でも、乗らなかった。だって山田先輩が「また明日」って言ってくれたんだ。
十年ぶりに聞いたその言葉が、今日一日ずっと頭から離れなくて、何度も目頭が熱くなってパソコンの画面が滲んでしかたなかった。
それでも先輩に「秋谷は昔から気が利くし、書類を片付けるの得意だったもんな」って言われたから、頑張れた。
我ながら単純だけど、大好きな先輩にかっこ悪いところは見せたくなくて、一日頑張ったし、頑張ったからには先輩に会いたい。
それに、仕事は切り上げようとすれば切り上げられるだけで、やることはまだまだあった。だから明日の私のためにってそれらしい言い訳をして、終電まで仕事をして会社を出た。
静かなオフィス街に、ヒールがカツカツと地面を叩く音だけが響いた。
夜の空気は冷たいけど、それよりも山田先輩に会える嬉しさと緊張のほうが勝っていて、寒さなんて感じない。
桜はもうすぐ散りそうで、花壇のチューリップも大きく花びらを開いていた。
春の風に髪を揺らされながら、駅へと急ぐ。
改札にスマホを当てた瞬間、終電一つ前の電車が走り去る音が聞こえた。そのままトイレに向かって髪を整え、口紅を塗り直す。ファンデのよれとアイシャドウ、チークも整えた。
マニキュアはちょっと剥がれかけているから、これは帰ったら直そう。
エスカレーターを上がって、七号車の乗り場へ向かった。
相変わらず空には星がうっすら光ってるけど、私は詳しくないからその名前も、繋げたら何かの星座になるのかもわからない。ただ、その星を先輩も見ながら駅に向かって歩いていたら嬉しい、それだけだ。
スマホを見ても、なんの通知も来ていない。
昨晩「また明日」と言って別れたけど、本当に会えるかなんてわからない。会えなくても仕方ない。学生のときだって、「また明日」と別れても、次の日に必ず会えたわけじゃないし。
私はそうやって傷つかないように、何度もしつこく予防線を張る。
スマホをカバンに放り込んで、抱え直した。
ホームに最終電車のアナウンスが流れて、胸の奥がきゅっと痛む。
十年前も、帰りのホームルームが終わるころになると胸が痛くなって、先生の終わりの挨拶と同時に教室を飛び出していた。図書室まで走っていって、三年生の授業が終わるのを今か今かと待ち構えていた。
今も同じように、やかましい心臓を抱えたまま夜風に吹かれて、星を見上げながら電車を待っていた。
先輩は、今日も乗ってくるだろうか。
あまりそわそわしてたら不審がられないかとか、先輩にウザがられないかとか、メイクはおかしくないかとか……十年前から全然進歩していない。



