初恋は、終電の先に

「んあー……」


 私は深夜のオフィス街を、背中を丸めて歩いていた。

 そろそろ冬が終わる時期だ。街路樹の根元にはチューリップの蕾が膨らんでいるし、駅前の桜並木にも蕾が出てきている。そろそろ春にならないかな。なってほしい。ほんとに、お願いします。


 けど、まだまだ夜風は冷たい。凍えるようなビル風が吹き抜けて、思わず肩を竦める。首元では「秋谷(あきや)奈月(なつき)」と印字された社員証が外し忘れて揺れていた。

 ため息をついて、首から社員証を外し、カバンに突っ込んだ。

 欠伸をしながら、スマホを改札に当てて通り過ぎる。


『間もなく電車が参ります……最終電車となりますので、お乗り忘れのないよう……』


 今週四回目の最終電車。

 月曜日に早めに帰れたから、今週はそんなに忙しくないかも、なんて思ったのに、全然そんなことなかった。

 むしろ、油断を誘うための罠だったのかも。なんのだよ……。

 しばらくしてやってきた電車に乗り込んだ。

 電車の中は温かくて、疲れた体に染みる。


「ふう……」


 ガラガラの電車の中、人目がないのをいいことに、どさっと座席に腰を下ろした。

 頭が重い。

 最近本当に忙しくて、忙しくて、家には寝に帰っているようなものだ。

 休みの日も遊びに行く元気がなく、ほぼ寝て過ごして、日曜日の夕方に何とか家事をして生活を回している。


 んー、でも、年度が変わったら、少しは落ち着かないかな。

 まぶたが重たくて、開けていられない。

 今、どこだろう。

 あと、何駅かな。

 電車が走る音と揺れで、ますます頭がぼんやりしてきて、もうダメだ。