並んで歩くなら、あなたと

「忙しいが?」

「俺も俺も」

「疲れた」

「俺もだよ」

「ぎゃー!」

「なんだよ、うるせえなあ」


 九月の半ば、私は中庭のベンチで宿題をしている藤也(とうや)の背中にへばりついていた。

 だってもう、忙しくて!

 世菜(せな)先輩には強がって「忙しいけど、楽しいです」なんて言ったけどね?

 忙しいけど楽しいけど、やっぱり忙しいよ!


「つーかーれーたー!」

「んだよ、うるせえな。世菜に言え、世菜に」

「先輩の方が疲れてそうだから言えない」

「俺も疲れてるんだけど!? 見ろ、この課題の量!! ふざけんな……」

「よしよしする?」

「いらない。ハニーにしてもらう」


 ですよねー。

 三年生は部活がない代わりに、受験向けの課題が増えるらしい。

 小論文、面接練習、受験向けの講座……。うーん、大変そうだ。

 そこに文化祭の準備が加わるし、藤也はたまに部活に顔を出して、新部長の手伝いもしている。家の手伝いだってしているけど、大丈夫なのかな?

 まあ、かわいいかわいい彼女に甘やかしてもらっているんだろう。


「大変だねえ」

「本当だよ」

「私以外のみんなが大変そうに見える」

「いや、花菜(かな)も普通に大変だろ。桔花(きっか)蓮乃(はすの)から聞いてるけど」

「そうなんだよ、大変なんだよ」


 自分の大変さを思い出してしまった。

 世菜先輩は相変わらずあまり顔を出さない。

 帰り際に三十分くらい来て、私に甘えて、そのあと送ってくれるくらいだ。

 手伝ってくれるし、朝は裏門の水やりをほとんどやってくれるからいいんだけど。


 どうにも先輩は穏やかで、あたりが柔らかいから、あれこれ押し付けられているっぽい。資材の買い出しや組み立て、デザインの相談とか、あれこれ頼まれると言っていた。

 たまには断りなよって思うけど、文化祭だからあれこれ楽しいのはわかるし、先輩がそれでいいなら、私が口を挟むことじゃない。


「つーか、花菜の甘え方が世菜そっくりだな」

「そうかな。あんなぐだぐだしてないよ」

「してるっつうの。世菜に甘えろ、世菜に」

「だって先輩、全然いないんだもん。……ていうか、あの人、私のことが好きなのかな?」

「俺に聞くなよ」


 藤也は嫌そうな顔をした。

 それはそうだけど、聞いて、好きだと言われても困る。

 「あらーやっぱり?」以外に言葉が出ないと思う。

 別に嫌いじゃないけど、なにしろ面倒だしな、あの人は。

 かわいいから許すけど、彼氏になるなら、もうちょいしゃんとしてほしい。かわいいだけの男はないと思う。

 ……先輩がそれだけの人じゃないのは、分かってるつもりだけど。


「つーか、あれで世菜がお前のこと好きじゃなかったら、俺は何も信じられねえよ」

「そんなに?」

「花菜のこと好きじゃないのに、俺に威嚇する意味がわからねえだろ」

「……そだね。やめなとは言ってるけど」

「あのな、世菜も花菜も俺にとってはかわいい後輩だからさ、嫌われたくねえんだよ」

「うん?」


 藤也が嫌そうな顔のまま、私を見下ろした。

 そして、私の顔を掴んで引き剥がす。


「だから離れろ。ぐだぐだ甘えるのは世菜にやれ」

「だって先輩いないんだもん!」

「お前が呼べば一分以内に来る。間違いない」

「そんな迷惑かけられないから!」

「俺に迷惑かけるのはいいのか!?」


 いいんじゃないかな、藤也だし。

 物心ついたときから、藤也も私もこの調子でぐだぐだとやりあってきた。一応、藤也の彼女がいるときは気をつけて距離を置いているけど。

 だからまあ、藤也がそう言うなら、そうなんだろう。

 ベンチに座り直してスマホを取り出した。

 先輩の名前を表示させて、


「今日は部活にきます?」


 とだけ送ると、藤也の言うとおり、一分も経たないうちに


「今日は来たよ」


 と、本人が来た。


「本当に来た」

「だろ? 思う存分甘えてやれ」

「しないよ。そんなこと」

「花菜が甘えたら世菜は喜ぶから」

 立ち上がって、世菜先輩と一緒に倉庫に向かった。