並んで歩くなら、あなたと

 九月の前半はずっとそんな感じだった。

 授業は普通に難しかったし、宿題も多かった。

 文化祭の準備で景品を用意したり、資材を買いに走ったり。


 部活の方は、夏休みの終わりに植えた苗の様子を確認するのがメインだったけど、文化祭に向けて校門周辺の掃除もしたし、校庭や校舎周りの花壇や、藤也(とうや)がいないときは中庭の手伝いもあった。


 授業がないぶん、土曜日が一番落ち着いていたけど、先輩の甘え方が前より激しくなっていた。


「先輩、邪魔なんですけど」


 裏門から学校の周りの街路樹や花壇に水やりをしている間、世菜先輩がぴったり隣にくっついていて、普通に邪魔だった。

 九月とはいえ残暑が厳しいのに、先輩がくっついているから暑くて仕方ない。


「久しぶりに来たら気が抜けて歩けない」

「じゃあもう私がやるから、そこに座っててください」

「それはダメです。ただでさえ、平日は任せきりなのに土曜日まで押しつけられないよ」

「じゃあ離れてください」

「やだ、寂しい!」

「子どもか!」


 しばらくにらみ合ったけど、こういうときに根負けするのは私なんだよな……。

 先輩は情けなくて鈍くさくて甘えたがりのくせに、頑固なんだ。

 あと、顔がかわいくてだめ。

 ムスッと睨んでいるけど、ふてくされたタヌキみたいでかわいいから、つい許しちゃう。


「もー、帰りに手をつなぐから」

「お昼も一緒に食べたい」

「それは無理です。ママが昼を用意してるし、午後はパパとおじいちゃんの手伝いする約束してるもの」

「ダメじゃん」

「そうです、ダメなんです。んー、じゃあ先輩、ちょっと、ここ座ってください」


 先輩を花壇の縁に座らせた。

 その脚の間に立って、頭を抱き寄せる。

 先輩が慌てているのは分かっていたけど、無視してふわふわの髪を撫でた。

 汗をかいていて、髪の中がほかほかしている。


「世菜先輩」

「う、うん」

「よしよし、お疲れなんですね」

「……うん」


 先輩の腕がさまよっている。

 しばらくして、そっと私の背中に手が乗った。


「文化祭、楽しみですね」

「そうかな」

「はい。楽しみにしてます。去年は桔花と蓮乃と三人で見学にきたんですよ」

「……知らなかった」

「高校の文化祭って楽しいんだなあって思ったんです。だから今度は自分が作る側で、忙しいけど楽しいです。世菜先輩のクラスも行きますから、うちのクラスも見に来てくださいね」

「うん。ごめん、かっこ悪くて」

「いいよ」


 先輩のふわふわの髪から、太陽と草の匂いがした。

 うちの畑と同じ匂いだ。

 少し名残惜しいけど、ゆっくり体を離した。


「水やりをしちゃいましょう。校庭の花壇の苗があんまり育ってないから、先輩も一緒に見てください」

「わかった」


 先輩の前髪をよけて、明るい茶色の瞳に私が映っていることを確認した。

 うん、大丈夫。

 そこに私がいる限り、忙しくても大変でも、頑張れる。