並んで歩くなら、あなたと

 夏休み明けはめちゃくちゃ忙しかった。


 文化祭が十月の頭にあるから、一か月で準備しないといけないし、部活も忙しい。

 校門に文化祭の門を立てるから、周辺の街路樹を剪定しないといけないし、花壇もきれいに整えたり、雑草も抜かないといけない。


 三年生の半分くらいは引退した後も顔を出してくれているけど、先輩たちだって自分のクラスの準備がある。それに受験勉強だってあるし、推薦で進学予定の先輩も放課後に論文や面接の練習があって忙しいみたい。


「うへ……」

「お疲れさま」


 夕方、その日の水やりや花壇の手入れを終えて中庭のベンチでぐったりしていたら、世菜(せな)先輩が隣に腰を下ろした。

 先輩はクラスの準備が忙しくて、部活にはあまり来ていない。

 来てもせいぜい最後の三十分くらいだ。


「ごめんね、任せきりになっちゃって」

「だいじょぶ……じゃないですけど、うちのクラスはまだそれほど忙しくないんです。私は前日の飾り付け担当ですし」

「そうかもだけど、その分部活の方をかなり負担してるだろ。任せちゃってる俺が言うのもアレだけど、無理しないで。文化祭当日に門の横にちょっと雑草生えてたって、文句言う人いないから」


 世菜先輩は困ったように笑った。

 そりゃ、そうだけどさ。

 でも、できることがあるのに、適当にはしたくなかった。

 花や草木の世話ならなおさらだ。


「そうですけど。でもパパ来るって言ってたし。私が手を抜いたら一瞬でバレますもん。ちゃんとしてないとこ、見せたくないんです」


 それに、藤也の親も来るし。

 花壇や街路樹に手抜きがあると、きっと私か須藤(すどう)兄妹が手抜きしたって藤乃(ふじの)くんに見抜かれる。

 それは嫌だ。

 かっこいい人に、かっこ悪いところを晒したくない。

 見栄っ張りだってわかってるけどさ。


花菜(かな)ちゃん」

「なんですか」

「よしよし、いる?」

「……いらない」


 ベンチから立ち上がった。

 カバンを肩にかけて、先輩の前に立った。


「世菜先輩、手、つないでほしいですか?」

「ほしいです。お願いします」

「しょうがないなー」


 手を差し出すと、先輩はふにゃっとした笑顔で手を重ねた。

 先輩の手を引いて、駐輪場まで向かう。

 自転車にまたがると、先輩は当たり前みたいに私を家まで送ってくれた。


「また明日、花菜ちゃん」

「はい、また明日、先輩」

「自転車だと手をつなげないから寂しいな」

「駐輪場までつないでたじゃないですか」

「そうだけど」

「また明日、朝の部活で」

「うん、朝迎えに来ていい?」

「恥ずかしいからダメ」


 先輩はしょんぼりした顔で帰っていった。