化粧室のドアを開けると、進行方向からやって来たのは裕美だ。
「すみません、今どきます──」
結衣は慌てて廊下の端に寄り、その場を立ち去ろうとする。
「横溝さん、待って」
裕美に呼び留められて、ドキッとした。
「はい、どうかされましたか?」
結衣は立ち止まると、にこっと作り笑いをして裕美のほうを向く。裕美は結衣を観察するようにじっと見つめる。
「横溝さんは随分と、浩斗に気に入られているみたいね」
「そんなことは──」
結衣はやんわりと否定しようとする。しかし、言い終わる前に裕美が再び口を開いた。
「でも、勘違いしないことね」
「え?」
「浩斗は合理的な人だから。ふと毛色が違うものに興味を持っても、結局は自分にとって一番メリットがある選択をするの。それはビジネスでもプライベートでも一緒」
裕美は結衣に、同情するかのような視線を向ける。
「あなたは浩斗に何かしてあげられるの?」
明らかな牽制に、言葉が出てこない。何かしてあげられるのかという問いの答えは「何もしてあげられません」だろう。
そもそも、結衣と浩人が親しくなったのはシェアラが不良品かどうかを賭けた勝負することになったからだ。
(小名木さんは美人だし、頭もいいし、ウィズンコーポレーションの社長令嬢としてサイバーメディエーションの後ろ盾になることもできる。だけど私は──)



