「ええ。大事な秘書ですから、普段から親しくしています」
結衣の代わりに、浩斗が答える。
「ふうん?」
裕美は納得したのかしてないのかわからないような相槌を打つ。
「ねえ、浩斗。チョコちゃんは元気にしてる?」
「ええ、変わりないですよ」
「久しぶりに会いたいわ。今もあのタワマンに住んでいるの? よくふたりで散歩させたわよね」
楽し気に思い出を語る裕美の言葉に、結衣はショックを受けた。
(そっか。付き合ってたんだから、家にも行くよね)
当たり前のことなのに、いざ裕美から聞くとすごく嫌だった。結衣が料理を作り、浩斗と一緒に映画を見たあの場所にも、彼女は頻繁に来ていたのだろうかと考えてしまう。
「すみません。私、お手洗いに行ってきますね」
結衣はにこりと微笑むと、その場を立った。
洗面所で手を洗った結衣は、鏡の中の自分を見つめる。
(仕事とはいえ、居心地悪いな)
思わず、はあっとため息が漏れる。
(あの態度……小名木さんは浩斗さんのことを、今も好きなのかな)
裕美はなにかと浩斗に親しげに接し、ときには甘えるような仕草を見せる。付き合っているときも、裕美はあんな風に浩斗に甘えていたのだろうかと思うとわけもなく苛立った。
(私、変だ。ただの秘書に、こんなこと思う資格なんてないのに)
浩斗が誰と付き合おうと結衣には関係ない。むしろ、裕美とよりを戻してくれればシェアラのベストパートナー判定が外れだと確定するので、結衣にとってはいい状況だ。
それなのに──心の中のもやもやが収まらない。
(大丈夫。まだ好きになってない)
自分にそう言い聞かせる一方で、どうしてこんなにもショックを受けるのだろうかと自問自答する。その答えはすぐそこにあるのに、それを明らかにするのが怖かった。



